世界の天使と悪魔に関する基本的情報を紹介「天使と悪魔」/ムー民のためのブックガイド
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毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、光り輝く美しさと高い地位を持ちながら、神の怒りを買って天界を追放され、悪魔となった天使を取りあげる。
本誌読者の皆さんは、「天使」という言葉を聞いて、どのようなイメージを心に抱くだろう。数多くの聖画だけでなく、絵画や彫刻など西洋の幾多の芸術作品、さらに外国のアニメなどの影響もあり、天使はなんとなくキリスト教に関係する存在と思っている方もおられるかもしれない。
しかし、ユダヤ・キリスト教に先行するゾロアスター教においても、フラワシと呼ばれる天使に相当する存在がいる。そのフラワシの概念が後の宗教にも引き継がれて、現在の天使の概念が定まったようだ。天使は通常、背中に大きな翼を持つ人間の姿で描かれるが、フラワシもまた、翼を持って鳥のように空を飛ぶと信じられていた。
民間信仰では、普通の天使の上に4人の大天使、ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルが君臨すると信じられているが、大天使の数はじつは7人という説もある。
しかし、教皇グレゴリウス1世(在位590〜604年)の時代に定められた「聖秩」と呼ばれる天使の分類によれば、天使には9つの階級がある。それによれば、最上位に位置するのはセラフィム(熾天使)と呼ばれる一団で、次がケルビム(智天使)、座天使、主天使、能天使、力天使、権天使、大天使、天使と続く。
セラフィムについては、『旧約聖書』の「イザヤ書」第6章でその姿が描かれている。それによれば、セラフィムは6枚の翼を持ち、2つをもって顔を覆い、2つをもって足を覆い、2つの翼を羽ばたいて主の御座の上を飛び交っていたという。
第2位となるケルビムについて、『旧約聖書』にはモーセの十戒を刻んだ石板を収めた聖櫃の上に、翼を伸ばしたケルビムの像が置かれたと記されている。また、預言者エゼキエルがケバル川のほとりで見た奇妙な動物のような存在も、キリスト教神学の解釈ではケルビムとされる。
ところで、この聖秩を見て奇妙なことに気づかないだろうか。そう、民間信仰では上位にあるとされる大天使の地位が、なんと下から2番目という低いものになっているのだ。
しかし、ミカエルやガブリエルは『聖書』の正典にも登場する権威ある天使である。そこで、彼らはじつは最上位のセラフィムに属するという説もある。
ところで、「あの人は天使のようだ」などということがある。そういうと、いかにも善良で優しく、穢れを知らない人、といった印象を受けるが、天使が必ずしも優しく慈悲深いものとは限らない。
キリスト教神学では、自然界のあらゆる現象、惑星や太陽の運行から海の満ち干、さらには雨や風など、自然界のあらゆる現象はそれを担当する天使が管理している。
さらに、「ヨハネの黙示録」に登場する7人の天使は、終末を告げるラッパを吹き鳴らすだけでなく、地上にさまざまな災いをもたらすし、ユダヤ教の伝承にあっては、神の決定に従ってソドムとゴモラを滅ぼしたのも天使である。
人が死ぬとき、その魂を肉体から引きだすのは死の天使の役目だ。イスラム教では、地獄で罪人の魂を痛めつけるムンカルとナキールという天使もいる。
つまりは、神の意思をその計画に従って細部まで忠実に実行する“有能な天界の公務員”ともいうべき存在が天使なのだ。
ところが、神に絶対の忠誠を誓うはずの天使たちの中にも、神に叛旗を翻して天を追放された者や、自らの意思で地上に降りた者たちがいる。堕天使と呼ばれる者たちだ。
自らの意思で天を降りた天使たちについては、『旧約聖書』の「創世記」第6章に簡単な記述がある。そこには「神の子らは、人の娘が美しいのを見て、おのおの選んだ者を妻にした」とだけあり、この「神の子」が人の娘に産ませたのがネフィリムであるという記述が続く。
しかし、旧約聖書外典の「エチオピア語エノク書」には、こうした天使たちの名前や事績、その後の運命について、一層詳しい記述がある。
そして、神に反逆して天を追われた堕天使たちもいる。その指導者とされるのがルシファーである。ルシファーという名称は、ヘブライ語の「ヘレル」をラテン語訳したもので「光をもたらす者」を意味し、明けの明星としての金星を表す言葉でもあった。
では、このルシファーはどのような天使であり、どういった理由で神に反逆したのだろう。その点に関しては、『旧約聖書』の正典にもいくつか関連する記述がある。
まず、「エゼキエル書」第28章第12節から第17節にかけて預言者エゼキエルが述べた言葉は、ルシファーについてのものだと考えられている。そこにはこうある。
「お前はあるべき姿を印象としたものであり知恵に満ち美しさの極みである。お前は神の園であるエデンにいた。あらゆる宝石がお前を包んでいた」
つまりルシファーは、なみいる天使たちの中でももっとも美しく光り輝き、他の天使たちを凌ぐ知恵を持っていた。
「エゼキエル書」はルシファーをケルビムのひとりとするが、一般には彼はセラフィムであり、通常のセラフィムが6枚の翼を持つのに対し、倍の12枚の翼を持つ。美しさだけでなく、勇気と気品にも満ち溢れ、神の右側に出ることを許された、もっとも信頼を得ていた大天使だったとされている。
そのルシファーが、なぜ神に逆らうような真似をしたのだろうか。「イザヤ書」第14章第13節および第14節は、その点に関してこう述べている。
「かつて、お前は心に思った。『わたしは天に上り王座を神の星よりも高く据え神々の集う北の果ての山に座し雲の頂に登っていと高き者のようになろう』と」
つまり、ルシファーは自分の美しさを誇るゆえにおごり高ぶり、神になりかわろうとしたというのだ。
ただ、旧約聖書偽典とされる「アダムとエバの生涯」には別の理由が記されている。それによれば、神が自分の姿に似せてアダムを創造したとき、天使たちに対し、「アダムに拝礼せよ」と命じた。しかし、ルシファーはその命令を拒み、仲間たちを集めて神に対する反乱を企てたのだということになっている。
「ヨハネの黙示録」第12章第7節から第9節は、このときの戦いの模様を、「天で戦いが起こった。ミカエルとその使いたちが、竜に戦いを挑んだのである。竜とその使いたちも応戦したが、勝てなかった」と記している。ここに竜と呼ばれているのが、ルシファーである。
こうしてルシファーの軍勢はミカエル率いる神の軍勢に破れ、全員が天から地上に投げ落とされた。
では、戦いに敗れ、地に落ちたルシファーはどうなったのだろう。地に落ちたルシファーは、かつての気高く美しい姿とはうって変わって醜い姿となり、以後「敵対する者」を意味する「サタン」と呼ばれるようになった。つまり、堕天使ルシファーのなれの果てが悪魔王サタンなのである。
天から追放されたルシファーことサタンであるが、その後ヘビに姿を変えてエデンの園に侵入し、自分が神に敵対する原因となったアダムとエバに復讐を試みる。
『旧約聖書』の「創世記」には、エバがヘビにそそのかされて、神から食べてはいけないといわれていた木の実を食べてしまうという物語が描かれている。この禁じられた木の実を食べたことがキリスト教においては人間の原罪とみなされるのだが、このときエバを誘惑したヘビこそ、姿を変えたサタンだったのだ。
こうしてアダムとエバが楽園から追放されるよう仕向けたサタンことルシファーであるが、その後も地獄に悪魔王国を作りあげ、神に対する信仰から人間を惑わせようと画策を続けているのだ。
じつはイスラム教の聖典である『コーラン』にも、ルシファーと同じように、神がアダムの前に跪くよう天使たちに命じたとき、それに従わなかった者について記されている。
『コーラン』において、この存在はイブリースと呼ばれているが、本当は天使ではなくジンであったとされている。ジンとはイスラム圏で一般に信じられている超自然的存在のことで、『コーラン』によれば天使は光から、人間は土から創造されたが、ジンは炎から創造され、普通の人間にはその姿は見えない。
また、預言者ムハンマドの言行録である「ハディース」によれば、強さに応じて5種類あり、一番弱いのがジャン、次にジン、続いてシャイターンで、その上のイフリートやマーリドはさまざまな神通力を持つ。
ジンは必ずしも邪悪な存在ではなく、善良な者もおり、人間同様キリスト教徒やイスラム教徒もいる。イスラム圏では現代も、こうしたジンを使役してさまざまな不思議を行う人間や、ジンと結婚した人間の話が信じられている。
ともあれ天を追放されたイブリースは邪悪なジンたちの頭目となり、人間を正しい信仰の道から外れさせるべく、日夜さまざまな悪事や災害を画策しているとされる。
つまりキリスト教においては、神に逆らった堕天使のなれの果てが悪魔なのだが、イスラム教においては邪悪なジンの一団がその役割を担っているのだ。
イスラム圏においても、キリスト教の悪魔祓いに相当する行為があるが、その多くの場合、人間に取り憑いた悪いジンを追いだすものと認識されているようだ。
宗教上では悪の象徴として忌み嫌われるルシファーだが、映画やドラマ、ゲームといった創作の世界では、美しさと力を兼ね備えた魅力的なキャラクターとして描かれることも多い。かつては最高位の天使として、神の愛と信頼を得ていたルシファーは、それだけ人々に強い印象を与える特別な存在なのだろう。
●参考資料=『新共同訳聖書』(日本聖書協会)、『天使と悪魔の大事典』(学研)
羽仁 礼
ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。
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