墨田区本所が現代怪奇の舞台になる!「パラノマサイト FILE23 本所七不思議」の生々しき呪詛合戦

文=サン・ジェルマン伯爵2世

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    江戸怪談集「本所七不思議」の名を冠したホラーアドベンチャーゲームが話題沸騰。「呪詛」と「蘇りの秘術」が 人間の悲しき欲望をあぶり出す名作だ。

    呪い殺す段取りを呪詛バトルで表現

    『パラノマサイトFILE23本所七不思議』の魅力は、「本所を舞台とした呪い」と「文字を読みつつ選択を迫られるゲームシステムの表現」にある。
     夜中の本所エリアをさまよい、見回し、遭遇したほかの呪かしり主と呪詛合戦を繰り広げる緊迫感が、卓越したテキストと抒情あるグラフィックで自分事として迫ってくる。
     本作での呪いは「目の前から立ち去るものを溺死させる」「火器を持つ者を焼死させる」など、発動条件を踏んだ相手を呪殺する能力として描かれる。故に、相手の能力を会話から察知するなど、まるで儀式を経て呪詛を行使するかのような味わいがあるのだ。

     平安時代には大陰陽師・安倍晴明と仇敵・蘆屋道満が呪い合いを繰り広げたことが『宇治拾遺物語』にも記されているように、こうした呪い合戦の歴史は古い。だがかの晴明でさえ、「式神で蛙を屠れるのか」とたずねられた際には「殺せるが生き返らせるすべを知らないので、無益な殺生はしたくない」と断りを入れたと『今昔物語集』に記されている。
     だが生き返らせるすべは知らないと答えた晴明こそが、陰陽道の主祭神に中国は道教の冥界神「泰山府君」を祀った人物。「泰山府君祭」で死に瀕した高僧を救った記録も残されているなど、蘇りの秘術と陰陽道の関わりは平安の昔まで遡れるものでもあった。

    呪詛によって、死は容易に訪れる。

    ゲーム的な「やり直し」が蘇りの秘術につながる

     そして、物語をも遡れるストーリーチャートも存在しする。プレイヤーは登場する9人の運命や結末を変えることができる。
     泰山府君はすべての死者の行いと運命を記した「禄命簿」を持っていたという。禄命簿は物語にも登場するが、このストーリーチャートもまた、プレイヤーにとっては、ある種の登場人物たちの禄命簿のようなものと見立てられる。本作は、設定とゲームシステムが、陰陽併せ持つ大極図のごとく渾然一体となり、呪いとは何かを忘れた現代人を震撼せしめ、伝承と接続してくれる傑作なのである。

    霊能力ではなく条件が揃えば「呪い殺せる」ギミックが恐ろしい。
    作中には安倍晴明、蘆屋道満を思わせる陰陽師の伝説も語られる。

    『 パラノマサイト FILE23 本所七不思議』

    スクウェア・エニックス
    Nintendo Switch/Steam版 1,980円(税込)
    iOS/Android版 1,980円(税込)
    公式サイト https://www.jp.square-enix.com/paranormasight/
    80年代の東京都墨田区を舞台に、呪いの力を得た9人が各々の思惑をぶつけあう群像ホラーアドベンチャーゲーム。「蘇りの秘術」のために呪いを行使し、人を殺めざるを得ない葛藤と、重なり合う悲劇の行く末は……?

    © SQUARE ENIX

    (月刊ムー2023年11月号より)

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