なぜ我々は他者からの視線に気づくことができるのか? 身体を包むバイオフィールドと外送理論を著名生物学者が解説

文=仲田しんじ

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    ある調査では女性の80%以上、男性の75%が振り向くと誰かが自分を見つめていた経験があると回答している。自分に向けられた視線を察知できる現象を科学的にどう説明すればよいのか――?

    自分に向けられた視線に気づけるのはなぜか?

     日常生活の何気ない瞬間に、何か微妙な違和感や異変を感じることもあるだろう。往々にしてそのほどんどは“気のせい”としてなかったことにされてしまうものだが、本当に黙殺してしまっていよいものなのか。

     たとえば、不意に誰かに見られているような気がして周囲に目を向けると、それは気のせいではなく実際に自分に目を向けていた人物と目が合ったという体験は誰にもあるといわれている。

     イギリスの作家で生物学者であり超心理学の分野にも明るいルパート・シェルドレイク氏は、英紙「Daily Mail」に寄稿した記事でこの現象についてサイエンスの視点から考察している。

    ルパート・シェルドレイク氏 画像は「Daily Mail」の記事より

     シェルドレイク氏によれば、これまでの科学的な実験によって視線を向けられている感覚は約55%の確率で的中することが示されているという。

     子供たちは特に優秀で、ドイツの学校で繰り返し実施された実験では、8歳と9歳の児童の的中率が90%にも達したということだ。

     人間にどうしてこのような能力があるのか。シェルドレイク氏によれば、この件について科学は確実な答えをまだ見つけられずにいるものの、過去20年以上の実験と事例研究を経て、解決に役立つ糸口をほとんど特定できたと確信しているという。

     まず、これまで前述の現象を誰も指摘しなかったのは、見られているという感覚には「方向性がある」という点、つまり自分に向けられた視線の発生源がわかるということだ。誰かが自分を見ていると感じたとき、その人物がどこにいるか、後ろ、横、上などの位置までわかる正確な直観力を持っているのである。

     シェルドレイク氏によれば、これは凝視する視線がむしろ音に似ていることを意味している――つまり、音の発生源がわかるのと同じように、視線の発生源がわかるというのだ。

     しかし光や音、ましてや風や匂いでもない“視線”を、人間はどこで、どのように検知しているのだろうか。

     シェルドレイク氏の仮説では、それは我々の身体の周囲を包んでいる微弱な電磁場である「バイオフィールド(biofield)」に関係があるという。このバイオフィールドが皮膚よりも外側のセンサーとして機能しているというのだ。

     しかし、バイオフィールドで視線が検知できるのであれば、視線とは目から放出された何らかのエネルギーであることになる。

     そこで次に登場するのが「外送理論(Extramission theory)だ。

     外送理論とは、視覚の仕組みに関する科学的説明の一つであり、その起源は古代ギリシャにまで遡る。紀元前約300年の偉大な幾何学者であるユークリッド(エウクレイデス)は、視覚光線の外側への投影を通じて、鏡に虚像を形成するメカニズムを最初に提案した。

     そもそも自分の目で外界を見るということは、外界の光のグラデーションを見ていることであり、目はそれらの届いてくる光を受動的に検知して視覚情報として処理していると考えるのが「内送理論(Intromission theory)」である。

     これに対して外送理論では、我々の目はあたかも赤外線カメラの赤外線やレントゲンのX線のようなものを放出して外界を照射し、その反射を検知しているとの理解に立脚している。

     したがって、目からの放出物であるこの何らかのエネルギーをバイオフィールドが検知することで、我々は自分に向けられた視線に気づけるというのがシェルドレイク氏の仮説なのである。

    画像は「Daily Mail」の記事より

    監視カメラの“視線”にも気づける

     自分に向けられた視線に気づくことができるというこの驚くべき能力が進化した理由について、シェルドレイク氏によれば2つの説明が考えられるという。

     1つは自己防衛である。何かが自分を監視している場合、それは捕食者であるか、待ち伏せられている可能性があり、いち早く気づけなければならないため、その能力が磨かれたとする説明だ。

     もう1つは性的なものである。潜在的な配偶者がいつ見ているかを知ることは、自分が相手を魅了している可能性があるため、それに気づくことができればラブアフェアの面でアドバンテージが得られるのだ。

     また、多くの動物写真家が経験から知っているように、野生動物は視線にきわめて敏感である。逆に動物の視線にも気づけることを発見した者もいる。

     1996年、ローマの公園で行われたガチョウを使った実験では、実験参加者5人が双眼鏡を持って茂みに隠れ、そこから湖の端でうたた寝をしている特定のガチョウの個体を観察した。

     観察されたガチョウは何度も目を覚ましていたのだが、その一方で観察されていなかったガチョウはほどんど目を覚ますことはなかったという。

     こうしたことはペットの飼い主たちからも報告されており、うたた寝していたりボンヤリしている犬や猫を飼い主が見つめると目を覚ますことが多いという。

    画像は「Pixabay」より

     そこで浮上してくる素朴でありながらも興味深い疑問の1つは、同じ効果が監視カメラ(防犯カメラ)でも起こるかどうかである。我々は初めて訪れる場所にさり気なく設置されている監視カメラの“視線”に気づくことができるのか。

     英ロンドンのある大手店舗のセキュリティマネージャーは、万引き犯の犯行現場を監視カメラ映像で何度となく確認しているが、万引き犯の多くは犯行中に監視カメラに気づいて一定の時間“カメラ目線”になるということだ。

     今日の都市生活がかつてないストレスに見舞われているのも、あらゆる場所に数多く設置されている監視カメラに我々が気づいていることも主な要因として挙げられてくるという。

     観察主体と被観察者の“ふるまい”については量子実験の「二重スリット実験」にも繋がる話になるかもしれない。まだまだ謎が多いといえるのだが、まずは我々が考えている以上に強い影響を及ぼしている“視線の力”を軽んずることがないようにしたいものだ。

    【参考】
    https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-12844067/Leading-biologist-explains-sense-looking-turned.html

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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