映画『忌怪島/きかいじま』で心霊ホラーと民俗ホラーが融合する! 清水崇×吉田悠軌 対談
映画『『忌怪島/きかいじま』で描かれる異界と恐怖について、監督・清水崇とオカルト探偵・吉田悠軌が対談。島の民俗ホラーとVRで現出する心霊ホラーの両界にまたがる作品構造とは?
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都市伝説には元ネタがあった。もしも空想上の女房がリアル世界にあらわれたら……。
2023年6月16日、清水祟監督の最新作『忌怪島/きかいじま』が公開される。この映画ではVR研究チームの科学者が主人公で、VR、すなわち仮想現実世界から解き放たれた「赤い女」が織りなす恐怖が描かれるという。
そして実は現代に語られる都市伝説にも仮想の世界から現実に現れる女の話がある。2ちゃんねる(現5ちゃんねる)の「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?45」スレッドには、「笑う女」が現れる話が書き込まれている。
それによれば、ある学生の男性が友だちのAの家で心霊番組を見ていた際、いたずらを思いつき、Aの左肩の上の一点を凝視して「白目を向いて大口を開け、異様に笑っている女がいる」と告げた。直後、タイミングよくテレビから女の笑い声が聞こえたことでAが酷く怯えたため、男性は今の話は嘘だと教えたが、それ以降、Aが学校に来なくなった。それから数日後に男性のもとにAから電話がかかってきて、先日の話は本当に嘘だったのかとたずねた。
そこで理由を聞くと、あの日の夜、Aの夢に白目をむき、顎が外れんばかりに大口を開けながら異様に笑う女が現れたという。そしてここ2、3日は真夜中に目がさめたかと思うと、その女が自分の横で寝ながら「アッアッ!」と笑っているのだと話した。
その翌日、Aが笑顔で学校に来たため、男性はAの仕返しのいたずらだったのかと安堵たが、Aは女が「次はパパのところへ行くから」といっていたと男性につげた。
それでも男性はまだAのいたずらだと考えていたが、翌日、午前5時ごろに目を覚ますと、窓の外から「アッアッ!」という声が聞こえてきた。男性が窓を開くと、目の前の公園の入り口に人影が立っていた。
その人影は左右に揺れながら近づいてきたため、男性が窓を閉めた。そしてふりかえると、いつのまにか真っ白なワンピースを着た女がベッドの上に座っていた。その女の顔は、白目を剥き、顎が外れている、男性がAに語った化け物そのものだった。女は男性のほうに近づくととこうささやいた。
「わたしをつくってくれてありがとう」
以来、笑う女は男性のもとに現れていないという。
これはつくり話が現実と化した例だ。他にも「パソコン通信の怪」とよばれる話もある。
ある少女がパソコン通信でオリジナルの怪談を流行らせた。
その内容はある公園に行くと一人の少年がおり、「遊ぼ」という。
それに「いいよ」と答えると殺される、「やだよ」と答えると帰れるというものだったが、電子の世界で急速に広まってしまう。そしてある日の夕方、その公園に行くと本当に少年が遊んでいた。少女が近づくと少年が「遊ぼ」と問いかけてきたため、少女はそれが自分の創造した怪談と同じ展開であることに疑問を抱きつつ、「いいよ」と答えたところ、殺されてしまったという。
実はこの話には元ネタがある。1990年4月19日にフジテレビ「世にも奇妙な物語」にて放送された「噂のマキオ」という話だ。この話では現れる少年の名は「マキオ」とされているが、このマキオの怪談部分だけが現実で怪談化した「うわさのマキオ」という話もある。
テレビドラマから生まれた都市伝説であるから、二重の意味で架空から現実化した怪異といえるだろう。
このように創作された話が現実で広まった例としては、海外においてネット上で創作された怪異「スレンダーマン」が有名だろうか。2014年、スレンダーマンの実在を信じた少女ふたりが彼の手下になるためという理由で同級生を刺傷した「スレンダーマン刺傷事件」まで発生している。
さて、ここまで現代における架空の世界から現実化する怪異を見てきたが、実は昔話にも同じように架空から現実に出現する存在が語られている。その女は、2次元から3次元の世界に現れた。
ここで紹介するのは秋田県に伝わる「絵紙女房」という昔話だ。
昔、山奥に親に先立たれ、ひとりで暮らしている炭焼きの男がいた。男は貧しく、嫁も来なかったが、とても信心深く、秋の彼岸にお寺参りへと行き、如来を拝んでいると、横に美しい女を描いた絵紙があった。
男はそれがほしくなり、寺の和尚に頼むと貸してもらえることになった。男はそれを持ち帰って飯や茶を供えるなどして大切にした。それから5年がたち、ある日、男が仕事から家に帰ると、絵紙に描かれていた女が現実に現れて働いていた。男は喜び、やがてふたりは夫婦となって子どもも生まれた。
さらに5年たち、男が家に帰るのが遅くなって夜に山道を急いでいると、家から子どもの泣き声が聞こえた。慌てて家に入ると女の姿がなく、捜しても見つからなかった。
男は落ち込んだが、あの寺に行くと女の絵紙が本堂にかかっていた。その絵紙から声がして「私はいつでもここにいるから、会いたくなったらいつでも来てほしい」といって、またただの絵紙に戻ったのだという。
同じように絵から女が現れる話としては落語の『応挙の幽霊』がある。これは幽霊画で有名な円山応挙が描いた幽霊の掛け軸から幽霊が抜け出し、この掛け軸を売っている古道具屋と酒盛りをするという愉快な内容になっている。また、画家の月岡芳年は『芳年略画』という作品において、同じ「応挙の幽霊」という題で応挙が描いた女の幽霊が紙から飛びだし、応挙自身が驚いている絵を描いている。
このように、架空の世界から現実に現れる存在の話は多い。
もしかしたらあなたが架空の存在と思っているものが、目の前に現れることがあるかもしれない。
(月刊ムー2023年7月号掲載)
朝里樹
1990年北海道生まれ。公務員として働くかたわら、在野で都市伝説の収集・研究を行う。
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