「2028年までにマンモス復活」と米バイオ企業が発表! 今週のムー的ミステリーニュース7選
4月12~18日に世界を騒がせたオカルト・考古学・民俗学などの最新不思議ニュースから、超常現象情報研究所と編集部が厳選!
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デジタル化の進んだ現代、江戸人たちの絵は国立公文書館、国立国会図書館をはじめさまざまな施設が公開している。そうした史料をみていると、何を描いたものなのか判別しがたい「奇妙な絵」を発見できる。妖怪かUMAか、見間違いか? それらをひろいあげ、令和の世に送り出そう。
江戸時代は、じつに多くの絵が描かれた時代だった。絵師に限らず、武士や庶民など専業の画家でない人々も気軽に絵に親しんでいたのが江戸時代のおもしろさで、当時の日記や紀行文などをながめると、ノンプロ・セミプロたちの残した膨大な量の絵を楽しむことができる。
デジタル化の進んだ現代、江戸人たちの絵は国立公文書館、国立国会図書館をはじめさまざまな施設が公開するアーカイブで閲覧できるものも多いのだが、そうした史料をみていると、何を描いたものなのか判別しがたい「奇妙な絵」が意外なほどたくさんあり、それらが文字と文字のあいだにひっそりと埋もれていることに気づかされる。
そうした奇妙な絵をひろいあげ、令和の世に送り出そう。
初回である今回とりあげたい奇妙な絵はこちら。
「奇獣之図」と題されたもので、その名のとおりなんとも奇怪な獣の図が描かれている。どことなくゲームやアニメでおなじみの某モンスターをも思わせる色味だが、その脚と爪は異様に細長く、耳は巨大、口には上向きの牙が生えているのもみえる。
絵の周囲には「頭から尾までは9寸6分(約30cm)」「ノドと腹、4本の足の裏側には毛がない」など寸法と観察記録が細かく書き込まれている。
これだけでも不思議なものだが、さらに興味深いことに、この絵を載せている書物には絵とともに獣が発見されるに至った顛末が記されている。その書物『奇獣考』によれば、ことの次第はこうだ。(以下、筆者抄訳)
土州(土佐国、現在の高知県)長岡郡の汗見川村というところに、新作という百姓がいた。
その者が6月下旬に病にかかり乱心しはじめたのだが、このとき新作の妻が家のなかで奇妙な獣を発見した。夜中に松明を灯して屋内を探ると、炉の下に穴があり、そこからキジの子のような鳴き声が聞こえてくる。夜のことなので奥までは見えず翌朝あらためてそこを調べると、穴はつぶれてしまっていた。
7月14日の夜、同じ村の男が新作の家の前でこの獣をみつけ、近くにいた男と一緒に追いかけたが取り逃がしてしまう。そして同月23日、また別の男が新作の家の前で同じ獣を見つけ、石で打ち殺した。そして翌日、河原で焼いてしまったということだ。(午年の七月)
実話のような民話のような、何とも不可解な話だ。
『奇獣考』の著者は畑銀鶏という江戸時代後期の戯作者で、同書のはしがきによると、あるとき友人が珍しい本を手に入れたといって一冊の本をもってきたのだが、その内容があまりに面白かったために熟読したうえで自らの考察を加えて書き下ろしたのがこの『奇獣考』だという。つまり最初に同名の書物があり、それを熟読し、おそらく全てを書き写したうえで自説を加筆し完成させたのがこの本だということになる。
『奇獣考』のさらに面白いところは、図、経緯にとどまらず、この一件についての考察パートまでついていることだ。しかも、その考察に名を連ねるのは、筑前福岡藩10代藩主の黒田斉清、水戸藩を代表する本草学者である佐藤中陵といった当時の一流知識人たちなのである。
西洋の知見に通じ「蘭癖大名」の代表格とされ、かつ玄人はだしの本草学研究でも知られた黒田斉清は、奇獣について以下のような見解を示している。
土州の奇獣は犬神のうちサイトウと云、是をつかうをサイトウ遣いと云、所謂オホサキ、クダ等も犬神の一種なり
奇獣の正体を「犬神」だと断言しているのである。
犬神とは、土佐に伝わるいわゆる「憑き物」の一種。犬を飢えさせて首をはねるとその魂が犬神となって主人の意のままに動くのだなどといわれるが、この怪事が土佐で起こったことであり、男が乱心したこと、その男の家の周囲で何度も奇獣が目撃されたという話などを総合すると、斉清の説には説得力がある。
また銀鶏の友人で、最初にこの奇書を入手した人物とおぼしき原正巽も、
安芸の国に土瓶(とうびょう)あり蛇蠱なり、四国に犬神あり犬蠱なり、備前備後に猫神猿神あり、信州伊那郡にクダあり、上州南牧に大サキ(オサキ)あり皆一類なるべし
と、こちらも奇獣を犬神と想定したうえで各地の憑き物の類例を列挙している。トウビョウは主に中国地方につたわるヘビの憑き物。クダは管狐、オサキはオサキ狐などとも呼ばれ、いずれもキツネあるいはイタチのような形状をした憑き物とされる。
いっぽうで水戸藩屈指の本草学者・佐藤中陵(平三郎)は、この奇獣は漢名を風狸、和名でいうところのカマイタチだろうとの説を披露しているのだが、なんと銀鶏は大阪でこの図の奇獣とよく似た「カマイタチ」を実際に見たことがある、と本書に自らの体験談を記しているのだ。
銀鶏が大阪の難波新地を訪ねたとき、茶店で見世物として出されていたというのがその獣で、そこではたしかに「風生獣」すなわちカマイタチと呼ばれていたのだという。銀鶏は記憶に基づいてその姿を再現した絵も添えているのだが、全体的には「奇獣」に似ている(似せている?)ようにも思えるものの、細かく見ていくと違いも少なくない。
銀鶏によれば、見世物にされていたためかこの獣には気力もなく、眼光にも鋭さはなくウサギの目ようだったとか。尾の具合や垂れ下がった耳からすると、これは当時珍しかった西洋犬だったのではないかとも思えてくるが、ともかく銀鶏は「奇獣」について、犬神説、カマイタチ説の両論を検討していたようだ。
ところで、コピー機のなかった時代には、一点モノの書物を手元に残したい場合は銀鶏のように書き写して複製をつくるほかに方法がなかった。この「奇獣」も話題になり多くの模写を生んでいたようで、同様の絵は『奇獣考』のほかにもいくつかみることができる。
上の図は江戸時代、おそらく幕末頃に書かれたと思われる『幽香叢書』という雑記のなかにあったもの。ここにも『奇獣考』とまったく同じ土佐の怪事が記されているのだが、事件のおきたのは寛政三年(1791)だったとの情報が付け加えられている一方で、村の名前を「行見川村」とするなど多少の食い違いもある。「奇獣」の絵そのものをみると、毛並みの模様や不気味な顔立ちなどはこちらのほうが精緻でリアリティがあるようにもみえるが、そのあたりは模写の過程で写した人間のアレンジが加えられた可能性もあるので、一概にはいえないところ。
虎柄の縞模様、大きな耳、長細い手足という特徴をもった獣の図はこれだけにとどまらない。次の図は、岡本真古という武士が記した書『塵壺』のなかにある一枚だ。岡本は土佐藩士の家に生まれ、武士としての勤めを果たすかたわら国学者、土佐の郷土史家としても事績を残した人物である。
『塵壺』は、岡本が興味をもった物事について古今の情報をまとめた探究ノート、あるいは私家版の小百科事典といったようなものだが、「皮狐子図」と記されたこの図は同書のうちまさに「犬神」と題された項目に載せられていたものだ。
形状の細部こそやや異なるが、記された寸法などは「奇獣」とほぼ同様。またこの図も前後に解説の文が添えられている。達筆すぎて筆者の能力では判読できない部分が多いのだが、わかる部分だけでもどうにか拾い読みしてみると「弘化三年午七月」「汗見川村」「新作といふもの」「炉に穴をあけ出入りする」「雉子の子の」といった文字が確認できる。
これだけ一致点があれば、「皮狐子」もあの獣を描いたものだと考えて間違いないだろう。さらに図に書き添えられた表現の細かさや、事件の現場である土佐の郷土史専門家が編纂したものという点などを考慮すると、この絵こそが「奇獣」のオリジナル、あるいはそれに最も近いものだといえるのではないか。
『幽香叢書』の年号や地名はおそらくこれを写すときに生じた誤記、コピーミスなのだろう。じっさい土佐には「汗見川」という地名はあるが、「行見川」は存在しない。とすれば、「奇獣」にまつわる怪事がおこったのは午年である弘化三年、1846年が正しかったということになる。浦賀に黒船が出現する七年前のことである。
「皮狐子図」の獣は、動物としての奇妙さは少々薄れる感もあるが、ぎょろりとした目や生えそろった牙の様子はなんとも恐ろしい。また「皮狐子」とは中国での妖狐の名称で、人の姿に化けて人間をたぶらかすものだという。
これをもって「犬神」は実在の動物だったのだ!と言い切れるわけではないが、江戸時代、奇妙な獣をめぐる奇妙な事件があり、それを当時の人々が「犬神」だと考え、その説が賛同を得て広く知れ渡っていたことは疑いない、とはいえるだろう。キツネのようであり、犬のようにもみえ、どこかネズミにも近い……。いったい、この「奇獣」の正体はなんだったのだろうか。
じつはこれによく似た獣の図は他にも知られており、江戸幻獣研究の第一人者である湯本豪一氏の著書などにも紹介されている。氏の著書『日本の幻獣図譜』によれば、その図を包んだ懐紙にはやはり「土州奇獣之図」と書かれていたという。
鹿角崇彦
古文献リサーチ系ライター。天皇陵からローカルな皇族伝説、天皇が登場するマンガ作品まで天皇にまつわることを全方位的に探求する「ミサンザイ」代表。
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