4歳男児をチベット聖人の生まれ変わりと認定! 転機を迎える後継者指名の今/宇佐和通
7年前に死去したチベットの聖人の“生まれ変わり”探しがついに完了。4歳の男児が正式に後継者となった。しかし今、このシステムは大きな転換期を迎えつつあるという――。
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毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、何もないところから聖なる灰や宝飾品を出現させ、死者をも生き返らせる力を持ったインドの聖人を取りあげる。
目次
今や世界最大の人口大国となったインドは、聖者たちの国でもある。宗派や修行の態様などによってムニ、スワミ、ヨギ、シッダといった各種の尊称を受け、ときにはさまざまな奇跡を行う聖者たちが、国内各地に無数いる。
だが、そうした者たちの中でも世界的に有名で、特に人気が高かったのが、2011年に死去したサティア・サイババであろう。
そのサティア・サイババは生前、自分はかつてシルディという町に住んでいたシルディ・サイババの生まれ変わりであり、さらに死後、もう一度サイババの名を持つ聖者として生まれ変わると述べていた。つまりサイババという名の聖者は、初代、2代目、そして3代目と、少なくとも3回にわたりこの世に生まれてくることになっているらしい。
初代のサイババとなるのがシルディ・サイババであるが、彼については正確な生年はおろか、本名さえ明らかではない。サイババという通り名も、1858年にシルディの町に落ち着いたとき、地元の僧侶から与えられたものだ。
ちなみに「サイ」とは「行者」を意味し、ときには「神」というニュアンスを含むこともある。「ババ」は「父」という原義から派生した一種の尊称である。
一説によれば、彼は1835年9月28日、インド中南部のハイデラバード州パートリで、カースト上位のバラモンの家庭に生まれたという。しかし、生後すぐにイスラム教の行者に預けられて養育され、さらに4、5歳のころ、政府職員のゴパール・ラオという人物に引き取られた。
ラオは信心深い人物で、幼い少年のことを、15世紀のイスラム教の聖者カビールの生まれ変わりだと信じたようだ。そこで宗教的な指導も含め、少年に個人的に教育を施したが、10年もしないうちに息を引き取ったという。ラオは死の直前、少年に西に行くよう言い残した。
少年はこの言葉に従い、西方にあったシルディの町を訪れた。彼にとっては、身寄りも知りあいもいない見知らぬ町である。
おまけにイスラム教修行僧の装束で、髪の毛も伸ばし放題だったから、ヒンドゥー教徒からは嫌われ、子どもたちからは石を投げられた。こうした境遇で、少年は昼夜センダンの木の下で瞑想して過ごした。
しばらくそうした生活を送った後、彼は突然姿を消した。戻ってきたのは、1858年のことらしい。その間どこで何をしていたのか、だれにもわからなかった。
このときサイババという名を授けられたのだが、以前と変わらずセンダンの木の下で瞑想する毎日だった。しかし1872年になって、町外れの荒れ果てたモスクに住むよう勧められ、移り住んだという。
このころのサイババには、さまざまな奇跡譚が伝えられている。たとえば、モスクでは常にランプの火を灯しつづけていたが、ある日油屋が油の寄進を断ったことがある。このときサイババは油の代わりに水をランプに注ぎ、火は普通に燃えつづけたという。また、病人にモスクの土間に積もった聖なる灰を与えて治療したこともあった。
ほかにもバイロケーション(ひとりの人間が、同時に複数の場所に現れること)や空中浮揚を行い、手足を外して元通りに取りつけたり、腸を吐きだして洗ったりしたりしたという逸話も残っている。
そのシルディ・サイババは1918年に死亡する直前、「自分は8年後に生まれ変わる」と予言していた。
果たして8年後の1926年11月23日、インド南部アーンドラ・プラデーシュ州のプッタパルティという村に、サティア・ナーラーヤナ・ラージュという男児が生まれた。彼の誕生の前後には、立てかけてあった弦楽器や床の太鼓がひとりでに音楽を奏でたとか、村全体をジャスミンの香が覆ったなどともいわれている。
サティア・サイババが生まれたプッタパルティの入り口に建てられた門。かつては小さな村だったが、サイババが住む地として訪れる者が絶えず、大きな町になった。
サティア少年は頭も良く、スポーツも得意であったが、肉食はいっさいせず、困っている人がいれば自宅に招いて食事を与えた。8歳でオペラを書きあげて自ら主演したとか、村の長老にヒンドゥー教のヴェーダーンタ哲学を講義したという逸話も伝えられている。
さらには、空の袋の中からお菓子を取りだして友人に配ったり、ヒマラヤの薬草を空中から取りだすなどの超能力も示したともいう。
彼に変化が訪れたのは、1940年3月8日のことだった。歩いている途中、彼が突然叫び声を上げて飛びあがった。真相は不明だが、一般にはサソリに刺されたとされている。
翌日、朝は普通に起きたが、夜になると気を失って倒れ、身体が硬直した。さらに次の朝目を覚ましたとき、彼は別人になっていた。トランス状態に陥ったり、聞いたこともないような聖典の一節を口ずさんだり、歌ったりしたのだ。
家族は、彼が悪霊にでも取り憑かれたかと恐れ、祈?や悪魔祓いを行い、医者にも診せたが効果はなかった。
そして5月23日の朝、彼は家族を呼び集めると、空中から菓子や花を出現させて配った。これを見た父親が杖を手にして、「お前はいったいだれなんだ」と問い詰めた。するとサティア少年は、「私はサイババです」と答えた。
シルディのサイババについては、家族のだれも知らなかったが、村人の中にはその噂を聞いた者もいた。
そこで村人が証拠を見せろと迫ると、サティア少年はその場にあったジャスミンの花を床に投げた。花は州の公用語であるテルグ語で、サイババという文字を形づくった。
10月20日になると、サティア少年は家族に別れを告げ、家を出て、サティア・サイババとして活動を始めた。
サティア・サイババはその後、人前に出るときは常にアフロヘアにオレンジ色のローブをまとうという特徴的な姿を保ち、さまざまな不思議な現象を見せて世界中に知られるようになった。
彼が見せた奇跡の中には、病気の治療やバイロケーション、透視、さらには死者を甦らせたというものまであるが、最も有名なのが、何もないところから聖なる灰「ヴィブーティ」やさまざまな物品を取りだすアポーツの能力である。
世界で1千万人ともいわれる信者の中には、映画『007』シリーズのプロデューサー、ハリー・ザルツマンや、世界中にチェーン店を持つハードロック・カフェの共同設立者アイザック・ティグレットといった有名人もおり、日本でも最近、紅白出場歌手の藤井風がサイババの信者であり、アルバムのタイトルにサイババの教えの言葉を用いているとして話題になった。
彼は世界中から寄せられる潤沢な寄付金を用いて、サティア・サイババ学校や病院の建設、インド国内の水道整備事業への支出などといった公共事業も行っていた。
他方、彼が見せたさまざまな奇跡については、トリックを用いているという批判もある。
日本で1995年に放映されたテレビ番組でも、ヴィブーティを出現させる前にトレイから何かを取りあげる場面がしっかり映っていたし、2000年になると、サティア・サイババが男児に対する性的虐待を行っていたという主張も現れた。
しかし、少なくとも本国インドにおける人気はさほど衰えなかったようで、彼が死去したときには国を挙げての国葬が執り行われている。
だが不思議なことに、シルディ・サイババの生まれ変わりを名乗り、やはりアポーツの能力を発揮する聖者はほかにも存在した。プッタパルティと同じアーンドラ・プラデーシュ州ではあるが、かなり離れたカルヌールにアシュラム(修行場)を構えていたバラ・サイババである。
こちらのサイババは1960年生まれであるが、サティア・サイババと同じようにアフロヘアでオレンジ色のローブを身につけ、やはりヴィブーティを出現させていた。
さらにサティア・サイババ自身も、「自分の分身が世界に11人いる」と口にしていたという。はたしてある人物の生まれ変わりが、同時代に複数存在するという現象があり得るのだろうか。
どうもヒンドゥー教の考えでは、このようなことも可能らしいのだ。
ヒンドゥー教には、神が「アヴァター」(化身)として、人間の肉体をまとってこの世に現れるという信仰があり、このアヴァターは同じ時代に何人も存在することもあるのだ。さらにひとりの人間が、複数の神のアヴァターである場合もある。
実際シルディ・サイババもこうした神のアヴァターのひとりと信じられていたし、サティア・サイババもシヴァとシャクティーのアヴァターであると名乗っている。
神の化身であるアヴァターが他のアヴァターとして生まれ変わるのであれば、同時代に何人も存在することも可能となるであろう。
サティア・サイババは生前、自分は94歳ないし96歳まで、つまり2022年ごろまで生きると予言していたが、2011年4月24日に突然死去した。予言よりも10年ばかり早く死亡したことになる。しかし一方では、インドで用いられている太陰暦で数えると、予言通り95歳あるいは96歳まで生きたことになるという主張もある。
彼はまた、死の8年後に、カルナータカ州のドッダマルールで3代目のサイババ、プレマ・サイババとして蘇るとも予言していた。予言が正しいとすれば、プレマ・サイババとなる人物は、2019年にこの世に誕生していることになる。
不思議なことにもうひとりのサイババ、バラ・サイババも、この前年である2018年に世を去っている。
プレマ・サイババは14歳でサイババ宣言をするというから、本格的に活動を始めるのは2033年からということになる。
予言によれば、彼こそが最後のサイババとして任務を完了し、人類の黄金時代の到来を告げる役割を担っているという。もしそうなら、彼こそが長いこと待ち望まれていた新時代のメシアその人といえるのではないだろうか。
●参考資料=「ムー」2011年7月号(学研パブリッシング)、『ふたりのサイババ!』(安部賢司著/VOICE)、『Sadhus & Saints of Nepal & India』(T.C.Majupuria,Rohit Kumar)
羽仁 礼
ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。
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