30年前のUFO墜落事件を追う! ギリシア・アテネ「へレスの怪光」の謎/並木伸一郎

文=並木伸一郎

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    改竄された残骸の分析レポート、触れられなかった目撃者の証言。軍部によって隠蔽されたロズウェル事件に酷似した、忌まわしきUFO事件がギリシアでも起きていた。

    ギリシア上空を横切る光の編隊

     繰り越し開催が予定されるオリンピックは、その原点が紀元前8世紀の古代ギリシアで開催されたオリュンピア大祭に由来することは周知の通りだ。
     この古代オリンピックに代表されるように、有史以前のギリシアは文化的に高い水準を誇っていた。彼らが残した遺産としてはパルテノン神殿などの建造物が広く知られるが、一方でロードス島の巨像やアンティキティラ島の機械など、ミステリアスな存在があるのも事実だ。
     数多の歴史ミステリーをも有するギリシアだが、近現代でそうした事例は皆無といっていい。UFO事例もそのうちのひとつで、アメリカに次いで報告が多いヨーロッパにあって、2018年にエーゲ海の底で発見された巨大UFOのニュースを除けば、ギリシアにまつわる報道はほぼゼロに等しい。
     だが、実際には秘匿されているとしたら、どうだろう? 

     今でこそ情報公開法によって機密情報が開示されるアメリカでも、かつてはロズウェル事件のように真実が歪められた隠蔽事例は少なくない。そして、まさにロズウェルと同様に隠蔽されたUFO事件がギリシアにも存在する。それが今回紹介する「ヘレスの怪光」だ。“ギリシア版ロズウェル事件”とも称されるこの事例がいかなるものだったのか、本稿で詳らかにしたい。

     事件は1990年9月2日の午後9時ごろ、ギリシア最大都市であるアテネ近郊の上空で起きた。夜空を横切る不可解な発光体群が首都を取り囲む都市や村落で目撃されたのだ。たとえば、アテネ郊外にあるメガプラタノス村では、多くの住人たちが北方から飛来する様子を目撃している。
     彼らはそれが流星などではなく、発光する飛行物体であることにすぐに気づいた。なぜなら、視認された光体5〜6つのうちのひとつが不規則な軌道を描いていたからだ。それが何らかの不具合を起こしていることは明らかで、みるみるうちにスピードを失い、近くの山に激突した。
     アテネ北東に位置するペンテリカス山近郊からもたらされた証言は、墜落までの経過を事細かに伝えている。それによると、編隊はテッサロニキ上空を通過して北に向かっていたが、ふいに南に進路を変えた。だが、直後に再び反転し、ギリシア中心部に向かったという。
     そのうちのひとつが不具合を起こしたのは、ちょうどそのときのこと。突然、光の色が変わったかと思うと、不規則な動きを見せはじめた。まもなくしてそのまま高度を落とし、ティムプリストスと呼ばれる小さな丘に墜落したのだ。この丘には“預言者エリアスの教会”という名の小さな教会が建っており、物体が墜落したのは教会から数メートルしか離れていない場所だった。
     残された光の編隊が、まるで墜落機の回収作業をするように系統だった動きを見せたという証言もある。これが真実であれば、発光体が意思を持って動いていたことは間違いない。発光体が未確認飛行物体である可能性も高まるのだが、事実、それを裏づける証言もあるのだ。

    墜落現場のティムプリストスの丘。
    回収された金属片のリーク画像。墜落の影響なのか、かなり焼け焦げている。
    2018年、グーグルアース上で発見されたエーゲ海の海底に沈む巨大UFOを思わせる影。(©google.Inc)。

    現場で回収された奇妙な残留物

     墜落現場から約1キロ離れた場所に住むカラドラツ夫妻も、同時間帯に輝く光の編隊を見つけた。UFOだと確信したふたりが観測をはじめて15分ほどたったころ、続けざまに爆発音が3回鳴り響いた。同時に編隊のうちの1機がひときわ明るく瞬き、動きを乱した後、ティムプリストスに墜落した。

    「墜落した機体は損傷を受け、炎に包まれたように見えました。その後、墜
    落した場所から黒煙が上がっていました。タイヤが燃えるときのような黒い
    煙です。しばらくすると、ほかの機体が降下してきて、墜落機を囲むように
    着陸しました」
     機体が発する光によって、丘の一部は昼間のように明るく照らしだされていたと夫人はいう。
    「墜落現場がよく見える位置に移動した場所から、夫は燃えている物体の前を人影のようなものが往来しているのを見たといっています。近づいて確かめる勇気はなかったので、それが人間だったかどうかはわかりません。ただ、光の中で何らかの作業を、大慌てで行っていたのは間違いありません。“彼ら”は夜10時から深夜3時くらいまでその場に留まっていました」

     編隊が飛び去った後、夫妻は日が昇るのを待って現場に行ってみることにした。周辺を注意深く調べながら歩いていくと、やがて地面の至るところが焼け焦げた場所に出た。周囲に自生する松の表面や根元の部分も焼け焦げている。
     さらに見回すと、地表に小さな穴がふたつあいていた。機体の接地痕だろうか? のぞき込んでみると、そこに円形の小さな物体が残されていた。アンテナのような突起物があり、表面には稲妻を図式化したような模様が刻まれている。UFOの残留物に違いないと考えたふたりはそれを持ち帰ることにした。
     奇妙な発光体が落下した噂は、たちまち村中に広がった。地元のフティオティダ県警察もすばやく反応。直ちに本格的な現地調査が開始され、大小さまざまな金属片が発見された。墜落現場から回収された物証はカラドラツ夫妻から提出されたものを含め、空軍によって検証された。だが、公表された報告は実に不可解なものであったのだ。

    墜落現場の俯瞰画像。周囲にはほとんど民家などの建物はない(©google.Inc)
    墜落現場で調査を進めるリサーチャーたち。

    不可解な検証結果と隠蔽疑惑

     数多の物証は、当地から90キロ離れたタナグラ空軍基地の専門家によって徹底的に行われたとされている。それによる結論が、これらが特記すべき価値のない旧型のジェット戦闘機の部品だというものだったのだ。さらに、現場を訪れた空軍研究技術センターのチームも同様の見解で追従した。同チームによる1990年10月19日付の報告書は次のようなものである。

    「問題の物体は、半径200メートルにわたって地表の草と茂みを焼いた。現場で回収された破片は以下の通り。直径11センチの銅製メス型プラグ。その中央にアラビア数字の打刻。プラグと連結した銅製ピンケーブルが複数。ケーブルの絶縁体には絹の布とテフロンを使用。焼け焦げた円形のゴム製カバー。鉄製のリング。長さ10センチの鉄棒3本。その底面にギリシア文字の『F』の打刻。使用資材や刻まれた文字から、これらの破片は地球製だと推定できる。サイズと構成から、旧世代の人工衛星の部品である可能性が高い。
     ギリシア文字の『F』に関してはキリル文字でも用いられることから、欧州諸国あるいはロシアの墜落衛星と推測される」

     戦闘機と人工衛星の違いはあるが、どちらも地球由来のものという意味で見解は一致している。そして、口裏をあわせるようにアテネ国立天文台付属天文学研究所も否定的なコメントを出している。同研究所のマクリス所長は、現地調査を行っていないにもかかわらず、大気圏突入時の摩擦によって燃え上がった隕石もしくは人工衛星を、地上から見た人々が未確認飛行物体と誤認したと指摘。一種の集団ヒステリーだといい切ったのだ。
     だが、これら公的機関の見解が矛盾をはらんでいるのは明らかだ。戦闘機であれ衛星であれ、地表に激突する前にレーダーで探知されていたはずだがその報告はない。獲得される残骸が限定的なのも説明できない。人工衛星が落下したのであれば、それによるクレーターが発見されるはずだが、それに類するものもない。何より、カラドラツ夫妻が発見した物証が完全に無視されている。
     さらに、ギリシア国内で活動するUFOリサーチャーの調査によって、現場検証を行った警察官が、だれひとりとしてギリシア文字の「F」が刻まれた部品を見ていないことも明らかになっている。

     これが事実であれば、証拠の捏造にほかならない。
     さらに不可解なのが、目撃者への事情聴取を警察はいっさい行っていなかった。人工衛星や戦闘機の落下事故だとしても、状況把握さえしようとしなかったのは、いったいなぜか?
     その答えを筆者はひとつしか思いつかない。重要な物証の存在を無視する、ありもしない事象を証拠として示す、意図的に真相を究明しない──こうした姿勢が示唆するのは隠蔽、あるいは事実の黙殺である。つけ加えるなら、事件を報道するメディアも皆無に近かった。公表されたのも、警察が撮影した現場写真が数枚と、カラドラツ夫妻の名前だけだった。ここまでの経緯を鑑みれば、隠蔽のための情報統制を疑うのも筆者だけではないはずだ。
     正しい報告がなされていれば、この事件は同時間帯に複数の地域で、複数の人間が目撃したUFOフラップとして記憶に刻まれたであろう。だが、軍部やそれを統括するこの国の中枢機関は、隠蔽の判断を下したのだ。それが、この事件がギリシア版ロズウェル事件と称される理由である。

     既述の通り、隠蔽の“本家”であるアメリカでは、その存在を隠すことに限界がきており、UFOの機密情報が開示されることも少なくない。一方のギリシアではそこまで踏み切れないゆえに、情報統制=隠蔽を続けているのかもしれない(記事前半に示した海底の巨大UFOの報道も、グーグルアース上での発見であって、同国内から発信されたものではない)。そういった隠蔽体質だからこそ、ギリシア発のUFO事件が極端に少ないのではないだろうか。だとすれば、この事例以上の重大事件が秘匿されている可能性も否定できない。そう勘ぐってしまうのは、筆者だけだろうか。

     なお、当地のUFOリサーチャー、ハリス・クーツィアウティスらの調査によれば、事件から25年たった2015年においても、現場では木々や雑草が成長せず、高い電磁波が滞留しつづけていたという。つまり、真相究明の手掛かりが今も残されている可能性があるのだ。改めて物証や現場に対する調査・検証が行われ、精度の高い報告がなされることを願わずにはいられない。

    墜落現場で高い電磁波が検出された。不可解なことに現在でも草木がほとんど成長しない不思議な場所だという。
    回収された金属片の情報やUFOの目撃報告は、ギリシア政府によって隠蔽されている。現場から新たな金属片が見つかることに期待したい。
    UFOリサーチャーのハリス・クーツィアウティス。

    並木伸一郎

    「ムー」創刊当初から寄稿するベテランライター。UFO研究団体ICER日本代表、日本宇宙現象研究会(JSPS)会長などを兼任。ロズウェルやエリア51をはじめ現地調査を重ねて考察し、独自の仮説を「ムー」や自身のYouTubeなどで発表している。

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