「トミノの地獄」の禁忌が海外にも拡大! 死を誘う呪いの詩の都市伝説を考察/ 遠野そら
声に出して読んではいけない詩「トミノの地獄」。その都市伝説は海外にも波及している。詩や音楽にまつわる感染のタブーを解説する。
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中央アメリカの民間伝承に登場する“本家”ウマ娘とは? 長髪の美しい女性の後ろ姿に見惚れて思わずついていったが運の尽き、振り向いた彼女の頭部は馬の頭だったのだ――。
昨今の日本では競走馬を擬人化した「ウマ娘」が人気を博しているが、中央アメリカの民間伝承では実に魅惑的で美しい“本家”ウマ娘の存在が語り伝えられている。この興味深くも謎多きヒューマノイドの一般的な名称は「シグアナバ(siguanaba)」だ。シグアナバは、美しいロングヘアの馬の頭部を持った少女である。
シグアナバがあまり知られていない理由の1つは、彼女が非常に多くの異なる文化の民間伝承に登場しているためである。彼女はエルサルバドル、スペイン、グアテマラ、メキシコでそれぞれ微妙に異なる名前で、同じく微妙に異なるストーリーで語り伝えられていることから、それぞれがローカルでマイナーな伝承になってしまい、メジャー化しなかったといえそうだ。
標準的な物語は、ラ・スーシアという親孝行の少女が15歳の時、良家の出身で秀才の青年に見初められて交際をはじめ、やがて結婚することになるが、結婚式当日になって少女が洗礼を受けていないことがわかり、司祭によってご破算になるというもの。
ホンジュラスに伝わる伝承では、ラ・スーシアのフィアンセは非情にも彼女を捨てて別の女性と結婚してしまう。ショックを受けたラ・スーシアは正気を失い、汚れてボロボロのウエディングドレスを着て、当てもなくさまよい、やがて死んで美しい精霊となる。
魅力的な女性の姿をした精霊は、酔った男たちを川辺に誘い込んだところでシグアナバに変身する。振り向いた彼女の馬の頭を見た男たちは恐怖におののき、川に飛び込んで溺れ死ぬか、あるいは発狂して廃人になったという。
また、エルサルバドルでのストーリーではシグアナバは最初、美しい女性を意味する「シウエウエット」として登場する。シウエウエットは農民の出身でありながら、その類まれな美貌と魔術を使ってサクセスストーリーを積み上げて、女王にまで登り詰めた成功者であった。そして彼女には王である夫には内緒でつき合う愛人がいた。
そして夫が戦地へ赴き不在の中、シウエウエットは愛人との逢瀬を重ねて、ついに愛人の子供を産むことになる。
シウエウエットはこの愛人に王位を継がせたいと企み、トラロックという神の息子であり王位継承者のエイスンを魔法の薬を使って毒殺し、恋人の王位継承権をでっち上げる謀略に出た。
しかし、死んだかに見えたエイスンは復讐の鬼となり、2つの頭を持つ凶暴で巨大なモンスターに姿を変えて宮殿を襲ったのだ。それでも優秀な衛兵たちは奮闘してなんとかその怪物を倒し絶命させた。
ところが、トラロック神がその怪物が自分の息子であることに気づくとともに謀略の一部始終を知って激怒し、シウエウエットの姿を馬の頭を持つシグアナバに変えて宮殿から追放した。
野に放たれたシグアナバは、美しい女性として酔って夜道を歩く男たちを誘惑して人里離れた場所に誘い込み、その後に恐ろしい馬の頭を見せつけてから彼らを殺すのであった。
グアテマラのシグアナバは、川のほとりで長い金髪を金のボウルで洗い、金の櫛でとかしている美しい女性として語られている。
川辺に佇む美しい彼女の姿を見た男たち、特に酒を飲んでほろ酔いの男たちは、彼女の元を素通りすることはできなかった。
シグアナバは男たちを地元のゴミ捨て場に誘い込み、そこで恐ろしい馬の頭を持つ正体を見せつけて恐怖に陥れたのだった。男たちの中には恐怖のあまり死亡する者もいたという。
また、メキシコではシグアナバに多くの呼び名があり、それぞれ少し違ったビジュアルとストーリーを持っているのだが、彼女が最終的にどのような姿になるにせよ、メキシコのシグアナバは常に美しい女性として描かれている。
そして、やはり夜道を歩く男たちを誘惑して油断させたところで、恐ろしい正体を見せつけるのである。反省して赦しを乞う男たちは放免するも、悔い改めない男たちは恐怖のあまり死亡するか発狂するという。
ニカラグアのシグアナバは特に危険である。彼女は恋人に酷く裏切られた体験を持ち、遊び人や女たらしへの復讐に燃えた恐怖のウマ娘として描かれている。
美しい若い娘の姿で夜道をうろつく男たちを誘惑して少しばかりのスキンシップを繰り広げた後、その正体を見せつけて男たちを恐怖のどん底に引き落とすのである。
彼女は悪魔と契約し、身体を厳めしい骸骨の馬の姿に変えることができる。男たちを死に至らしめることは少ないが、男の顔を噛んで傷跡を残すという。
パナマでのシグアナバは、恋人に裏切られて自殺した女性「エンポレラーダの女」のさまよう魂として描かれ、ニカラグアのケースと同様に酔っ払いや女たらしの男を罰するといわれている。しかし、その頭部は馬の頭ではなく、人間のドクロである。
彼女はきわめて美しいが同時にどこか不気味で、整った身なりの女性として描写されていて、彼女は夜道で男が乗る馬や自動車をヒッチハイクするという。
彼女を乗せた男が道を進み、しばらくして若い女性を好色な目で見ようと振り向くと、彼女の頭部は身も凍るような恐ろしいドクロに変わっていて男たちを恐怖に陥れるのである。
馬の頭をした正体を見せるシグアナバは、基本的に浮気者や不倫をする男性を懲らしめる恐怖の“シェイプシフター”である。なぜ中央アメリカでこれほど多くのシグアナバ伝承が残されているのだろうか。この地の男性は浮気しやすいということなのか。それともこの地の女性の復讐心が強いことのあらわれなのか。
いずれにせよ世界の伝説上のモンスター、UMA、ヒューマノイド、獣人、そして“シェイプシフター”のリストにこのシグアナバを加えると共に、決して不倫や浮気はしないようにしたい。
【参考】
https://mysteriousuniverse.org/2023/04/Siguanaba-the-Horse-Headed-Creature-of-Central-America-/
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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