葬式に現れる怪異と故人の霊/都市伝説タイムトリップ

文=朝里樹 イラスト=本多翔

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    都市伝説には元ネタがあった。今回は、初七日にまつわる怪異を紹介。

    初七日の風習と仏教

     2024年7月12日、シェン・ダングイ監督の映画『呪葬』が日本でも公開される。台湾発のこの映画は、死者の魂が戻ってくるといわれる初七日の風習を元にした恐怖が描かれるという。
     シングルマザーの主人公、チュンファは優しかった祖父を最後に見送るため、娘のチンシャンとともに疎遠にしていた実家に戻るも、家族からは疎まれ、冷え切った関係に失望する。しかし祖父のため初七日まで実家に留まることを決める。そんなチュンファの元にさまざまな怪異が発生し、チンシャンとともに恐怖に巻き込まれていく、という内容だ。
     この映画にも登場する初七日とは仏教に基づく考え方で、日本でも初七日の風習は残っている。宗派にもよるものの、人が亡くなってから49日間、その故人は7日ごとに計7回、極楽浄土へ行けるかどうかの判決を受けるとされる。その最初の判決が行われるのが初七日で、故人が三途の川のほとりに到着する日ともいわれている。そのため初七日には故人が無事に三途の川を渡ることができるように法要を行うとされる。

     このように、葬儀や初七日の法要は死者を供養するためにある。しかし、こういった死に近しいものは得てして怪異が起きる場としても語られる。今回は葬式の場で起きた怪異について紹介しよう。

     たとえば2ちゃんねる(現5ちゃんねる)「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?統合スレ」に2008年6月に書き込まれた話では、報告者の祖母の葬式に現れた「がさがさ」なる謎の存在が語られている。

     それによれば、報告者が祖母の眠る仏間に一番近い部屋で眠っていたところ、鈴の音が聞こえ、だれかが砂利を踏みしめて家に近づくような音がした。報告者は祖母が最後の挨拶に来たのかと思ったが、現れたのは全身がかさぶた、もしくは鱗のようながさがさしたものに覆われたヒトガタの何かで、報告者は必死にそれを振り払って仏間の祖母の棺桶と壁の間に隠れた。
     そのうちに朝が来るとがさがさはいなくなっていたため、報告者は夢でも見たのかと思い、葬儀に参加したが、仏壇のほうに行くと、前日に報告者ががさがさから逃げて隠れた場所に、がさがさが報告者と同じ姿勢で座っていたという。がさがさは何をするわけでもなく、ただ報告者のほうを見つめていたが、その姿は報告者にしか見えなかった、と語られている。

     また、葬式の日に死者が現れたという話もある。木原浩勝・中山市朗著『新耳袋第七夜』にはこんな話が載っている。

     ある男性の友人の兄が亡くなり、男性が通夜に行った日のこと。その晩、男性がトイレの前に立つと、ドアが開いて亡くなったはずの友人の兄が出て「夜遅うまでたいへんやな、ありがとな」といって、ポンと肩を叩いた。 男性は「いえ、とんでもない」と恐縮してトイレに入ろうとしたが、そこではっと気づき、振り返ると友人の兄は深々と頭を下げて仏間に入っていくところだったという。

     このように、葬式の場には謎の存在も現れれば、故人が姿を現わすこともある。そしてそのような話はもちろん現代だけでなく、近代以前にも語られている。そのいくつかを紹介しよう。

    記録された異界の存在

     近代に民俗学者、文学者として活躍した佐々木喜善は、岩手県遠野に伝わる民話や伝説を柳田國男に伝え、柳田はそれを元に『遠野物語』を記したが、この『遠野物語』には喜善自身の体験として、彼の曾祖母が自分の葬式に生前そのままの姿で現れた様子が目撃された、という話が記されている。

     また、近世には葬儀の場で死体そのものが動き出したという話がいくつか記録されている。
     1663年に刊行された怪談集『曾呂利物語』には、関東の東岸寺という寺で主人の命に背いた侍が腹を切って死んだが、葬礼するため、この死体を棺に入れて安置していた。その場には僧が10人ほどいたが、僧たちが眠りについたころ、突然死人が棺の中から這い出して灯火のところに行き、まず紙を裂いて紙燭を作ると、それを使って油を舐った。そしてその紙蝋を寝ている僧の鼻に入れ、舐り出した。運よく起きていたふたりの僧はそれを見て慌てて逃げ出したが、戻ってみると侍の死体に舐られた僧たちは将棋倒しになって死んでいたという。
     同書には他にも「おちやあ」という女性の話も載せられている。おちやあは万事に情がなく、召使いを少しの事で折檻するような女性で、死んだ後、寺に死体が送られたが、仏前に置かれた棺が突然震え、おちやあの死体が立ち上がった。その姿は次第に変化し、目は輝き、髪は上に向かって伸びて行った。しかし寺の長老が引導を渡して弔うと、元の死骸に戻ったという。

     さらに遡れば、奈良時代に著された『日本書紀』には斉明天皇の葬儀に大笠を纏った鬼が現れ、山の上から葬儀を見つめていたという話が載せられている。この鬼は鎌倉時代に記された史書『愚管抄』になると、正体は蘇我蝦夷の霊だったと記されている。

     古来、葬儀の場にはさまざまな怪異が起きるとされている。また、悪人が死ぬと火車という妖怪が死体を奪いにくるという話も昔から語り継がれている。
     本来、葬式やそれに続く初七日は死者の無事を願い、残された人々が心の整理をつける場でもある。その場にこのような怪異を引き起こさないためにも生前から真っ当に生きることを心掛け、だれかの葬式を執り行う際には、きちんとした手順に則って、その冥福を祈るべきなのだろう。

    (月刊ムー 2024年8月号)

    朝里樹

    1990年北海道生まれ。公務員として働くかたわら、在野で都市伝説の収集・研究を行う。

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