意識は脳が作り出すものではなく“宇宙の根源要素”だ! 汎神論を科学的に定式化する「統合情報理論(IIT)」の衝撃

文=仲田しんじ

関連キーワード:

    ある著名な神経科学者によれば、意識がすべての根源であると考えることでこの世界、この宇宙の成り立ちを整然と理解できるという!

    意識は脳が作り出すものではない

     自分が自分であることの基本中の基本、われわれの意識はどこから生じているのか。主観的な意識体験とはいったい何なのか、オーストラリアの哲学者デイヴィド・チャーマーズによって提起された「意識のハード・プロブレム」である。

     この問題の明確な答えを人類は今も見つけられずにいるが、視点を変えて「意識は脳という物質が作り出すものではなく、重力や質量のように宇宙そのものの基本的な構成要素だ」と考えようとしているのが、米ワシントン州シアトルに拠点を置くアレン研究所の神経科学者、クリストフ・コッホ氏だ。

    「問題は、物理世界全体が何らかの精神的なものの現れであるかどうか、そしてどの程度そうであるかということです」と、コッホ氏はかつてのインタビューで述べている。

    ※クリストフ・コッホ氏 画像は「Wikipedia」より

     科学メディア「Popular Mechanics」によると、コッホ氏はわれわれが外界で経験するすべてのことは、意識的な経験によって媒介されていると説明する。意識的な経験のみが真に存在し、物質世界をはじめそれ以外のすべては二次的なものという意味だ。

     つまり「はじめに意識ありき」で、意識こそ宇宙の基本要素であるというのだ。コッホ氏は唯物論をベースにした従来の意識理論では、なぜ人々が自分の子どもを愛するのか、なぜ人々がベートーヴェンの音楽を素晴らしいと感じるのか、なぜ人々が陽の光を好むのかといったことを説明できないと指摘する。

     彼によれば、人間が抱くあらゆる思考・感情・経験が物理的および神経生物学的プロセスに起因すると考える従来の主張では、主観的な側面の説明ができない。従来の主張では、脳が夕日をどのように認識するか説明できても、夕日に暮れなずむ美しい空を見たときにどのような感情がこみあげてくるかは説明できないのだ。

     米カリフォルニア州サンタモニカにある「先端意識研究所」の研究ディレクター、ニコ・レッジェンテ氏にとって意識とは「経験をする能力」のことである。レッジェンテ氏はコッホ氏と同様に、意識は脳のみによって生み出されるものではなく、現実の基本的な構成要素であると考えている。

    ※ニコ・レッジェンテ氏 画像は「Institute for Advanced Consciousness Studies」より

     レッジェンテ氏は、われわれのうつろう心を空を飛ぶ凧に例え、凧を脳、風を(現実の根源的な一部としての)意識にたとえる。「凧は適切な材料、適切な形状、適切な紐で作られなければならないが、その飛行は完全に風に左右されます」とレジェンテ氏は言う。

    「また、ラジオとは放送を生み出すのではなく、すでに存在する信号を受信して変換するものです。しかし脳は、その信号を単に高い忠実度で再現するのではなく、その信号と相互作用しているのです。その相互作用こそが、私たち特有の主観的な経験を生み出します」(レッジェンテ氏)

    「意識のハードプロブレム」は問題ではない

     では、意識が宇宙の根本的要素であるならば、それは人間にとって何を意味するのか。レッジェンテ氏によれば、これまで不可能だと考えてきた多くの疑問に答えられる可能性があるという。

     彼は「意識のハードプロブレム」、つまり主観的経験がどのようにして物質から生じるのかという問題は、実は“問題ではない”と考えている。

    「意識が根本的なものであるならば、この問題は解消されます。物理学者がより基本的なものから時空がどのように生じるかを説明する必要がないのと同様に、精神が物質からどのように生じるかを説明する必要はありません。この見方では『意識のハードプロブレム』はそもそも問題ではないのです」(レッジェンテ氏)

     つまり「意識がどのようにして生じるのか」という問いは、「ビッグバンの前には何があったのか?」や「宇宙は一体どこへ膨張しているのか?」といった、答えるのが不可能な質問と同じというわけだ。

    「物質がどのようにして精神を生み出すのかを問う代わりに、私たちは精神がどのようにして物質の外観へと構造化されるのかを問うています。私たちの抱える最も困難な問題の多くは、間違った出発点から始まったことによる産物である可能性が高いのです」(レッジェンテ氏)

    Brian JonesによるPixabayからの画像

    汎心論の復活で起きるパラダイムシフト

     再びコッホ氏に戻ると、彼が提唱してきた枠組みは「統合情報理論(IIT)」と呼ばれ、精神科医で神経科学者のジュリオ・トノーニ氏と過去20年にわたり共同で構築されたものである。

    「Neuroscience News」が報じるコッホ氏の最近の研究によると、IITは意識をファイ(Phi)と呼ばれる数学的量で測定することを提案している。ファイはシステムが情報を統合できる度合いを表し、ファイの値が十分に高いシステムは、何らかの主観的経験を持つことになるという。

     これは意識が人間や動物に限られたものではないことを示唆しており、より具体的に言えば、十分な統合情報を持つシステムは、それが生物であるかどうかに関わらず、何らかの主観的経験を持つことになる。ネットワークに繋がっているコンピュータさえ意識を持つ可能性があるのだ。

     これは哲学者が「汎心論」と呼ぶ理論の科学的な定式化でもある。一般的に汎心論は古代の神秘主義的な思弁として捉えられがちだが、より正確な定義では、「心や意識が宇宙の根本的な構成要素であり、人間や動物だけでなく、あらゆる物質や自然現象の根底にも遍在している」とする立場である。

     そしてこの汎神論は、現代の科学的枠組みが「意識のハードプロブレム」をまったく解決できていないという事実によって、今再び注目を集めているという。

     コッホ氏の提案が正しければ、意識と物質の関係について根本的な見直しが求められることになる。はたして近い将来、統合情報理論が広く受け入れられ、科学の世界でパラダイムシフトが起きるのだろうか。「意識のハードプロブレム」が問題ではなくなれば、われわれの人間観と世界観もまた大きくチェンジすることは間違いない。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「Big Think」より

    【参考】
    https://www.popularmechanics.com/science/a71386167/consciousness-fundamental-reality/
    https://neurosciencenews.com/consciousness-panpsychism-neuroscience-30464/

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

    関連記事

    おすすめ記事