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お盆の時期、先祖信仰の深奥と、ご先祖様との正しいつながり方を知るべく民俗信仰と呪術のエキスパート・まじない屋き りん堂店主・き りん師にご教授願おう。
「先祖供養」という言葉に、どのようなイメージを抱くだろうか。
まずは言葉の意味を調べてみよう。
「供養」とは、「敬意をもってねんごろにもてなすこと」(『岩波仏教事典』)。つまり先祖供養とは、先祖に対して敬意をもってもてなすことだ。
もてなすとは、①仏壇の位牌に花やご飯をあげ、線香をあげる。②墓参りをする。③お盆の行事(ご先祖様を自宅に呼び入れ、送り出す)をする。④年や月の忌日に僧侶などを招いて法要を営むことなどを意味している。
いずれも、伝統的な慣習にもとづいて行われるものだが、実家住まいではない人は、家に仏壇もなく、盆行事や墓参りをする機会も少なくなってきている。なにしろ、近年では墓を建てないという選択をする人も増えてきた。
そうなると、「先祖を供養する」という意識が希薄になっていくのは時代の趨勢かもしれない。
しかしひとたび何かが起こり、意識が一変することがある。
端的には、親の死に直面した場合だ。それにともない、墓はどうするか、実家の家じまいに際して仏壇や位牌をどうするか、先祖の墓はだれが面倒を見るのかなどの判断にも迫られる。
それ以上に、当人の欠落感、落ち込みが激しい場合もある。突然の親の死に際して、思いもよらない心身の不調があらわれることもある。すると急に、仏壇をちゃんとしていなかったとかが気になりだす。
「年齢でいえば50を過ぎたあたり。お寺詣でや護摩の法要の際に、そんな年代の方と出くわすことが多い。聞けばたいてい『親が亡くなって』という。親の死をきっかけで宗教と向き合うようになった人は、思いのほか多いんですね。それも、『今まで何もやってこなかった』人ほど、急に修行に目覚めたり、霊能の世界に惹かれるようになったりする。そんな例が多いですね」(き りん師)
一方で、自分や家族が思いもよらぬ不幸に遭ったとき――。
たとえば、不意にガンなどの病気になったり、ありえないような事故に遭ったり、家族に不幸が立てつづけに起きたときなどなど。受け入れがたい現実を直面したとき、人は何かしらの原因があるのではと思いはじめる。そんなとき、とある人から「先祖供養をしてないんじゃないですか」とアドバイスされたらどう思うか。
状況が状況だけに、その言葉は思いのほか“刺さる”かもしれない。
ちなみに、『世界大百科事典』(旧版)の「祟り」の項にこんな記述がある。
「今日の新宗教運動の多くが、現在の不幸や病気の原因を先祖の霊の祟りの作用であると説明し、その祟りの消除のため先祖供養を勧めている」
ここで浮上するのが、「先祖供養をしないと祟る」という殺し文句だ。
このキラーワードの根底にあるのは、先祖が成仏できたか否かが、子孫の幸福に関わっているとする考え方だ。
つまり、先祖霊が後悔を引きずったままであったり、怨みを抱いたり、抱かれたりしたまま亡くなっていたりすれば、子孫がその報いを受けるというロジックである。
「成仏」といっても、この先祖観は仏教というよりむしろ儒教的な思想によるものだが、ともあれ、古来、家の存続を何より優先してきた社会では、一族を揺るがす背後力学として一定の説得力をもちつづけてきた。そんなことは意識したことはない現代人も「気になってしまう」のは、この先祖観が日本人のDNAに染みついているからだろう。
「呪いの文脈では、よく『7代まで祟ってやる』といいますが、7代といえば、自分を起点にして、両親(1代前)、その両親(祖父母/2代前)、さらに3代、4代とつづいて7代前。2の7乗(2×2×2×2×2×2×2)なので、直系だけを数えても128人にものぼります」(きりん師)
この“7代”が何に由来するのかはよくわからないが、これは先祖祭祀でどこまでさかのぼるかのひとつの目安かもしれない。
そして先述のごとく、一部の新宗教教団や寺院は先祖供養を盛んに勧誘している。ここで問題なのは、それが金集めの道具になっていると思しき状況だ。「ひとり(の先祖)あたり10万円とか。『7代前からのそういう悪いものがあるかもしれないから、その人数分の御供養をやったほうがいいですよ』となるんですね」(き りん師)
ちなみに、ある教団の場合、「霊界で苦しむ先祖たち数百代(!)の先祖解怨」を求めているという。ここで「供養」でなく、「解怨(先祖の怨みを解くこと)」としているが、その名目で高額献金を要求しているとのことである。
ここまでくると、先祖への強迫観念につけこんだ搾取と疑われても致し方ないだろう。
こうした“悪弊”はさておき、き りん師の話を聞こう。
寺院・神社の伝統宗教の枠外にあって、新宗教教団とは一線を画する、民俗土着の民間宗教・嶽啓道では、先祖と自分との関係をどう考えるか。
「嶽啓道では、『先祖は私である』と考えます」と きりん師。
どういうことか。師の答えはシンプルである。「だって、(先祖と自分は)つながっていますから」
いうまでもなく、自分は父と母の“血を分けて”この世に生まれている。両親それぞれもまたしかり。さかのぼっていけば、無数の先祖たちの“血”が自分の内にあると考えることもできる。当たり前といえば当たり前のセオリーである。
「だから、自分が悲しいしきときはご先祖さまも辛いし悲しい。また、子孫が苦しんでいれば、当然自分(先祖)も苦しい。自分が傷ついているときはご先祖様も傷ついている」
「自分の子供が苦しんでいれば、親だったら代わってあげたいと思う。同じように、この世にいなくなった先祖もそう思う(と考える)。ただそこに肉(身)があるのかないのかのちがいだけです」
重要なことは、先祖とは(ときに祟るかもしれない)“他者”ではなく、自分を形づくっている無数の存在であると自覚することだろう。
「だから、先祖供養はだれのためにやるの? といったら、結局のところ自分のためになってくるんですよね」(き りん師)
(月刊ムー 2024年9月号)
本田不二雄
ノンフィクションライター、神仏探偵あるいは神木探偵の異名でも知られる。神社や仏像など、日本の神仏世界の魅力を伝える書籍・雑誌の編集制作に携わる。
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