世界の転生思想ーー「生まれ変わり」と「前世の記憶」の基礎知識/世界ミステリー入門
世の中には、前世の記憶や、生前に負った傷跡に対応するあざなどを持つ人々が存在する。「生まれ変わり」や「転生」と呼ばれるこの現象は、活仏ダライ・ラマや聖者サイババに代表されるように、世界中で多くの事例が
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7年前に死去したチベットの聖人の“生まれ変わり”探しがついに完了。4歳の男児が正式に後継者となった。しかし今、このシステムは大きな転換期を迎えつつあるという――。
2015年に亡くなった聖者タクルン・ツェトゥル・リンポチェの生まれ変わりとして、ナワング・タシ・ラプテン君という4歳の男の子が正式に認定された。7年にわたってチベット全土で行われていた生まれ変わり探しは終了し、祝典が執り行われた。
就任式の会場となった寺院には多くの高僧が参加し、ナワング君に剃髪を行い、指導者の装束を贈り、玉座に就いたところで正式な生まれ変わりとして認証されることになった。きわめて重要な儀式を取り仕切った僧侶ナンカイ・ニンポ・リンポチェは次のように語る。
「この瞬間を7年間待っていた僧侶は私だけではない。仏教徒コミュニティに属するすべての者にとって誇らしく、素晴らしい瞬間だ」
これまで公立の小学校に通っていたナワング君はインド北部のシムラにあるドルジタク僧院で指導者としての一歩を踏み出す。
ナワング君の家族にとって、これほどの驚きはなかったに違いない。同時に、これ以上名誉なことはない。祖母は次のように語っている。
「僧侶の皆さんがおみえになって、ナワングがタクルン・ツェトゥル師の生まれ変わりであると告げられた時、私たちは喜んで差し出すことにしました。迷いはありませんでした。身内から偉大な指導者が出たのです。これ以上の名誉はありません」
チベット仏教の高僧として最も有名なのは、14世ダライ・ラマだろう。ダライ・ラマという言葉には法王という意味があり、13回の生まれ変わりによって14人が名乗ってきた。チベットでは、自分の力で生まれ変わる能力を持った者を「トゥルク」(化身)あるいは「ヤンシー」(輪廻転生者)と呼ぶ。チベット仏教にはいくつか宗派があり、それぞれの宗派の指導者が輪廻転生を繰り返しているとされる。その中でも最も神聖視されているのがダライ・ラマということだ。
ダライ・ラマをはじめとする輪廻転生者の選定については、先代の遺言や遺体の状況、託宣、聖地である湖の状態など、チベット仏教の教えに則した典範がある。中でも興味深いのは、転生者候補が先代の遺品を認識できるかどうかのテストだ。当たり前と言ってしまえばそれまでだが、前世の記憶が蘇るような品物を当てるというのは最もストレートで信頼できる方法だろう。
こうして連綿と続いてきたチベット仏教最高指導者の後継者指名システムなのだが、近頃はアジアの強国による干渉が強まっている。そのせいか、14世ダライ・ラマは民主的な方法で後継者を決めるのが望ましいという方向性を明確に打ち出している。
これが実現するようなことになれば、数百年にわたって実践されてきた伝統的な行事が根本から変わることになるし、新しい方法で選出された輪廻転生者の求心力にも影響がでるのではないだろうか。輪廻転生はチベット仏教の基本的概念であり、それがリセットされてしまったら、宗教体系全体が見直されなければならなくなる。
ということで、14世ダライ・ラマが合議による後継者選定制度の実現について模索する中で行われた今回のタクルン・ツェトゥル・リンポチェの生まれ変わり探しは、チベット仏教の歴史から見てもこれまでにないほど重い意味がある出来事だったのだ。今後の生まれ変わり探しにも大きく影響するに違いない。14世ダライ・ラマは、今回の件で公の場でのコメントは出していないようだ。制度は現行の形式のまま続くのか。それとも大きな変革が訪れるのか。どちらにせよ、聖職者の系譜は今後も連綿と綴られていく。
宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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