ヴァイキングの守護神が豊かさをもたらす!/ヘイズ中村の「オーディンの開運魔術」第1回
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20世紀最大の魔術師、アレイスター・クロウリーが生みだした「トート・タロット」は、占いのみならず、魔術的な作業全般に広く使える。今回はそのひとつ、カードをじっと見つめていると、そこに描かれた人物が動くという不思議な技法「スクライング」をご紹介する。
ある占い師のもとに、妙齢の女性から「今つきあっている彼の態度がはっきりしない」という悩みが持ち込まれた。彼女のほうは、そろそろ結婚を意識しているのだが、彼のほうには他の女性の影がちらついているため、このままでは不安だということだった。
さっそく占い師がトート・タロットを並べてみると、最終結果を示す位置に「恋人」のカードが出た。
これだけを見ると好ましい結果のように思えるかもしれないが、トート・タロットにおける恋人の意味は「選択」であるため、ふたりが相思相愛だという単純な読み方はできない。
そこで占い師は、結果を示すカードの手前に出ている3枚の人物札に着目した。カップ(聖杯)のプリンス、ディスク(円盤)のクイーン、ワンド(杖)のクイーンである。
プリンスが1枚でクイーンが2枚ということは、男性がひとり、女性がふたりと読める。どうやら相談者の心配は当たっているようで、三角関係が発生していると読めた。
では、どのカードがだれに当たるのだろうか。
プリンスは、問題となっている「彼」だ。相談者は、とても堅実な感じの女性なので、そのような象意を持つディスクのクイーンだろう。だとするとワンドのクイーンは、もうひとりの女性だ。ワンドの性質は「火」なので、おそらく活発なタイプだと思われた。
だが、この情報だけでは十分なアドバイスができない。
そこで、さらに深いリーディングをするために、占い師はこれら3枚のカードを取りだし、プリンスを中心に並べ直して、カードに意識と視線を集中した。
すると、2枚のクイーンの表情が、微妙に変化しはじめた。
相談者を表すディスクのクイーンは、隣接するプリンスのカード越しに、もうひとりの女性を表すワンドのクイーンを睨みはじめた。一方、ワンドのクイーンのほうは睨み返すわけでもなく、「あらまあ」といわんばかりに、肩をすくめるような様子を見せたのだ。
この三角関係において自分の勝利を確信しているのか、それとも、真剣勝負をするほどの思い入れはないという意味なのか……。
そこで今度は、彼を表すカップのプリンスだけに意識と視線を向けてみた。するとプリンスは、自分が手にしたカップを眺めて、楽しげにほほえむのみ。どちらのクイーンにも視線を向けず、体勢を変えることもなかった。
このことから、彼はまだまだ趣味を中心とした自由気ままな生活を楽しみたいと思っており、どちらの女性とも結婚する気はないとわかった。 さらに、恋敵の女性については、真剣に彼を思っているわけではないので、相談者が正面切って対峙する必要はないことが理解できた。
占い師は、相談者に対して、このように実りのなさそうな関係を続けるのか、もっと真面目な異性を探すべきなのかを「選択」する時期が来ていると、結果を告げた。
ーーさて、ここまでスルスルと占いの経過を説明したが、おそらく読者諸氏の頭の中は「?」のオンパレードだろう。
カードに描かれた人物が他のカードの人物を睨みつけたり、肩をすくめたりすることがあるのだろうか!? そんな現象を起こすトート・タロットとは、どんなカードなのか?
カードに描かれた人物が動く。
この現象は、ファンタジーでも何でもなく、「スクライング」という技術によるもので、じつはだれもが一度や二度は目にしている。
たとえば映画やアニメなどには、魔女が水晶球の前に座り、未来や遠方で起こった出来事を見通すシーンがある。実際の現場の様子とは、いささか違いがあるものの、これもスクライングを利用した技術なのである。
スクライングとは、水晶球や水面といった特定の反射率があるものを、半眼のような視線でぼんやりと見つめ、さまざまな幻像を得る技法だ。
日本語では「霊視」と翻訳されてきたせいか、何らかの霊能力を駆使する技法だという誤解が根強いが、実際には、日常とは異なる目の使い方をするだけであり、練習しだいでだれにでも体験が可能である。
スクライングの歴史は非常に古く、古代ペルシアで発祥したという説が有力だ。文献によれば、西暦630年代以前には、すでに確立していたという。ペルシア文化圏では、甕などの容器に水やワインを満たし、それを見つめてスクライングを行っていたらしい。この技法がヨーロッパに伝播すると、液体ではなく鏡が使われるようになる。白雪姫をはじめ「魔法の鏡」にまつわる伝説は多いが、そのルーツはスクライングなのだ。なお、鏡によるスクライングについては、数学者にしてオカルティストであったピタゴラスも行っていたという。
時代が下ると、宝石や水晶でもスクライングが行われるようになった。この技法が心霊主義に湧いた19世紀末のイギリスでブームとなり、当時の魔術師たちに取り入れられたのである。
トート・タロットの作者にして20世紀最大の魔術師といわれるアレイスター・クロウリーも、愛用の薔薇十字に大きなトパーズをはめ込み、スクライングに使っていたという記録がある。
ただ、水晶球や水面などを見てヴィジョンを得るならまだしも、すでに絵が入っているタロット・カードを見て、いったい何が見えるのかと、首を傾げたくなるかもしれない。
だが、実際にやってみればわかるのだが、見えるのである。
冒頭で述べたように、画像が変化したり、動いたりするのだ。
この技法をマスターすると、普通の占いを超えた意味をカードから汲み取ることが可能となる。多少の練習は必要だが、興味のある方は、ぜひトート・タロットを入手して実践していただきたい。
ヘイズ中村
魔女・魔術師・占い師・翻訳家。中学生頃から本格的に西洋密儀思想の研究を開始。その後、複数の欧米魔術団体に参入し、学習と修行の道に入る。現在はタロットを使った魔術的技法に関する本を執筆しながら、講座などでの身近な人との触れあいを大切に活動中。
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