巳さんを身(巳)につけ、財運を向上させる! 巳年の金運向上術/嶽啓道巳年財運まじない

文=本田 不二雄(神仏探偵)/取材協力=麒麟(嶽啓道杜頭)

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    巳年の本年、今年こそはと財運・金運アップを祈願する方々も多いようだ。 そこで本号では、みずからを「巳様信仰者」と称する嶽啓道・き りん(麒麟)師に依頼し、特別なまじない符を揮毫いただいた。

    ヘビのウロコを畏れ、崇めた太古のヒトの記憶

     ところで、「巳さん」とは何者か。
    『説文』(最古の漢字字典)によれば、「巳(み)」の字はヘビの象形といい、胎児の象形とも考えられている。また、巳を用いた形成文字(意味を表す文字と音を表す文字を組み合わせた文字)の「祀」は、神をまつる(祀る/祭る)の意味で、「示」は神をまつる台、「巳」は神としてのヘビの象形という。
     つまり、神まつりの原イメージは、ヘビを祀り崇めることにあったようだ。
     余談だが、近年、アメリカの人類学者が提唱した「ヘビ検出理論」が注目を集めている。ざっくりいえば、〈霊長類がほかの動物より脳が大きくなったのは、ヘビを早く見つけて身を守るために視覚野を発達させたから〉という学説だ。一見トンデモ説のようだが、現在、認知科学による多くの実験結果によってその説は支持されている。
     どういうことか。〈2足歩行を始めてヒトになる以前、樹上生活を営んでいた先祖らにとって、生命を脅かす天敵がヘビであり、それを早く見つけられる先祖が生き残り、今につづいている〉ということらしい(名古屋大学・川合伸幸教授による)。
     では、ヘビのどこに脳が反応し、認識していたのか。川合教授によれば、実験の結果「ヘビのウロコに敏感に反応している」ことが判明したという。
     実に興味深いではないか。
     原始、ヒトに災厄をもたらす恐るべきちからをカミと崇め、その祟りを鎮めるためにカミ祀りが始まった。その原点が「ヘビの祭祀」であり、そして今も、そのウロコを財運のラッキーアイテムとしてありがたく奉持している。
     それはどうやら、ヒト以前の古い記憶にさかのぼり、以来連綿とDNAに刷り込まれた感性に由来するようなのだ。

    まじないに織り込まれたヘビ由来の生態と行動とは

    「ただし、生き物のヘビと巳さんはちがいます」
     き りん師はそう釘を刺す。形はヘビだが、あくまで巳さんは“ヘビの精”であり、見えざる霊的存在である。嶽啓道の文脈では、巳さんとは霊格が上がったヘビ由来の精霊であり、それが神上がりして龍神になるとしている。
     ともあれ、人をして畏怖の感情を呼び覚まさせ、驚きを与えてやまないヘビの生態を、呪術(まじない)を扱う人たちが注目しないわけがなかった。
    「ヘビは自分より大きいものを(うまく上顎と下顎を外して)丸呑みし、全部を食いつくします。好物のタマゴはいったん呑み込んで、胴体でそれをグシャッと潰して、いらない殻をペッと吐き出すのですが、それは白い小判のような形をしていて、そこから“小判を吐き出す”財運の象徴とされています。嶽啓道にも、洞土地で飼っているヘビにタマゴを定期的に食べさせて、出てきた殻で作法する呪法がありします」(きりん師)
     そして何より注目すべきは、その脱皮である。信仰のうえでは、脱皮の前に水中に入る生態から、陸生ながら水界に精通する水神として崇められるいっぽう、再生と更新をくり返す生命力と財運の“しるし”として、その抜け殻(脱皮)が珍重されている。
    「そのウロコは、別名“ゼニワラジ”といって、小判状のウロコの連なりが たわわに実ったイネを思わせ、銭と財を象徴する実(巳)さんそのものとみなされます」(き りん師)

    脱皮の生態こそ財袋を豊かにする秘訣

     さて、今回のまじないの眼目は、「書符の巳さんを身(巳)につけ、財運向上」である。ここでいう「巳につける」とは、ヘビ由来の巳さんの習性や能力にあやかり、財を「身につける」ことをも意図している。
    「ヘビは巣穴に籠っていますが、実は手足がないために自分で穴を掘って潜ることはできません。だから、ネズミなどがつくった穴にうまく入りこむ。西洋では、ヘビは盗む、奪うといったずる賢い知恵の象徴・象意とされますが、事実、自分の力を最小限にしてスキを突くのが上手い」「それに、生き物としてすごいセンサーをもっています。特徴的な蛇の目(二重の同心円からなる眼球)はあまり見えていないようですが、そのぶん、頭部前面に感覚器が集中していて、嗅覚や温感など幅広い情報を受け取っている。よく鼻が利く(商いの嗅覚がすぐれている)などとといいますけど、五感を超えた部分で『おカネの匂いがする』とか『空気を察知する』のは、巳さんが得意とするところです」(き りん師)
     もとはヘビがみずから生き残るために身につけた、状況判断や危機察知の能力だったのだろう。ともあれ、「巳さんを身につけ」れば、人間が退化させてしまったそれら野生の感覚を「身(巳)につけ」、ヘビのように聡く立ち回ることができるかもしれない。
     そして、ヘビは定期的に脱皮をくり返す。
     そのさまを観察すると、数か月ごとに行われる脱皮にさいし、平均2週間ほどの時間を費やして準備を行うという。そして無事脱皮が完了しても、また次のルーティーンが始まる。ずる賢い知恵を発揮するいっぽう、成長のための営みを律義にくり返しているのだ。こうして、ヘビは何度も生まれ変わり、みずからの体を大きくしていく。
     この絶え間ない営みが、財袋を大きく豊かにするための学びだと、き りん師はいう。
    「自給自足をしなくなり、何でもおカネさえあれば手に入る時代。現代人は自分の“脱皮と育成”に時間と手間ひまをかけることがなくなっていますからね」
     だからこそ、「巳さんを身(巳)につけ」、財運向上を目指したいものである。

    「白蛇様」として貴ばれているアオダイショウのアルビノ。まばたきをしない真っ赤な蛇の目が印象的。
    アオダイショウの抜け殻(脱皮)。規則的に切れ目なく配されたウロコの紋様そのものが豊かな財の象徴とされている(きりん堂提供)。
    き りん師(まじない屋きりん堂店主)。九州の島で営まれていた土着民俗宗教・嶽啓道の最後の継承者。

    (月刊ムー 2025年3月号)

    本田不二雄

    ノンフィクションライター、神仏探偵あるいは神木探偵の異名でも知られる。神社や仏像など、日本の神仏世界の魅力を伝える書籍・雑誌の編集制作に携わる。

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