「すずめの戸締まり」呪術的考察(1)土地神と人間の切ない交感はいかに描かれたか?
新海誠監督の最高傑作の呼び声も高い新作「すずめの戸締まり」。本作の基本テーマとして描かれるのは"土地鎮め(地鎮)"だ。 では、土地鎮めのプロフェッショナルは、本作をどう観るのか? 各地で地鎮を実践する
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九州発祥の嶽啓道の護符には、神霊パワーが宿るという。謎めいた文字、絵文字の霊力とはいかなるものk
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今回、本誌(月刊ムー2023年6月号)の付録用に、占呪術師、あるいは日本で唯一のプロまじない師である麒 麟氏(以下き りん師)に護符を謹製いただいた。
これらは、師のいう嶽啓道の術式にのっとって書かれたものである。
*護符の本体をお求めの場合は、紙版の月刊ムー2023年6月号をお買い求めください。
毛筆によるその筆致(書きぶり、筆運びの趣)に目を奪われる。密教で用いられる梵字やイスラームのカリグラフィーにもやや似ているが、もちろんそれらとは異なる。これはいったい何なのか。
「文字ではない絵文字といえるものかもしれません」と、きりん師。
「わたしが教えを受けた嶽啓道の『ばあちゃん』たちのなかには、目の見えない人、四肢がうまく動かせない人、文字を学んでいない人たちがほとんどでした。そういう環境で生まれ、練り上げられ、継承されてきたまじない符なのです」
ちなみに、嶽啓道とは、「洞(ほら)」と呼ばれる場をベースに、特定の神社、寺院に属さず、土着の信仰とまじない術法を教え継いだ民俗宗教である。
それは、その地域の特定の女性(師のいう『ばあちゃん』)たちのあいだでのみ継承された教えと術法であり、いわゆる精霊(お蔭さま)を介し、土地神などと交渉する独自のものである。しかしながら、門外不出の強い秘匿性をもち、口伝のみで伝えられ、文字化されることはなかったため、ほとんど知られておらず、資料も残っていないという。
そんな嶽啓道において、相談者のために発出されていたのがこの護符だ。
「まじない符は、いわば、精霊や土地神の姿や動きを模したもの。いい換えれば、よい運気・悪しき障りともにもたらすお蔭さま(精霊)へのメッセージです。お蔭さまを称え、ねぎらい、元気にはたらいていただくようにうながす一方、障りを和らげ、関係を修復し、ときには封印するはたらきをもちます」
つまり、この護符によって、その人をとりまく環境(に影響を与えるさまざまなお蔭さま)にはたらきかけ、運気を好転させ、さまざまな災厄を抑えるとともに、本来あるべき状態を生み出すことが可能になると、き りん師はいう。
き りん師によれば、嶽啓道の護符には目的に応じたさまざまな用法があるようだ。
そのひとつが、土用のなごみまじない符。
これは有縁の方々に向けて、年4回の土用(立春、立夏、立秋、立冬前の18〜19日間)、つまり季節の変わり目に合わせて授与するものだ。
「嶽啓道(嶽たけ洞ほら)の洞さま(土地神)に、春夏秋冬ごとに、次の季節の土用に合わせた凡用符をくださいとお願いする。すると、そういう“形”をくれる。これを使いなさいと。要は、紙の上に洞さまがあらわしてくれるんです。ですから、私はそれを追いかけてなぞっていくんですね」
凡用符とは、どの土地でもおおよそ(凡そ)用立てることが可能な、要となるまじない符とのこと。同様の筆致のものが一軒あたり20枚書かれ、それを受けた人は、師から送られた「お灰やお香」とともに一日1枚ずつ焼いていく。すると、「その土地にあった目に見えない“ 巳さん”になって家に棲みだす」のだという。
もうひとつが、施主(依頼者)と術師とのあいだだけで取り交わさた護符。
「基本、求められても出すとはかぎりません。悩み事や相談事に応じて、適切だと感じたものにだけ出してくれるようです」
それを判断するのが洞さまということなのだろうか。
「そうです。人間の都合じゃない。もっといえば、洞さまの都合と、その方(依頼者)のお蔭さまとのリンクがないと出てくれないんです。それに、護符を出したらそれで問題ないかといえばそうではなく、ご本人がどのぐらいのそこに対する努力と精進があるかによっても結果は変わってくる
んです」
ところで気になるのは、それぞれの符にあらわれる不思議な筆致は何を意味しているのかだ。
「本音をいえば……」とき りん師はいう。
「これ何ですか? と聞かれれば、それはあなたが知らなくていいことだと。あなたの願いに応じてあらわれたもので、いわば、向こうのお蔭さまたちの言語を文字化したもの。その“人間語訳”は発展していないので(微笑)。ただ。これを持っておくと、いろいろなところのお蔭さまに入って話が通じるみたいですよ」
今回は、「ムー」読者の護符として9枚ほどをご用意いただいた。
「この中からどれを掲載したいか、本田さん選んでみてくださ
い」とき りん師。
思わぬ提案である。このうち1枚は、「『接ぎ木呪符』の心柱になるもの」として、残り8枚から選べと師はいう。
師によれば、「心柱符」に加え、「それに付随して、『お出かけしたい子いらっしゃい!』の呼びかけであらわれた眷属たちが、それぞれの紙に“入った”もの」であるという。
「これらは、まさに先の『精霊や土地神の姿や動きを模したもの』で、まさに『宿りもの』なので、私の意志はゼロに近いんです」(き りん師)
つまり今回の護符は、あくまで師が意図やねらいをもって“創作”したものではなく、あらわれ出たものを師が写したものとなる。
「じゃあ、これは何? と聞かれれば、符にあらわれた形そのものに眷属(精霊)さんの魔力や呪力が宿っていると理解してもらうのがいいでしょう。それも、今この機会にあらわれた二度とないものです」
筆者(本田)はやや困惑したものの、筆さばきの特徴や全体のイメージから気になったものを4枚選ばせていただいた。
それにしても、世にアートとしての書道はあるが、それとは本質的に似て非なるものだ。でありながら、それぞれイメージをかき立ててやまない目を見張る筆致である。しかも、それぞれまったく別人の筆跡のように見える。やはり、き りん師が“書いた”というより、何かがそこに“宿った”というこ
となのだろうか。
ともあれ、今回の護符のねらいは、「あなたの心柱に精霊のはたらきを接ぎ木して、開運・幸運へと導く護符」である。読者の利用に供するために、師の助言を受けながら、できるだけ“接ぎ木呪符”の意義とはたらきを解読してみよう。命名は筆者によるものだ。
まずは「心柱符」。き りん師によれば、この符は「心柱」、つまりあなたの土台となるもの(植物の接ぎ木でいう台木)だという。
「どんな人にとっても支えになるものですし、本来のご自身が動きやすくなる。本来の自分が出しやすくなる。まず、土台の木があってこその接ぎ木ですから。ここが調えば、ほかの4つが接ぎやすく(添いやすく)なる。要は、この『心柱符』は自分なんですね。そしてさらに、接ぎ木するための接着剤にもなるんです」
「アピールの接ぎ木府」は軽やかにスピンを繰り返すような筆致。軽快で、見ていて気分が浮き立つ印象だ。
「美しいですよね。線は繊細なんだけども、一筆描きとしては途切れがなく、自身の美学(美意識)を調えるにはすごくいい。自分の美しさ、表現力を接ぎ木する符です。この表現力は、自身のアピールにつながる。自分を知ってもらう、または気づいてもらえる。つまり、人から選択してもらえる人になる。ですので、仕事で抜擢されたり、面接に合格したり。恋愛だったら、好きな人に気づいてもらう……そんな願望に添うものです」
いっぽう「宝袋の接ぎ木符」は、流麗な筆致ながら、安定感と、整った落ち着きと豊かさを思わせる。
「これは、今あるベースから財が殖える、貯まる相。具体的には、貯金を増やす財領符。いわば宝袋の護符で、今ある種銭を増やすというイメージ。こちらを接ぎ木すれば、受け皿になるものが大きくなり、たとえば今の仕事がより安定して結果お金が増える。サラリーマンだったら出世するといった方
向に向かう。何かに投資をしてリターンを得るというより、貯めるほう。貯蓄を増やしたい人にはいいでしょう」
次の「霊感の接ぎ木符」は、書画アートを思わせる芸術的な筆致が印象的だ。
「これは、インスピレーションを与える護符ですね。こちらを接ぎ木すれば、いいアイデアが浮かぶ。創作系の人にはとてもいい護符です。あと、営業職の人なら、上手く勘どころをつかまえられる。また、インスピレーションがはたらくことで、悪い人と付き合わなくなる。人選びが上手になる。場合によっては、ほしいものの情報が入りやすくなる。人間関係やモノゴト関係といった関係性の部分によい影響を与える護符になります」
最後の「活動力の接ぎ木符」は、何者かが跳ねているような、そんなエネルギッシュな筆致だ。
「馬に乗って駆け抜けているような相ですね。これ、火のエネルギーが強いです。燃えるような勢い。これを持ったら忙しくなりますよ。結果、これを持っている人は稼ぎだしますよ。目的・目標のある人にとっては、まさに一願成就を勝ち取りにいく護符ですね。圧倒的な勢いが接ぎ木されます」
「接ぎ木呪符」の呪法は、いわば自分自身の「心柱」に“接ぎ木”をしっかりと添わせ、豊かな枝葉を繁らせるためにある。それはつまり、洞の神さま由来の眷属(精霊)たちとつながり、そのはたらきを借りて自分自身をパワーアップさせていくことである。
そのためのコツをき りん師にご教授願おう。
嶽啓道では、よく「なじませる」「沁みこませる」といいますが、この護符はどのようになじませたらいいでしょう?
「基本は、日々観ること、そして身近に持っておくこと。これは絶対です」
心柱と接ぎ木とがありますが、接ぎ木の方法としては、どれかをひとつ選んだほうがいいのでしょうか?
「そうですね。そして、ひとつ選んだら最低でも2か月ほど捧持するというのをベースにするといいですよね。つまり「心柱符」とどれか。このふたつをセットにして。
その持ち方は、表裏にしたほうがいいのか、重ねたほうがいいのか?
「重ねてもいいですし、表裏でもいい。どちらが上でも下でもいい。それは本人の好みです」
考え方としては、自分のベース(心柱)と接ぎ木の護符であると。4種のどれを選ぶかは、自分の願望しだいであると。あと、符のお姿、形にかれて選ぶというのもありですか?
「そうですね。自分のインスピレーションで選ぶのでもいいでしょう」
この場合、必ず一対で持っておくと。1対2とか、1対3にはしないほうがいい?
「できればそれはしない。忙しくなるから大変だと思う。よく、『ひとり一願』といいますよね。神社やお寺も、あまりあれやこれやの祈願をいっぺんにしないほうがいいといいます。それぞれに御礼参りをするのも大変になるし、やることも増えますから」
ひとつの接ぎ木をしっかり「なじませる」のが重要ということですね。
「そう。ただし、持っておくだけではなく、『肉を動かす』というのがその前提にあります。よく『行動習慣を変えるには最低3か月かかる』といいますね。
1か月だと気力でなんとかなる、2か月目ぐらいになるとサボりはじめたり、挫折しはじめる。そこを越えて頑張ると、3か月ぐらいからは習慣になるという。それと同じです。祈願祈禱も、セオリーはやっぱり3か月なんですよ。だから、それぞれ3か月周期で4枚を順に用いてもいいかも。するとちょうど1年間。もちろん、習慣づいたら3か月以上持ちつづけてもいい」
どのように持ち歩く、あるいは身につけるといいのか。置いておくのでもいいのか?
「カバンの中でも、手帳に挟んておくのも可です。重要なことは、1日一回は必ず見るところにあること。ですから、家の中で過ごすことが多い人は、机の上に置いておくといい。これは人の目に触れてもぜんせん問題ないですから。ただし、自分の秘めたる願望を叶えたい人は、パスケースや免許証、保険証などと一緒に納めておくという持ち方もありです」
よりしっかりと「なじませる」ための「まじない言葉」があれば教えてください。
「まずは、『なじみませ』が鉄板ですね。では以下、心柱符・接ぎ木符とご本人との繋ぎをつくるまじない言葉をひとつ伝授しましょう。
〈あたらにおこし とつなぎませ〉
つなぎやどりて なじみませ
われにやどりて なじみませ
以上です。
タイミングとしては、心柱符+接ぎ木符一枚をセットにして奉持するときに唱える。あとは毎日、目にする際に1日一度はお唱えするとよいですね。セットしたら最低1か月は組み合わせを替えずに所持です。理想は3か月。3か月替えないと、それなりに丈夫に接木されます。
また、接ぎ木をコロコロ替えると、何かの弾みにポロっと取れることもありますし、交換を何回もくり返すと、心柱が傷んで、接木するところが弱くなり、しっかりと一体化するのに半年以上の時間がかかることもあれば、最悪接ぎ木ができないこともあります」
あとは、その人の心がけ?
「そう。ズボラをするとズボラがなじみますから(笑)。やると決めたら、やるを続けてみてください。多少休憩するときがあってもいいけど、やるを前提に。やらないんだったら持たないでと」
あと、身近に持ち、あることを意識するのも大事ですよね。
「でも、結果、行動がすべてなんですよ。これに対してどう動くかによって、護符がはたらいてくれるかどうかが決まる。だから、願望基準ではなく、弱点克服の護符として用いる方法もありです。たとえば、いつも一歩踏み出せないでいるという人が、活動力の接ぎ木符を持って勇気を出す。そんなきっかけとなれば、接ぎ木の価値が出るわけです。
接ぎ木はちょっとでも努力する人に作用する。このことを肝に銘じましょう」
本田不二雄
ノンフィクションライター、神仏探偵あるいは神木探偵の異名でも知られる。神社や仏像など、日本の神仏世界の魅力を伝える書籍・雑誌の編集制作に携わる。
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