有人火星探査のためにクマムシ人間に変身!? 困難すぎる宇宙旅行を可能にする秘策2つ/久野友萬
有人火星着陸に向けた構想をどんどん推し進めるNASA。しかし、本当に人類は火星に行けるのか、とてつもない難題の数々を解説。そして究極の対応策2つとは――!?
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サイエンスライター・久野友萬の新著『ヤバめの科学チートマニュアル』より、編集部が“ヤバめ”のテーマを厳選! 一部を抜粋して特別公開!
2023年10月、自衛隊が洋上でのレールガンの試射実験を行った。レールガンは電磁石を使って弾を打ち出す兵器だ。
電磁石を使って動くというとリニアモーターが思い浮かぶ。リニアモーターはリニア=平面のモーターだ。モーターは磁石で囲まれた円筒の中を電磁石が軸を中心に回転する。電磁石のN極とS極が高速で切り替わり、取り囲む磁石のN極・S極と引き合ったり反発したりを繰り返して、円筒形の電磁石が回転する。
モーターをばらして電磁石を広げて平らにし並べ、その上を磁石(リニアモーターの場合、こちらも電磁石を使う)が移動していくというのがリニアモーターだ。平らの電磁石の上をモーターの外側の永久磁石が移動する。
リニアモーターは電磁石同士の反発で浮き上がるので抵抗が少ない。だから移動部分は素早く動くことができる。工場で部品を次の工程に送ったり、自動ではんだ付けをしたりする精密なロボットの動作に使われている。
レールガンはリニアモーター同様に電磁石を使うものの、こちらはモーターではなく磁石の大砲だ。
中学校で習うフレミングの左手の法則を覚えているだろうか? 磁石のN極・S極と電流が直交すると直角方向に力が発生する。この力をローレンツ力と呼ぶ。意外と出てくる言葉なので、覚えておいて損はない。
レールガンはコイルを巻いた2本のレールに電流を流し、そのレール間に弾を置いてローレンツ力で発射する。その速度はロケット並みで秒速1~ 8キロメートル。ライフルの弾丸が秒速600 ~1000メートルなので桁違いに速いことがわかる。大気中で発射すると大気と弾丸の摩擦で空気がプラズマ化して燃え上がる。金属の弾では溶けるどころか蒸発してしまうため、高熱に耐えられるセラミックの弾丸が使われる。
破壊力は凄まじく、10センチ角の金属ブロックを貫通、ブロックは衝撃波で進入口の反対側がロート状にざっくりとえぐり取られる(銃弾でも、体の正面には弾口しかないのに、背中が吹き飛んでいたリする。モンロー効果という)。普通の艦艇の装甲板は軽く突き通す。
日本では兵器ではなくスペースデブリ、衛星軌道上のゴミ対策としてレールガンは研究されていた。宇宙空間を漂うゴミ=スペースデブリは毎秒数キロの速度で飛んでいる。衝突すればただでは済まない。そこでスペースデブリの衝突に耐えられる防壁の開発にレールガンが使われていたのだ。
レールガンは電気をバカみたいに使う。日本でスペースデブリ対策実験に使われていたレールガンは、世界最高レベルの秒速8キロをマークしていたが、数百世帯の電力をコンマ数秒で放出した。そのため一発撃つために必要な電力をコンデンサーに貯めるのに丸1日が必要で、とても連射できるようなものではなかった。また砲身も約10メートルもあり、それをくり抜くのに1週間かかった。わずかでもズレがあって、弾が砲身に触れたら大爆発が起きるため、わざわざ金属の棒を高精度でくり抜いて砲身としていた。しかしそうして時間をかけてくり抜く砲身も一度しか使えない。発射時に空気との摩擦でプラズマが発生、その高熱で溶けてしまうからだ。
実用試験中の自衛隊のレールガンは、そのあたりは考えられているようだが、扱いにくい兵器ではあるだろう。
レールガンの仲間には、電磁石のコイルの芯の部分を抜いて砲身にし、磁石の弾丸を飛ばすコイルガンや火薬の代わりに高電圧でプラズマを発生させ、その爆発力を使って弾を飛ばすサーマルガンがある。
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久野友萬(ひさのゆーまん)
サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。
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