生でも死でもない“第3の状態”が存在する!? あらゆる細胞に意識が宿る「CBC理論」の可能性
この世に生まれた命には必ず死が待っているが、驚くべきことに生でも死でもいない“第3の状態”があることが示唆されている。死んだ後でも、細胞は自律的に活動できるのだ。
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人体の臓器は一般的に78あるといわれる。一つの人体パーツは一つの経路で発達すると考えるのは自然なことだ。しかく新たな研究では、脳が単一の統合されたユニットではなく、互いに連携して機能する2つの別個の器官であることが示唆されている。
成人の脳は、前脳・中脳・後脳の3つの主要な領域に分かれており、前脳は言語・意識・抽象的推論など人間の複雑な思考に密接した多くの能力を支えている。
一方、後脳(脳幹)は頭蓋骨の後方に位置し、呼吸・睡眠・心拍調節・空腹感など生存に欠かせない不随意的なプロセスのほか、発話や嚥下に重要な顔・舌・喉の筋肉の動きも制御する役割を担っている。
後脳はきわめて重要な役割を担っているにもかかわらず、科学者たちは何十年にもわたり、実験室で後脳ニューロンを増殖させることに苦心してきた。その結果、脊髄性筋萎縮症(SMA)や筋萎縮性側索硬化症(ALS)など、後脳の神経細胞が徐々に機能しなくなってくることで症状が進行する重篤な疾患の研究に、なかなか目覚ましい発展が見られなかったという。

しかし、そんな状況についに変化が訪れた。今年9月、米スタンフォード大学医学部が主導する研究チームが学術誌「Nature Neuroscience」で発表した研究によると、脳ははじめから1つの臓器であったわけではなく、なんと別々に発生した2つの古い神経系が「巧みに一体化」したものであり、数百万年にわたってそれぞれ独自に進化してきたことが判明。そして前脳・中脳と、後脳を違う器官であると認識することで、医学的な理解が大きく進むというのだ。
「脳の前部と後部は、まったく異なる前駆細胞から発生することが初めて判明しました。これにより、後脳から神経細胞を培養し、その機能を研究できる可能性が大いに高まったのです」と発生生物学准教授のカイル・ロー氏はプレスリリースで述べている。
研究チームは、前脳・中脳の細胞を培養することは比較的容易であるにもかかわらず、なぜ後脳の細胞を実験室で増やすことができないのかを解明しようとする中で、今回の発見に到ったという。
これまで科学者たちは、発生の初期段階において脳全体を生み出す単一の前駆細胞が存在すると想定していた。しかし今回、研究チームはマウスの胚における発生のごく初期段階、単なる細胞の袋のような状態から脱して形態を成し始める「原腸形成(gastrulation)」と呼ばれる状態を詳しく分析することで、前脳と後脳がまったく別の発生経路をたどっていることを突き止めた。

具体的には、今回研究チームは2種類の異なる脳前駆細胞を特定。そのうちの一つは「Otx2」という遺伝子を発現し、将来的に前脳や中脳になる運命にある。もう一方は「Gbx2」という遺伝子を発現し、後脳を形成する運命にある。そして研究チームが両者のDNA構造(パッキング)を調べたところ、実際にその様式が全く異なることも判明。こうした発生初期からの差異によって、脳神経細胞は「決して交わることのない平行な線路を進む旅人のように」、それぞれ異なる増殖経路へと固定されるという。
新たに判明した事実に基づき、前脳や中脳とは別の手法を取ることで、これまで難しかった後脳の神経細胞を狙って培養できる可能性が開けた。研究チームは(人体内のあらゆる細胞を作り出すことができる細胞である)ヒト多能性幹細胞を、後脳運動ニューロンへと分化させることに初めて成功したのである。そこで生み出された後脳ニューロンは、活動電位と呼ばれる電気信号を生成し、顔面筋や嚥下筋の制御に関連するタンパク質も産生できたという。
次に、研究者たちは進化論に着目し、この発生上の分岐がどれほど過去にさかのぼるものか調査。研究は5億5000万年を超える壮大な生物進化のドラマにまで及ぶことになった。
そして研究チームは、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、さらには(海底の砂の中に棲んでいるミミズのような生物で、脊椎動物の遠い祖先と考えられている)ギボシムシにも2つの発生経路をもつ遺伝的構造を発見。人類を含めた現代の全ての動物の脳が、進化によって既存の2つの神経系が物理的に一体化したものである可能性が生じてきた。ちなみに、約6〜7億年前に人類とは分岐したクラゲまで身体の両端に2つの神経系をもっているという。
「進化によって既存の2つの神経系が空間的に統合したと考えられます。脳が一つの器官であるほうが効率的かもしれませんが、私たちは脳を2つの別々の部分として形成するという方法を原始から受け継いでいるのです」(ロー氏)
「脳という言葉は、単一の起源をもつ連続した器官を連想させますから、今回の発見には本当に驚きました。それにしても、5億年前からそれぞれ独立した神経系が存在し、それが今では一体となって機能しているというのは興味深いことです」(ラヤン・ジョカイ研究員)
大きな可能性を秘めている今回の研究だが、ひょっとすると意識の謎に迫れるかもしれない。たとえば、脳に不随意性のある後脳が組み込まれたことで、いわばその反作用で前脳が心置きなく意識を芽生えさせている――そんな可能性はないだろうか。ともあれ、まずは神経性の難病に対する効果的な治療法に繋げることが期待されてくる。引き続き研究の進展に注目しよう。
【参考】
https://www.telegraph.co.uk/news/2026/09/18/brain-is-two-separate-organs-scientists-find/
https://med.stanford.edu/news/all-news/2026/09/two-separate-brains.html
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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