全宇宙を知る世界樹からカバラの根本図象へ…「生命の樹」の基礎知識/松田アフラ
古代には創成から終焉までを知る象徴として、近代では神の内的世界を顕す逆さ吊りの大樹として描かれた「生命の樹」の基礎知識。
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魔術的用法を前提に制作された「トート・タロット」。今回は、その用法をもうひとつご紹介する。カードをじっと見つめて瞑想し、その世界へ没入してさまざまな体験をするという「パス・ワーキング」だ。
以前の記事で、トート・タロットの魔術的用法のひとつである「スクライング」について述べたが、それ以外にもうひとつ有名な魔術的用法がある。カバラでいう「生命の樹」を用いた瞑想法、パス・ワーキングだ。
下に掲げた「生命の樹」をご覧いただきたい。
10個の丸いセフィラーを22本の径(パス)がつないでいるのがわかる。このパスを利用して、神秘家や魔術師たちは、さまざまな瞑想を行う。そのなかでもパス・ワーキングは、タロットの大アルカナを用いてパスの性質そのものを五感で体験するという、ダイレクトな瞑想法である。
トート・タロットの大アルカナには、ユング心理学でいうところの元型的な図形が多用されている。そのため、カラフルで(!)深い瞑想状態に入りやすいのだ。
なお、スクライングとは異なり、パス・ワーキングの歴史は浅い。
記録をたどるかぎり、19世紀後半に結成されたイギリスの魔術結社ゴールデン・ドーンによって構築された魔術技法であることは、ほぼ間違いない。クロウリーもゴールデン・ドーンのテクニックを学んでいるので、彼が制作したトートも、パス・ワーキングに向いた仕様になっている。
パス・ワーキングとスクライングは、静かにカードを見つめるという点で、テクニックがよく似ている。ただ、パス・ワーキングは、スクライングより深く精神をカードに投入する。そのため、五感を通してさまざまな神秘体験ができるのだ。
たとえば、そこで出会ったものに触れたり、生き物と交流したり、においをかいだり、食べ物を味わったりすることが可能になる。
また、生命の樹というシンボルを用いることもプラスに作用する。生命の樹は、数百年の長きにわたり、数えきれないほどの人々が瞑想を重ねてきたツールである。占星術もそうだが、使いこまれたシンボルというのは、安定した効果をもたらしてくれることが多いのだ。
じつは、このパス・ワーキングで訪れるのは、アストラル界だ。
静かな部屋で、自分が選んだ大アルカナを見つめ、自分の意識の中で大アルカナのカーテンをくぐって、向こう側に出ていくのだ。そこから先は、タロットの絵柄にそったイメージの世界が展開されていく。向こう側の世界では、カードのカーテンをくぐった術者自身が主人公である。したがって、術者が抱いている問題、疑問、トラウマ、未来への希望といったさまざまな事柄が実体化し、強烈な体験となって迫ってくる。それだけに、実践者に大きな変化をもたらす瞑想になるのだ。
パス・ワーキングは、きわめて個人的な技法なので、だれもが異なった体験をするが、参考までに、ある女性が「万物」のカードを用いてパス・ワーキングをしたときのヴィジョンを公開しておこう。個人の精神世界を保護するため、具体的な名称などは入れ替えてあることをご了承願いたい。
——彼女は、「万物」のカードを5分ほど見つめてから、そのカーテンをくぐり抜けた。このカーテンはビーズをつないだかのような質感でどっしりと重たく、骨身に沁みるほど冷たい。
カーテンの向こうには赤茶色の鳥居がいくつも続く、とても日本的な参道があった。
ただ、通常の神社の参道とは異なり、鳥居は下り道に連なっている。
鳥居自体も、「万物」のカードに対応する「タウ」の文字になっている。
~~中略~~
参道は地下へ、地下へと進んでいき、道も狭く、ぬかるんでいる。
だが、その先に何かがあり、とても大切な何かが待ち受けているという確信がひたすら強くなっていく~~中略~~
さて、またもやいくつかの疑問点が発生したと思うが、じつはトート・タロットの各カードは、ヘブライ文字や惑星をはじめ、さまざまな象徴との結びつきが定められている。
彼女が用いた「万物」に対応するヘブライ文字は「タウ」で、惑星は土星だ。土星には、冷たい、重たいという象意があるため、カーテンがそのように感じられたのである。
パス・ワーキングを行う際、そのカードに合った象徴が登場したら、瞑想が正しく行われているサインだ。カードの女神が登場していることといい、このパス・ワーキングから、彼女が大きな啓示を受けたことが想像できる。
最後に、筆者自身が魔術修行をはじめたころの体験を語ることにしよう。
当時は「女帝」のパス・ワーキングを何度も試みていたが、どうしてもうまくいかなかった。カードのカーテンを通り抜けるまではなんとかなるのだが、その向こう側はいつも灰色の靄(もや)に包まれていて、何も感じられないのだ。
こうした灰色の靄は、アストラル界の原材料のようなものだから恐れることはないのだが、このままではパス・ワーキングが成り立たない。
そんな悩みを当時の指導者に相談したところ、時間をそろえて一緒に「女帝」のパスに入ってみようと提案された。
地球の反対側にいる指導者と同時にパス・ワーキングをしたら、何かが変わるのだろうか。半信半疑な気分のまま、指定された時間に女帝のカーテンをくぐった……すると今度は、深い緑に彩られた草原と、蔦(つた)の絡んだ巨木の門が私を出迎えてくれたではないか!
草原も門も、女帝のカードに対応した象徴なので、安心して門をくぐり、その先へ歩むことができた。
そしてパスの終点には、ローブをまとった指導者の姿と、なぜ私がこのパスを歩けなかったのかという答えが待っていたのである……。そこでの洞察が、その後の魔術修行に大きな意味をもたらしたことは、いうまでもないだろう。
ヘイズ中村
魔女・魔術師・占い師・翻訳家。中学生頃から本格的に西洋密儀思想の研究を開始。その後、複数の欧米魔術団体に参入し、学習と修行の道に入る。現在はタロットを使った魔術的技法に関する本を執筆しながら、講座などでの身近な人との触れあいを大切に活動中。
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