沖縄県伊良部島のパワースポット「ヌドクビアブ」探訪! 鍾乳洞とガジュマルが育んだ秘境の地下空洞へ/うえまつそう
怪談師・YouTuberのうえまつそうがパワースポットを訪問。沖縄県伊良部島の知られざる聖地は、ひたすらに心地いい空間だった!
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ベトナムの大衆宗教「カオダイ教」は、フランス占領下時代に独立を目指す勢力として活動していた。そこには、知られざる日本軍との共闘の歴史があった。
1940年当時、ベトナムとラオス、カンボジアにまたがる地域はフランス領インドシナ、略して仏印と呼ばれていた。
宗主国フランスはナチスドイツの侵攻を受けて樹立した親独ヴィシー政権の時代。占領した中国領土から中・仏印国境には日本軍が兵を進めており、武力を背景に日本軍の「平和進駐」を果たす。当時の日本は長引く日中戦争の原因は英米の蒋介石軍支援にありとみなし、その補給路を断つと同時に東南アジア支配の橋頭堡を築き、その資源を獲得するための日本軍進駐だった。
カオダイ教の教祖となったファン・コン・タックは若きころ、ベトナムの独立を目指す革命家ファン・ボイ・チャウらに共鳴し、彼の主導する「東遊(ドンズー)運動」なかで、日本への留学を志した。ベトナムがフランスのくびきを解き放ち、西欧列強に伍する強国となるために、独立を保ち、清国やロシアなどの大国にも怯まず戦いをいどむ日本に学ぼうという志だっただろう。だが当時のフランス植民地政府の妨害にあって彼の願いは果たせず、やむを得ず植民地政府の官僚の道を選ばざるを得なかった。
タックが教祖であるカオダイ教では降霊術を行い、神託を授かる。この当時の降霊術でも、ベトナムのフランスからの独立と救国を求め、そのために日本の役割に期待するべしーーという神託があったという。
日本軍の進駐はベトナムほか東南アジア地域では大東亜共栄圏構想の一環としてとらえられており、植民地状態からの解放という夢を日本に期待した人々があったのも事実だ。それは英領インドやビルマ、蘭領インドなどにもみられた。同様にここベトナムにも親日独立派が複数存在した。日本軍の北部仏印進駐に合わせて蜂起した独立派もあった。しかし「平和進駐」をうたい、親独派政権となったフランスと事を構えることをよしとしなかった日本軍は軍事的な占領は行わず、フランスの植民地政府は温存、「静謐保持」を建前としたのだ。
この時点で日本はベトナムの独立派の期待を裏切ったと理解した人々もあったが、引き続き日本軍によってベトナムが解放されると信じて疑わなかった人々もあった。
日本軍の駐留によって、その支援を受ける親日派が自らに対して行動を起こすことを危惧したフランス植民地政府は、独立諸派の弾圧を強める。当時200万人もの信徒を有するカオダイ教も彼らの脅威に映ったのだろう、植民地政府に対する反乱をカオダイ教が主導したという理由で、タックをはじめとする主流派教団幹部を突如逮捕し、マダガスカル島に流刑にしたのだ。1941年のことだ。
タックが流刑されている間に教団内で実力を発揮したのは高位幹部の一人であったチャン・クアン・ヴィンだった。
阮朝を創始したグエン・アインの末裔の王子クオンデは、フランスからのベトナム独立の際に国王として擁立すべく日本国内に匿われていた。日本軍は親日独立派を味方につけるため、自らの進駐の目的をベトナムの解放と独立であることを匂わせて、当時ベトナム人の間で人気のあったクオンデ侯を次代の国王最右翼に位置づけていたのだ。
ヴィンは日本軍の力を背景に、クオンデ侯を擁立し独立を目指す越南復国同盟会のメンバーに加わる。それによって、フランスの弾圧から教団を救い、ベトナムを救おうとしたのだ。
1942年、ヴィンは二人の日本軍の憲兵と会合を持ち、「日本軍がカオダイ教団を保護する代わりに教団側は日本軍に協力する、具体的には情報提供する」という密約を結んだ。教団側は信徒を使って、ベトナム植民地政府の組織図や植民地軍の基地の場所や兵数、兵器、ガソリン、弾薬の保管場所、外交公館を出入りする人数、車両数、国籍などを逐次日本軍に報告していたという。
1944年に入って米英軍によるサイゴンへの空爆が激しくなると、軍需産業、中でも造船工場での労働者が不足した。そこで日本軍はカオダイ教団に労働者の組織を要請し、それに応えて教団側は信徒三千名以上の人員を提供した。彼らは「無償」で働き、日本軍向けに軍用船を製造した。資材は三井物産が提供したという。日本軍は教団側に一艘につき20〜35万ピアストルを支払ったという。当時1円は1ピアストルに相当した。現在の通貨価値にしたら一艘数千万円ということになる。
日本軍は信徒の陸海軍への加入も求めていた。求めに応じてカオダイ教団は義勇軍の編成にあたった。多くの青年たちが参加した。造船所の労働者に対しては竹槍による軍事訓練を施し、軍事学校まで開設して諜報、偵察、待ち伏せ攻撃や都市陥落、肉薄戦などの技術をも学ばせた。
1944年8月、パリが解放され、ドゴールが英国からフランスに戻り、親独ヴィシー政権の閣僚は逮捕された。提督ドクーはドゴール派とみなされていて、いつ日本に反旗を翻すかもわからない。同時期に太平洋に浮かぶレイテ島も米軍によって奪還され、日本を巡る戦況は日増しに悪化する。
日本軍は仏印の武力処理、つまりフランス植民地政府と軍を武力によって制圧し、自らに都合の良い政権を樹立することを企図し、実行した。「明号作戦」である。1945年3月9日のことだ。
カオダイ教団はこの軍事クーデターに参加した。決起への応募者は2万人を超えたという。2、3ヶ月前から準備され、諜報班は活動を強め、義勇軍の訓練も厳しく行われた。宣伝班が組織され、放送局の軍事占領時の代替要員が準備された。造船所の工員たちへの竹槍も十分な量が準備された。
そして3月9日夜、インドシナ総督府での松本俊一特命大使とドクー提督との会談が行われた。しかし日本側の要求は入れられず決裂、同時にインドシナ全土で銃声が鳴り響き、クーデターは開始された。ドクーは最初の逮捕者となった。
計画通りクーデターに呼応したカオダイ軍は攻城と反乱を呼びかけ、フランス人を捕縛した。翌3月10日朝、フランス植民地政府の官公署や兵営には白の上下の衣服に白いツバの舟型軍帽を頭にし、手には竹槍を掲げたカオダイ兵が警戒にあたる姿が見られた。
100年近いフランスの支配が一夜にして瓦解したのだ。カオダイ教の威信が高まったのは当然だろう。
しかし、その後の顚末はカオダイ教側にとって思惑どおりではなかった。
阮朝の王子クオンデは日本から帰国せず、日本軍を後ろ盾にして、国民から人気のない、フランスかぶれのバオダイが元首となり、歴史学の教師であったチャン・チョン・キムを首班とする内閣が発足した。名称は「ベトナム帝国」となった。
当時南部ベトナム労働党のトップであったチャン・ヴァン・ザウは3月9日の事件を次のように語っている。
「9日夜、カオダイ教の兵士5000名が日本軍数千名と共に街の兵営を取り囲み、フランス軍は降伏した。数日後、親日派に迷わされていたサイゴン市民数千名は『黄色人種の長兄』たる日本に歓声をあげてデモを行った。
クーデター後は工場や病院などに技師や医者としてフランス人を残したが、フランスの役人たちはすべてベトナム人にかわった。だが、彼らベトナム人はフランス人官僚の手先でしかない人々だった。
もっとも失望したのはカオダイ教徒たちだった。日本に亡命しているクオンデ候がフエに戻って南中北部統一大南帝国を建設するはずだったものが、北中部はバオダイ帝を王にすえて統治し、南部は台湾、朝鮮、琉球と同じように日本の領土とし、フランス総督にかわってコーチシナ総督にミノダ氏が座っただけだった」(チャン・ヴァン・ザウ回想1940〜1945)
その後、日本は戦争に負け、ホーチミン率いるベトミンが政権を奪取し、1945年9月2日、日本の降伏文書調印が米海軍の戦艦ミズーリ号上で行われた日にハノイで独立宣言を発表し、臨時革命政府を樹立する。
ビルマやインドネシアではその後日本軍から一時は支援を受けた指導者であるアウンサンやスカルノが独立を勝ち取るが、ベトナムでは共産主義者とみなされる党派が独立を果たしたために冷戦の中でフランスやアメリカと独立のために戦わざるを得なくなった。カオダイ教もその歴史の中で翻弄され今に至っている。
カオダイ教の日本軍との協力の歴史は秘められた「秘史」であると同時に悲劇の「悲史」でもある。
もしも、である。明号作戦でのクーデターの後、クオンデ侯が国家元首となっていたら。カオダイ教を国教とする親日政権の国家が誕生し、それはともすれば、太平洋戦争の顚末に影響を与えただろうか? カオダイの天眼は、そんな未来を見たかもしれないのだ。
新妻東一
ベトナム在住でメディアコーディネート、ライター、通訳・翻訳などに従事。ベトナムと日本の近現代史、特に仏領インドシナ、仏印進駐時代の美術・文化交流史、鉄道史に通じる。配偶者はベトナム人。
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