この世に存在しない異界駅「きさらぎ駅」と現代の神隠し/朝里樹
17年前にネットの住人をざわつかせた都市伝説「きさらぎ駅」が、いま、メディアで再び脚光を浴びている。怪奇愛好家の朝里樹氏がその魅力を考察した!
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行方不明や失踪事件は毎年一定数が発生するものだが、不可解なのは、いったん姿を消したものの、その後に本人がひょっこりと現れるケースだ。いったい今までどこへ行っていたというのだろうか――。
行方不明者が唐突に戻ってくるケースとして、日本では「天狗さらい」として知られる現象がある。天狗にさらわれた子供が数カ月から数年の後に元の場所に戻ってくるのだ。天狗さらいに遭った江戸時代の少年、寅吉は帰還した後に異界での体験談を語り周囲の注目を集めた。
また、台湾では「魔神仔(モシナ)」と呼ばれる山や森に住む妖怪が、子供や老人をさらって数日間連れ回すケースが毎年報告されている。連れ回された子供や老人は行方不明になった場所からかなり遠くの場所で発見されることが多いという。
特別な呼び方こそないものの、このような不可解なケースは欧米でもたびたび報告されている。今回は6つの奇妙な事件を紹介する。
目次
1753年5月、イタリア・シチリア島タコニの町で地元の職人兼庭師であるアルベルト・ゴルドーニが町の広場を歩いていた時に、友人知人の目の前で突然、まるで魔法のように完全に姿を消し去った。
信じられない事態に人々は唖然としたが、すぐに一帯の捜索が行われた。しかしゴルドーニの行方の手がかりと痕跡は何も見つからなかった。
ゴルドーニがいなくなってから数日が経ち、それが数週間となり、さらに数カ月、数年となっていくにつれて町の人々は彼についての話をしなくなり、徐々に忘れていったのは仕方のないことだろう。
しかし蒸発からちょうど22年後、驚くべきことにゴルドーニは姿を消した場所に姿をあらわした。
彼に何が起こったのか。ゴルドーニは自分は姿を消したわけではないと主張し、何よりも彼の外見は22年前のままであった。
ゴルドーニによれば彼が姿を消した日、彼は奇妙できらめくトンネルに出くわし、そこに入ったという。
トンネルの中には長い髪の“存在”がいて、ゴルドーニに「暗闇の中で開く穴について、いくつかの白い滴について、光の速さで動く思考について、肉のない魂について、永遠に若い住民がいる空飛ぶ都市」について説明したという。
その話の後、ゴルドーニは元の場所に戻ったが、彼にとってはほんのわずかな時間しか経過しておらず、22年も経過していたというのは驚きでしかなかった。
ゴルドーニの話を聞いたマリオ神父は真実であると確信し、彼をもう一度その場所に連れていくと……なんと再びゴルドーニは消え去ったのだった。この時の蒸発から再びゴルドーニが戻ってきたことを示す記録は残されてはいないようだ。
この一件の後、マリオ神父はその場所を「悪魔の罠」と呼んで柵で囲むように命じ、人々が近づくことを禁じたという。この場所に“異次元ポータル”に類するものが発生していたのだろうか。
2010年10月1日の午後6時30分頃、米カリフォルニア州シャスタ山近くのフライフィッシングの人気エリアの川辺で、ジョン・ドウという3歳の男児が行方不明になった。
ジョンの迷子が報告された直後、当局はその地域の捜索を行い、5時間後に木立の中で座っていた男児を発見して安堵する。しかし、ジョンはぼんやりした目つきで混乱しているように見え、かなり奇妙な話をしたのだった。
男児によると、祖母と”思われる”女性に導かれて山奥の洞窟に連れていかれたのだという。
暗く冷たい洞窟の中には巨大なクモがいて、祖母の頭からは奇妙な光が発せられていることがわかり、彼女がある種のロボットであることに気付いたという。
祖母は彼に紙の上に排便するように命じ、彼がそれを拒否すると動揺した。祖母はまた、あなたは宇宙から来て、母親の子宮に植えられたのだと彼に話した。その後、少年は外に連れ戻され、誰かに発見されるまで茂みの中で待つように言われたのだという。
つまり、この後に捜索で見つかったことになる。
もちろんこの時には彼の祖母はここにいなかったのだが、実は事件のちょうど1年前に祖母は同地域でキャンプをしていたのだった。そしてキャンプ中のある時、祖母は不可解にも何らかの力でテントを出されて、少し離れたところまで歩かされると、そこで倒れたのだった。
目が覚めたとき、彼女は首の付け根に痛みを感じたと主張し、確かに首筋には2つの赤い刺された傷があったのだ。彼女はこれが男児の話と関係があるのかどうかわからないが、かなり奇妙な共通点があると話している。
短時間でありながら奇妙な失踪の1つであることは間違いない。やはり、この地にも異世界や異次元への“ポータル”があるということなのだろうか。
米海軍のパイロット、エディは1975年のある日、太平洋上で新しいF-14戦闘機のテスト飛行をしていた。
1939年にアメリア・イアハートが行方不明になった場所としても有名なハウランド島の近くを飛行していた時、突然霧に包まれたかと思えば、ジェットエンジンがダウンして無線通信を失った。
エディは慎重に機体を操縦し、島の砂浜に不時着することができた。ここがハウランド島であるとすれば、無人島のはずである。
ジェット機から降りると、驚いたことに若いポリネシア人女性がやって来てエディに挨拶し、この島は「時々飛行機を引き寄せることがある」と説明したのだった。いったいどういうことなのか。
そして驚くべきことに、島の住民はエディに半年ほどの間、我々と一緒にゆっくり暮らすことになると言い、実際にこの島で何もすることのないのんびりとした生活がはじまったのだった。まるでパラレルワールドに迷い込んでしまったかのようでもあった。
島での生活が6カ月になったある日、エディは島の者から元の世界に戻れると告げられた。次に気づいたときには、不時着した戦闘機の中にいたエディだったが、無線は回復しており、通りすがりの漁船に発見されてひとまず救助されたのである。それはエンジンが故障し、不時着した数時間後のことであった。
南の島でのんびりと過ごした半年の歳月は束の間の夢であったのだろうか。それとも、本当に異世界やパラレルワールドに足を踏み入れてしまっていたのか。もしそうなら、どのような理由で再び元の世界に戻れたのか謎は深まるばかりだ。
1868年、3歳の少女が米ミシガン州北部で父親が経営する製材キャンプにいたときに突然行方不明になった。父親によると彼女は1秒前にはそこにいたが、次の瞬間には神隠しに遭ったかのようにその場から消えたのだという。
捜索が開始され、父親はハンター2人の助けを借りて森で迷子になった幼い娘を必死に探した。しかし、残念ながら少女がどこに行ったか痕跡を見つけることはできず、日が暮れて初日の捜索が打ち切られた。
翌日も捜索は続き、猟師たちが荒野を歩き回っていると若い女の子の叫び声を聞いた。すぐに叫び声の発信源に向かって川岸に辿り着くと、大きな水しぶきの音と共に巨大な黒い獣が対岸に向かって泳いでいくのが見えた。そして薄着の少女が近くの丸太の上に立っていることに気づき、すぐさま保護したのである。
大きな獣は対岸に上がってから茂みの奥へと逃げていった。かなり動揺していた少女だったが、口が利けるようになるまでに回復してから話を聞いてみると、少女はあの黒い巨大な獣(少女はミスター・ウルフと呼んでいた)に拘束されていて、その場から1歩も離れることができない状態に置かれていたのだという。少女の帽子や上着は獣に食べられ、靴は強引に脱がされたのだった。
ともあれ少女を無傷で救出したことで捜索は一件落着となり、少女を誘拐した謎の獣、つまりUMA(未確認生物)の正体を突き止めることは二の次となったまま不問にされた。童話の“赤ずきんちゃん”を彷彿とさせる出来事であり、当時の新聞でも大きなニュースとして取り上げられたが、オオカミかあるいはクマのようなUMAについては謎のままである。
1922年、スウェーデン・コルスバの小さな村近くの荒野で、子供を巻き込んだ奇妙な事件が起きた。
この村で暮らす家族の子供、オステン・エングストロム(当時8歳)は、友人の家を出た午後3時30分頃に1人で家路に就いたのだったが、午後7時30分になっても家に戻ることはなく、家族は非常に心配し兄のグスタフは辺りを捜索したが、その後、少し経った夜8時半過ぎに震えながらオステンが家に戻って来た。
オステンによると、彼は家に帰る途中に森の中を散策していると空に奇妙なUFOを目撃したのだった。
静かに空中に浮かぶ3つの灰色のUFOは、まるで呼吸しているかのように脈動しており、そのさらに上空に大きな2つの黒い物体が浮かんでいたという。
次の瞬間、自宅から少し離れた暗闇の中で道に横たわっている自分がいた。凍えるほど寒く震えが止まらなかったが、家に向かって歩きだした。UFOはいずれもその場を飛び去っていったという。この間の4時間ほどの間の記憶はまったくなかったのだ。
道端で寝ていたことで風邪をひいたオステンは、その後4日ほど寝込むことになった。ベッドの中でオステンは目撃したUFOの姿を何度も思い出していたのだが、UFOはまるで海の中をすいすい泳ぐタコのようにエレガントな身のこなしで移動していたという。しかし、どうして自分が意識を失ったのかも、その間に何が起こっていたのかについても、まったく心当たりはないままであった。
1960年代にエチオピアで起きたとされているケースでは、政府高官の家族に育った人物が9歳の時に体験した奇妙な出来事が語られている。
匿名のその人物の幼少時代のある日、放課後にガブリエルという学友を家に招き、裏庭のテーブルで父を交えて食事をしたり遊んだりしていた。そして驚くべきことに、ふとした瞬間からガブリエルの姿はどこにもなくなっていたのだ。
裏庭は高さ3メートルの頑丈なレンガの壁で囲まれており、ガードマンも巡回していたので、少なくとも見つからずにこの場を抜け出すことは不可能であった。
最初は何かのいたずらかとも思われたのだが、どこを探してもガブリエルの姿は見つからず、本格的な捜索がすぐにはじまった。ガブリエルの父親はエチオピア軍の将軍であったこともあり、軍のヘリコプターまで出動させて大掛かりな捜索が行われたがガブリエルの行方は杳としてつかめなかった。
行方不明から48時間が経過した時点で全国ニュースとなったが何も手がかりはつかめずに時間は過ぎていくだけであった。
両親をはじめ関係者は最悪の事態を覚悟せざるを得なくなっていたが、行方不明から6カ月後、なんとガブリエルが裏庭の壁際で発見されたのである。行方不明となった時とまったく同じ学生服姿で、姿を消した時からわずかな時間しかたっていないような風体であったが、ガブリエルは精神的に混乱している状態にあった。
今までどこに行っていたのか問われると、ガブリエルは何人かの素敵な紳士が旅行に連れて行ってくれたのだと説明した。
ガブリエルは真っ白に輝く部屋の中にいて、その部屋自体が動いて美しい草原やビーチ、大都会の摩天楼などへ一瞬にして連れて行ってくれたという。部屋にはさまざまな国から来た子どもたちがいて、それぞれの国の言葉を話していたが、白人の紳士はどの言葉で話しかけられてもその言葉で返答をしていた。
ガブリエルによれば、この白い部屋にいたのはせいぜい数時間のことであったという。ガブリエルにとってこの6カ月間はわずか数時間であったことになる。またUFOによるエイリアン・アブダクションを連想させる話といえるかもしれない。
大人たちはガブリエルの話を信じずに悪魔に取りつかれたと解釈し、司祭に悪魔祓いを受けることを余儀なくされた。この時点で学業が半年遅れになったガブリエルだったが、その後の勉学にはあまり支障はなかったようで、後に物理学で博士号を取得している。
これら6つのケースはすべてが奇妙であるとしか言いようがないが、“異次元ポータル”や“パラレルワールド”、“UMA”や“エイリアン・アブダクション”などいくつかのキーワードが否応なく浮上してくる。久しぶりに会った人物に「今までどこへ行っていたの?」と聞いてみればひょっとすると意外な話が聞けるのかもしれない。
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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