神秘の「古代みくじ」で神様の言葉が身に染みる…! 京都・天津神社の神秘/西浦和也

文=西浦和也

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    おみくじがよく当たるーーそんな評判の神社が京都にある。 引いた人はそれを、「神様と話している感じがする」と表現する。天津(あまつ)神社を訪ね、その「古代みくじ」を引いてみた。

    カリスマ宮司が作ったおみくじ

     あなたは「おみくじ」にどういうイメージを持っているだろうか? 神様からの大事なご神託と真剣に受け止めている人もいると思うが、多くは気軽な占いのような感覚で引いているのではないだろうか?

     おみくじがよく当たる。そう評判になっている神社が京都、西陣の近くにある。学問の神様・菅原道真で有名な北野天満宮や、平安京の時代から続く平野神社からほど近い場所にある「天津神社」だ。

     京都駅から北へ向かって車で20分あまり。西大路通りから東へ少し入ると、閑静な住宅地がある。このあたりは江戸後期までは畑が続く一帯で、建物が建ちはじめたのは明治以降のことといわれている。
     その住宅地を進んでいくと、神社らしからぬ小さな門に「天津神社」と書かれた提灯と紙垂のついた注連縄が目に入る。見た目はさながら、おしゃれな民家か、茶道の道場のよう。神社の目印である鳥居がないため、普通に歩いていて、神社だと気づく人は多くないという。

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    閑静な住宅街の中に佇む天津(あまつ)神社。

     門を入り、正面の障子戸を開けて中へ入ると、100畳ほどの広間が広がっている。右手奥を見ると神様を祀った拝殿があり、その右手に「美くじ」と書かれた木製の箱が置かれている。これが噂になっている、よく当たるというおみくじだ。

     ところで、天津神社に祀られている祭神は、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、高御産巣日神(たかみむすひのかみ)、神産巣日神(かみむすひのかみ)の三柱である。これらは『古事記』に登場し、天地開闢(かいびゃく)のときに高天原に出現し、万物生成化育の根源となった最初の神たちだ。
     神社が建立されたのは、今からおよそ100年以上前。伝えられる話では、強い力の持ち主だった初代の宮司が、信徒のため手軽に神託を得られる方法として作ったのがこの「古代みくじ」なのだという。
     その評判は瞬く間に広まり、周辺地域のみならず京都の外からも神社を訪れてはおみくじを引き、宮司のカリスマ性とあいまって多くの人たちが、その話に耳を傾けたそうだ。

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    天津神社の祭神。中央が天之御中主神、その右側が高御産巣日神、左側が神産巣日神。

     しかし、初代宮司が亡くなると、それに合わせるように訪れる人の数も少なくなり、昭和に入るころには、おみくじの噂は聞かれなくなった。

    天津神社宮司
    おみくじを作った初代宮司(左)と2代目(右)。

    タレントK氏の”失敗”を予言!

     そんな古代みくじに、再び脚光が当たるようになったのは、今から十数年前のこと。
     関西を中心に活躍中だったお笑いタレントのK氏が、スタッフの女性に「Kさん、よく当たるから行きませんか?」と声をかけられた。もともと番組でオカルト系のコーナーもやっていたK氏は、ネタになるかもしれないなと、スタッフと一緒に神社を訪れた。
    「Kさん、これって聞きたいことをいってから引くといいんですよ」
     そういわれ、K氏は「じゃあ、今やってる仕事はどうなりますか?」といっておみくじを引いた。
     出てきた竹串には「口は災いの元」と書かれている。普段からラジオなどの辛口発言で人気のK氏は「いつものこと、おみくじでもいわれたわ」と高をくくった。ところがそのひと月後のこと、番組中でのたったひと言が問題となり、20年以上続いたその番組はその週で終了。K氏は、そのまま無期限の謹慎処分となった。
     謹慎となったK氏は、その後足しげく神社へ足を運んでは、復帰のためにどうしたらよいかを聞きながらおみくじを引きつづけた。そのおかげもあってか、翌年K氏は再び現場に復帰し、テレビのみならず、ラジオの帯番組のパーソナリティに抜擢、以前にもまして活躍、人気を集めることになった。
    「神様のいうことは、聞かなあかん」
     K氏は自身のラジオ番組や書籍の中で、これまでの体験を振り返りながら「古代みくじはよく当たる」と頻繁に取り上げた。やがて、それを聞いたファンたちが訪れ、「本当によく当たる」「神様が話しかけてくるようだ」と口コミで広まり、おみくじは再び多くの人たちに広まった。
     K氏は、今も頻繁にこの神社を訪れてはおみくじを引いている。

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    拝殿の奥に見える神棚。ここには祓戸大神(はらえどのおおかみ)が祀られている。

    お願いしたいことにズバリ答えてくれる

     では、そのおみくじとは実際にどのようなものだろう。

     神殿脇に置かれた木箱は、どこの寺や神社でもよく見かける、小さな穴が開いたおみくじ用のそれだ。箱の表には「美くじ」と書かれている。かなり多くの人の手に触れてきたのだろうか、箱の角はすっかり削れ、やさしい丸みを帯びている。手に取って振ると中で竹串がザクザクと音を立てる。

     しかし、ここのおみくじはほかとは少し違う。一般的なものは、出てきた竹串に数字が書いてあり、同じ番号が書かれた紙に「大吉」や「小吉」といった吉凶とともに、項目ごとの神託が書かれている。
     ところが天津神社の古代みくじは、出てきた竹串に数字は書かれておらず、その表と裏に直接神託が書かれているのだ。

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    神様のお言葉が書かれたおみくじ。タレントK氏は表を「現状」、裏を「アドバイス」として読み取っているという。

     神託の内容は「誠をつくしてはたらけ」「あいしてやれ へだてなく」「因果応報の理を悟れ」のような短い言葉で書かれており、それがそのまま神様からの返事となる。これが、多くの人たちが口をそろえていう「神様と話しているような感じがするおみくじ」という所以だ。

     では、その神託はどのくらいあるのだろうか?
     宮司にうかがったところ、神託(竹串)の数は全部で108本あり、そのすべての内容は異なっている。しかも、全体の7割ほどは厳しい戒めの言葉で占められているのだそうだ。一般的なおみくじでは、凶の割合は多くても2割〜3割なので、7割が厳しいとは意外に多い。そのため初めておみくじを引く人には、悪い結果が出てもショックを受けないよう、あらかじめその旨を伝えるようにしているそうだ。

     それもあってか、おみくじを引いた多くの人は、神様に叱られたような感じを受け、気を引き締めて帰る傾向が多く、逆によい神託が出ると、舞い上がるほど喜ぶ傾向が多いのだそうだ。
     とはいえ、竹串に書かれた短い言葉だけでは少々情報量が少ない感じがして、これで本当に当たるのだろうかと思ってしまう。だが、宮司によれば「おみくじを引く際、困ったこと、やりたいこと、お願いしたいことなどを具体的に決めてから引くと、それに対してズバリとした答えが返ってきます。だから余計な言葉はいらないんです」とのことだった。

     実際、これまで筆者も、宮司の話を裏づけるような偶然とは思えない神託が出るところを何度も目撃している。

     数年ほど前にある番組の取材で訪れたとき、同行していたカメラマンのKさんが自分の息子の進路を聞くことにした。ところが、いざおみくじを目の前にすると、尋ねるべき息子の進路がなかなか決まらない。
    「う〜ん、役者に育てて自分の子を主演にした映画を撮りたいなあ……、でも体が丈夫だから格闘技とかスポーツ選手とかもいいなあ」
     散々悩んだ挙げ句、結局進路を決めることができないまま「どうしたらいいですかね?」とうかがいながらおみくじを引いた。するとひとつの穴から竹串が2本出てきた。その様子を見ていた宮司は「2本ともご神託ですから、どうぞご覧ください」と声をかけた。その言葉に促されKさんが竹串を見ると、1本には「迷いをすてよ」、もう1本には「高望みはするな」と書かれていた。

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    「美くじ」と書かれたおみくじの箱。中にご神託が書かれた竹串が入っている。

    病に絶望した女性に「踏みそこなうな」

     その数か月後、別件でここを訪れたとき、おみくじの前で家族に支えられ、うなだれている女性を見かけた。気になって女性に声をかけると「先週病院で、重い病を告知されたんです。お医者さんはがんばって治療しましょうというんですが、私は疲れてしまって早く死にたいとお願いしたんです」と話してくれた。見ると、手には今引いたばかりの「踏みそこなうな」と書かれた竹串が握られている。
     女性は竹串を箱に戻すと「お願いです。安らかに死にたいんです」といって、再びおみくじを引いた。しかし出てきたのは再び「踏みそこなうな」。「混ぜ方が悪かったんでしょうね」とすぐさま竹串を戻すと、今度は入念に箱を振り、もう一度おみくじを引いた。ところが、出てきたのはまた「踏みそこなうな」。
    「ほら、あきらめちゃだめなんだって!」
     支えている家族に励まされ、彼女は「病気と闘ったらどうなりますか?」といっておみくじを引いた。出てきた竹串には「神が助けてやる」と書かれていた。彼女は竹串を握りしめたまま、しばらくの間泣きつづけていた。

     また数年前のこと。会社社長をしているという男性にこのおみくじのことを話すと、「急いで聞きたいことがあるから、すぐ試してみるわ」と京都へ出かけていった。ところが、いくらたっても報告がないので、連絡をしてみるとメールも電話も通じない。気になって会社へ連絡すると会社は潰れていた。
     昨年、ようやくのことで彼に会うことができたので、会社の件とおみくじの結果について尋ねると「信じていた部下たちに裏切られて、運転資金を持ち逃げされまして……」といいながら、その直前に天津神社で引いたおみくじのご神託が書かれた紙を見せてくれた。そこには「因果応報の理を悟れ 助からぬあきらめろ」と書かれている。
    「何度引いてもこれが出てくるんですよね……」
     そういって彼は大きくため息をついた。

     神託については占い同様で、あくまでも個人の捉え方によって大きく左右される。しかし多くの人たちが、遠方からこの天津神社に足しげく通い、おみくじを引き、神託に何かを感じ取っていく姿を見ると、明治期に初代宮司が書き記した神託が、100年以上を経た今も、多くの人たちの心をひきつけていることに不思議な感覚を覚える。

     人生に迷ったとき、岐路に立ったとき、自分を見つめ直したいとき、天津神社の「古代みくじ」を引いてみてはいかがだろうか。

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    神様に聞きたいことを決めておみくじを引くと、答えをズバリ教えてくれるという。

    西浦和也

    不思議&怪談蒐集家。実話怪談の調査・考察を各種メディアを通じて発信。心霊番組「北野誠のおまえら行くな。」や怪談トークライブ、自身のYouTubeなどで活動する。

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