日食中だけ観察できる謎の現象「アレ効果」とは? ノーベル賞学者が唱えた未解決科学

文=仲田しんじ

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    2024年4月8日、北米大陸を横断する皆既日食で大いに人々が湧いたが、その日食の最中に起きる謎の現象が報告されている。「アレ効果」と呼ばれるその現象は今日の物理学をちゃぶ台返しにしてしまう可能性を秘めているのだ――。

    日食中に起きた「アレ効果」の謎

     北米各地で4月8日に観測された皆既日食に大いに人々は沸き立ち、宿泊や関連消費で全米で9000億円もの経済効果をもたらしたともいわれている。

     畏怖の念さえ抱かせる束の間の光景に多くの人々が心を奪われていたのだが、その裏で少数の科学者グループは好機到来とばかりにじっくりと振り子を観察し、物理学をひっくり返す可能性のある異常現象を検知しようと躍起になっている。いったいどういうことなのか。

     1954年6月、フランスの科学者、モーリス・アレは「フーコーの振り子(Foucault pendulum)」を1か月間、14分ごとに振らせて観察する研究を開始した。

    「フーコーの振り子」の一例 画像はYouTubeチャンネル「Explified」より

    「フーコーの振り子」は1851年にフランスのレオン・フーコーが考案した地球の自転現象を示す振り子で、長い弦をもつ周期の長い振り子を長時間振動させると、次第に振動面が変化することが観察でき、地球が自転していることが示されるのである。

     モーリス・アレが30日間続けた実験期間中、1954年6月30日の日食がやって来た。彼は日食中に振り子の運動が突然変化したことを確認して驚いた。この動きを説明する物理法則が存在せず、アレは当惑することしかできずに謎だけが残された。

     アレはこの時の現象を再び確認するために5年間辛抱強く待った。そして、やって来た1959年10月2日の日食中に実験を繰り返したところ、再び異常な動きを記録したのである。この日食中の振り子の動きの変化は「アレ効果(Allais effect)」または「アレ異常(Allais anomaly)」として知られるようになり、その原因についての仮説で引き合いに出されるのは暗黒物質から重力異常まで多岐にわたっている。

     他のほとんどの科学的異常と同様、正統派科学ではアレ効果を実験の設定が不十分だった可能性が高いとして、おおむね却下してきた。他の実験者による再現実験の結果は決定的ではなく、肯定的な結果が得られた者もいれば、何の異常も発見できなかった者もおり、主流の科学界においてアレ効果についての疑惑が強まることになっている。ちなみに、実験に使われた「フーコーの振り子」にはさまざまなバリエーションがあった。

     その後、1991年7月11日の日食時にきわめて精密な実験が行われたが、効果は見られなかったため、以降その効果は現実ではないというのが一般的な見解となってきたのだが、アレ効果を確認する目的の実験は少ないながらもまだ行われている。

     当然だがアレ効果の検証ができるのは日食の日だけであり、実験を頻繁に行うことはできず、持ち運んで設置可能な精密な機材も必要である。また、実験場所の磁場の影響などもできる限り排除しなければならない。したがって一貫した良好な実験結果を得るのは、ひいき目に見てもきわめて困難といわざるを得ないようだ。

    モーリス・アレ 画像は「Wikipedia」より

    19世紀のエーテル理論が“復活”!?

     4月8日の北米横断皆既日食でアレ効果の検証実験を行ったというアナウンスはどこからも発せられてはいないようだが、アレ効果をめぐる議論は今も続いている。

     アレ効果は実際の現象ではないと主張する者がいる一方、実際の現象ではあるが皆既日食中に発生する温度、気圧、湿度など外的変化要因によるものだと主張する者もいる。さらにアレ効果を支持する者の中には「新しい物理学」による現象だと主張する者もいる。しかも、この考え方は代替(修正)重力理論の支持者の間で人気が高まりつつあるのだ。

     なお、アレ自身は新しい物理学の結果であると主張したが、明確なメカニズムは説明しなかった。そのことで、主流の科学者が検証を放棄し、非主流の科学によって“汚染”されてしまった側面もあるようだ。1991年の実験は非常に精緻なものであったため、アレ自身の実験結果はおそらく実験エラーによるものであると言ってしまっても残念ながら今のところ問題はないのかもしれない。

     アレ効果の多くの支持者は、科学法則を書き換える可能性を伴うこの異常の発見によって、アレが最終的にはノーベル物理学賞を受賞すると信じていたのだが、皮肉にも全く関係のない研究で1998年のノーベル経済学賞を受賞するという顛末を迎えている。アレは物学者から完全に経済学者になってしまったのだ。

    画像はYouTubeチャンネル「Explified」より

     さらに、近年のアレ効果に関するインターネット上の議論は、「地球平面論」の支持者たちによって活用されている。この異常現象が彼らにとって忌まわしいといえる、“自転する球体の地球”が存在することを示した「フーコーの振り子」実験に異議を唱えられる可能性に彼らは賭けているのだ。しかし、この彼らからの支持は迷惑だと感じている支持者も少なくなさそうだ。

     一方、現代物理学の登場によって廃れてしまった19世紀の「エーテル理論」だが、あの天才発明家の二コラ・テスラもエーテル理論に立脚していたといわれている。そして、このアレ効果がエーテル理論によって説明できるのではないかと示唆する声もあるようだ。もしアレ効果が確認された場合、19世紀のエーテル理論が“復活”を遂げることになるのだろうか。

     ともあれ本来の支持者が願っていることは、優れた科学者によって将来の日食でさらなる研究が行われ、その時に記録されるかもしれない異常な現象について、率直な議論が行われることだろう。アレ効果があるのかないのか、懐疑的な声は強いもののいったん保留の案件ということになるかもしれない。先日の日食時にもしも行われていた実験があるとしたら、その結果の発表が待ち遠しいところだ。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「Explified」より

    【参考】
    https://www.dailygrail.com/2017/07/the-eclipse-mystery-pendulum-anomaly-during-solar-eclipses-could-rewrite-the-laws-of-science/

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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