鉄器を生み出した集団の全貌「ヒッタイト帝国」/ムー民のためのブックガイド
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都市伝説には実は、元ネタがあった。今回は、古代日本の「事故物件」をのぞいてみよう。
事故物件。近年、よく聞かれるようになった言葉だが、その定義は何であろう。『事故物件サイト・大島てるの絶対に借りてはいけない物件』によれば、事故物件とは「殺人事件や火災による死亡事故などの歴史的事実があった物件」のこと。もともと不動産関係者で使用されていた業界用語だったが、だれでも見られる形で公示したWEBサイト「大島てる」により、一般に広まったのだという。
つまり幽霊の出現や怪現象の発生は事故物件の条件ではないのだが、事故物件という言葉を聞いたとき、そういった心霊現象が想起されるのではないだろうか。
実際、事故物件住みます芸人として活動している松原タニシ氏の著書『事故物件怪談怖い間取り』シリーズでは、松原氏が「幽霊マンション」として知られるマンションの一室を借りて住んだ体験が記されている。
松原氏が借りた部屋はだれかが死んだ部屋ではなかったが、ラップ音が聞こえたり、カメラを設置すると謎の白い発光体が撮れたことが語られている。また、肩がどうにも重くなるという体調不良に悩まされていた松原氏がある喫茶店に入ったところ、初対面の店員に「肩に女がしがみついている」といわれ、入店を拒否された、という体験談も記されている。同書を原作とした中田秀夫の映画『事故物件恐い間取り』(2020年)でも、心霊現象が発生する物件が舞台とされている。
事故物件という言葉が浸透していないころにも、人が死んだ家にまつわる怪談はよく語られていた。
たとえばこんな話がある。若い夫婦があるマンションの13階に部屋を借りた。初日の夜、ふたりが寝ていると「チーン」というエレベーターが開く音がし、それからガチャガチャとドアを開けようとする音と「なかなか開かないんだ、これ」という少年の声が聞こえた。その現象は毎夜発生したが、夫婦がドアに近づくと音が止み、外を見てもだれもいないという状況が続いた。
耐えられなくなった夫婦は早々にその部屋を退居することにした。そしていよいよ退去が翌朝に迫った13日目の夜、いつものようにドアを開けようとする音がした後、今度はいつもとは違う「やっと開いた!」という言葉が聞こえた。そしてその翌日、夫婦が部屋の中で殺されているのが発見された。
この部屋はマンションの住人たちに呪われた部屋と呼ばれており、昔、この部屋に住んでいた少年が親に叱られ、部屋に追い出されて鍵をかけられてしまった際に誤って13階から落ちて死亡したという過去があった。
亡霊と化した少年は両親を恨み、報復のために夜中になると自分の家の鍵を開けにくるのだという(不思議な世界を考える会編『怪異百物語5』)。
その性質上、事故物件で心霊現象が起きる場合、原因はその家で死んだ人間であるとされることが多い。先住者の霊が後にやってきた人間に被害をもたらすのだ。
こういった話は賃貸住宅が発達した現代らしい怪談のようにも思えるが、驚くことにそうではない。平安時代の日本でも、自身の住んでいた邸宅に、新たに住みはじめた人間の前に現れた死者の記録が残されているのだ。
平安時代の事故物件、それは「河原院」とよばれる邸宅である。この邸宅をつくり、死去するまで住んだのは貴族であった源融という人物だとされる。それだけではない。『江談抄』『今昔物語集』『紫明抄』『宇治拾遺物語』『古本説話集』『古事談』といったいくつもの文献において、源融は死後、霊となって河原院に出現したという記録が残されている。
『宇治拾遺物語』では次のように記される。
融の死後、彼の子に河原院を献上された宇多法皇がこの屋敷に滞在していると、夜中に帯刀し、昼の装束を着た人の霊が出現した。
宇多法皇が「あなたはだれか」と問うと、「この家の主です」というため、「融の大臣か」と問うと、「さようでございます」と答える。
そこで何用かと問うと「ここはわが家であり、私が以前より住んでいるのに、帝がお出でになり、恐れ多く、窮屈しております。いかがいたしましょう」という。そこで宇多法皇は「この邸宅はお前の子孫に献上されたものだ。無理矢理奪ったわけでもないのに、礼儀も道理もわきまえていないのはそちらではないか。なぜ恨むのか」というと、融の霊は消えてしまったという。
また、『江談抄』にはこんな話もある。
宇多法皇が妻の京極御息所と河原院にて一夜を過ごしていると、塗籠に人の気配があり、戸が開いて融の霊が現れた。
融は「御息所を賜りたく思います」というため、宇多天皇は「お前は生前私の臣下で、私が主だった。それなのになぜそのようなことをいい出すのか。すぐに退け」と命じた。
しかし融は宇多法皇を恐れたような様子を見せながらも、法皇の腰に抱きついた。それを見た御息所は顔色を失くして倒れた。宇多法皇は御息所を牛車に乗せて急ぎ宮中に戻り、浄蔵法師を呼んで祈禱させたところ、よみがえったという。
これと同様の話は『古事談』等にもあり、河原院の融の霊について広く知られていたことがうかがえる。
このように、平安時代には生前の住居に現れ、新たな住人に害をなす死者の記録があった。
家とはその人間が生活の多くの時間を過ごす場所だ。そこに死者の思いが残りつづけるのは、いつの時代も変わらないのだろう。
(月刊ムー2023年2月号掲載記事)
朝里樹
1990年北海道生まれ。公務員として働くかたわら、在野で都市伝説の収集・研究を行う。
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