全宇宙を知る世界樹からカバラの根本図象へ…「生命の樹」の基礎知識/松田アフラ
古代には創成から終焉までを知る象徴として、近代では神の内的世界を顕す逆さ吊りの大樹として描かれた「生命の樹」の基礎知識。
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古代エジプトの重要シンボルを解説。始源の交点と拡大の円からなる「アンク十字」と、太陽も象徴する再生と叡智の眼、「ホルスの眼」について。
古代エジプトにおける生命の象徴である「アンク」(ラテン語名は「クルクス・アンサタ」)。その形態は、T字形の上に楕円形、もしくは卵の形が乗ったものである。
「アンク」という語自体が古代エジプト語で「生命」の意味で、この図形はそのままエジプトのヒエログリフで「アンク」という音を示す表音文字としても使われる。有名な「ツタンカーメン」(トト・アンク・アメン)という王名にもアンクが埋め込まれている。
またエジプトの壁画では、さまざまな神がこのアンクの卵形の部分を摑んでいる姿がよく描かれるが、これは死後の人間に新たな生を与えることを象徴しているとされる。
この象徴の起源は審らかにはされていないが、エジプト学の権威ウォーリス・バッジはそれが「遙かなる昔に護符として用いられたものを一定の簡略化した形で表しているように思われる」と述べ、『アニのパピルス』に見られる複雑な図形(テトと呼ばれる柱、アンク、2本の腕、日輪)をその一例として示している。
一説によれば、アンクは男性原理(T字)と女性原理(卵)の結合のシンボルであり、ゆえに生命のシンボルとされるようになったのだという。
また、アンクの卵形と十字という形そのものに深遠な観念が表されているという説もある。この形は万物の始源の点であるT字の交点から、生命の本質である円が生じて拡大して行くさまを示しており、こうして拡大した生命の本質はやがて上昇し、無限へと向かうというものだ。
さらに別の説では、これは魔法の結び目を表したもので、特定の元素の組み合わせを結びつけてひとりの人間を構成するという。小宇宙たる人間と大宇宙の照応という観点から見れば、アンクの楕円は人間の頭もしくは理性、横線は両腕、縦線は身体として、ひとりの人間(小宇宙)を表す。同時に、楕円が太陽、縦線が空、横線が大地であって大宇宙の象徴でもある。
古代エジプトのアンクは、エジプトの初期キリスト教であるコプト教に受け継がれ、「救い主の死という犠牲と引き替えに人間に与えられた永遠の生命」の象徴となった。
「おおラー神よ、トート神はウジャトをもたらし給い、そが去りし後は休ませ給えり。そは嵐にいたく悩まされたれども、トート神はそが嵐より逃れし後は休ませ給えり。我は健やか、ウジャトも健やかなり」
これは有名な古代エジプトの葬祭文書である『死者の書』の第167章に記された呪文の一節である。これを唱えることにより、死者はウジャト、すなわち「ホルスの眼」の力をわが物とすることができるとされている。
ホルスは鷹の姿で表される古代エジプトの神である。神話によれば彼は冥界神オシリスとその妹である女神イシスの息子で、悪神セトの手によって父オシリスが殺害されると、自ら父の仇を討ってセトを倒し、エジプトの統治者となった。
この戦いの際に左眼を失うが、後にその眼は広くエジプトを旅して知見を得た後、ホルスの元に戻り、叡智神トートによって癒されたという。こうして再生した彼の眼は「ウジャト(健全なるもの)」と呼ばれるようになった。前述の『死者の書』の呪文はこの逸話を背景としている。
その後、ホルスはオシリスの復活を願ってこの眼を献げた。ゆえにホルスの眼は犠牲、治癒、再生、保護の象徴とされる。
元来、天空神であったことから、ホルスのふたつの眼は太陽(右眼)および月(左眼)と同一視された。太陽と月は光の根源であり、光は知性と霊性の象徴であることから、古来、眼によってものを「見る」という行為自体が霊的な営為であり、人間の悟性を象徴すると考えられてきた。
ゆえにホルスの眼は「万物照覧の眼」、すなわち光と生命の熱を与える可視の太陽であると同時に、人間に霊的な火、知性を与える至高存在の隠喩でもある。
かくしてホルスの眼はそれ自体が信仰の対象となり、聖なる護符として崇拝されるに至った。古代エジプト学の泰斗であるウォーリス・バッジは、ウジャトの護符は「夏至における太陽」を表しており、その目的は「それを身に着ける者に、その最盛時の季節における太陽と同じ強さと健康をもたらすことにあった」と述べている。
松田アフラ
オカルト、魔術、神秘思想などに詳しいライター。
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