香川県の飯野山にいた! 足跡を残した巨大な愛され妖怪「オジョモ」/妖怪補遺々々
香川県に伝わる巨人妖怪オジョモ。ちょっと聞き慣れないかもしれませんが、地元では意外な愛されキャラ。しかも各地に異なる伝承も。そんなオジョモの怪異を補遺々々しました。ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・
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四国の巨大なため池と、古代イスラエルの民の命を救った伝説の食べ物……。ただの語呂合わせのような仮説に基づいて調査を進めると、まさかの事実が次々と露呈した。それはシルクロードの風が運んだ幻なのか。文献資料や現地取材をもとに考察する。
目次
四国・香川県には「ため池」が多い。その数なんと16,000箇所以上。県の総面積に対するため池の密度は全国一である(令和6年度 香川県調査データによる)。香川県は年間降水量が少ないうえ河川の水量が乏しいため、灌漑用として整備されたものが多く、県内の農業用水の50パーセント以上がこれらのため池にまかなわれている。
なかでも「まんのう池」は、同県仲多度郡まんのう町にある日本最大級の灌漑用のため池である。金刀比羅宮(こんぴらさん)が鎮座する象頭山(大麻山・琴平山)の麓に位置し、周囲約20キロメートル。その歴史は大変古く、大宝年間701年~704年、讃岐の国守、道守朝臣(みちもりあそん)の創築と伝わり、821年には弘法大師空海が再築。その後、洪水や大地震による決壊に見舞われるも修理や再築工事を繰り返しながら貯水量を増し、昭和30年代にはほぼ現在の姿に。2016年には「世界かんがい施設遺産」に選出されている。
気候条件によってもたらされる慢性的な水不足や干ばつは、地域の存続をおびやかす重大な課題であった。まんのう池が国内最大規模になるまでにいたった歴史の裏側には、讃岐の人々の果てしない苦悩と奮闘があったのだ。

このまんのう池が奈良時代(大宝年間)につくられたものであることは、古文書や池の斜面に残る遺跡、出土品の年代などからも推測できるという。
平成15年に築堤1,300年を記念して実施された水没遺跡調査によると、古墳2基、窯跡1基、住居跡30戸のほか、縄文期の石器や弥生期の土器類、古墳時代中期以降の須恵器等が発見されている。これらの調査結果や文献資料等より、まんのう池が古墳時代以降につくられたものであることに矛盾はないが、創築当時の位置や規模、構造は不明とされている。


「まんのう池」という池名の変遷について、文献資料には次のような記述がある。
文武天皇の大宝年間の国守、道守朝臣によって創築された当時は、神野郷なるところから神野池。
五十二代嵯峨天皇が大同四年に即位されると、その諱(いみな)の神野にふれることから真野郷と改称したので、真野池となった。
平安中期の寛仁四年の「万農池後碑文」にこうあるところから万農池とある。
その後、萬農池、萬濃池、万能池、これをもじって十市池と当て字を書くようになった。
江戸時代の記録に満濃池の池名がみえているものもある。
明治十二年、満濃池水利土木会が現在の「満濃池」に統一、公式のものとなる。
(『満濃池関係資料集』より引用)
しかし筆者は、この池名の由来に少し違和感をおぼえた。
池の所在地「神野郷」からついた池名表記を、嵯峨天皇の御代に「神(しん)」と同韻の「真」に変えたのではないかとする資料もみられたが、なぜ「しんの」ではなく、「まの」という読みの変遷により、現在の「まんのう池」に着地したのか? ちなみに、現在池のほとりにある神野神社は「かんの」神社、神野寺は「かんのじ」である。
ここで、ひとつの仮説が浮かんだ。
「まの・まんのう」は、旧約聖書に登場する「マナ」とも語感が似てはいやしないか。もしかすると、「まんのう池=マナの池」ではないのかーー。
「マナ」とは、旧約聖書「出エジプト記」第16章に登場する「食べ物」である(諸説あり。)
エジプトから逃れた古代イスラエルの民が長旅の道中、飢餓に瀕した際、モーセが天に祈るともたらされたもので、「これはなんであろう」という意味のヘブライ語から「マナ」と名付けられたとされ、ヘブライ語・アラビア語では「マーン(mān)」と発音する。

結論からいえば、「まんのう池」はかつて「マーンの池」だったのではないのか。
農作物を育む「水」の神聖性を「マナ」になぞらえたという大きな枠組みもある。モーセたちが約束の地カナンにたどり着くまでの40年間に「マナ(マーン)」が古代イスラエルの民の空腹を満たし続けたことにあやかり、讃岐の地に築かれた水源・まんのう池が、永く豊かな食料供給が叶いますようにと「マーンの池」と名付けられたという仮説だ。それが後世になって「まんのう池」と変化したのではないだろうか。
旧約聖書と四国を結び付けるのは早計に思うかもしれないが、それには理由がある。
四国・徳島県の剣山に伝わる秘宝伝説をご存じだろうか?
「マナ」は古代イスラエルの三種の神器「十戒の石板・アロンの杖・マナの壺」にもみえるが、香川県に隣接する徳島県にそびえる剣山のどこかに、これらを納めた契約の箱=アークが眠っているという「ソロモンの秘宝伝説」は有名だ。
紀元前8世紀ころ、メソポタミアに捕囚された古代イスラエルの民が神とモーセに導かれ東方へ移動。シルクロードを経て日本・四国に辿り着くうちにこの「契約の箱」をつくり、剣山に納めたのではないかというもので、1936年から研究者らによって発掘調査が行われたこともあったが、いまだ「アーク」の発見にはいたっていない。


自動車や航空機のなかった古代の人々が、アジア大陸を横断した上、海を渡り、日本にやってきていたなど荒唐無稽な話に思えるかも知れないが、奈良市の富雄丸山古墳で発掘された、前漢時代(紀元前1世紀末〜後1世紀初め)の「虺龍文鏡(きりゅうもんきょう)」と同じ様式の青銅鏡が、約6,000キロメートルも離れたウズベキスタンのサマルカンド市でも出土していたことが判明したというニュースも記憶に新しい。シルクロードの文化交流は、我々の想像をはるかに超えるスケールで展開していたのかも知れない。
仮にそうだとしても「まんのう池はマナの池である」とするのは、突拍子もない考察だと思われるであろう。しかしこの仮説に基づいて調査を進めてみると、古代讃岐とユダヤとの繋がりを感じずにはいられない資料や事実も見えてきた。
まんのう池からほど近い大麻山に鎮座する、金刀比羅宮末社「龍王社」では、毎年7月17日に雨乞い神事が執り行われる。これは剣山本宮山頂大祭と同日であり、旧約聖書「創世記」にある「ノアの方舟」が、アララト山の山頂に漂着したとされる日とも一致する。これは偶然の一致であろうか。もちろん、現在使用されているグレゴリオ暦とのズレも指摘されるが……。



まんのう池の古代史によると、819年の洪水による堤防の決壊以降、修築工事は困難を極めていたが、821年に弘法大師空海によって、たちまちのうちに再築されたという。
空海は774年、讃岐国多度郡弘田郷屏風浦(現在の香川県善通寺市)に生まれたと伝わる。幼名は佐伯眞魚といい、読み方は、まな、まお、まいおなど諸説あるという。もしも「まな」だったとすると、ここにも旧約聖書に登場する「マナ」との繋がりを感じてしまうのは筆者だけであろうか。

空海が遣唐使として中国に渡った際に景教(ネストリウス派キリスト教)に触れたのではないかという説もあり、これを裏付けるように、空海がひらいた真言宗の総本山である高野山には、景教の教義や中国に伝来してからの経緯などが刻まれた古碑「大秦景教流行中国碑」のレプリカがある。
謎めいたこの空海にまつわる伝説が、よりいっそう古代のまんのう池とキリスト教……ひいては旧約聖書との繋がりを濃くしているように思えるのだ。

空海像が立つ神野寺に程近い神野神社の由緒には、「まだまんのう池が存在しないころ『天真名井(あめのまない)』と称し水神を祀る湧水ポイントがあったが、大宝年間にまんのう池を築くにあたって、この神を現在の神野神社に遷座し、池の守護神『池の宮』と称え奉った。」という旨の記述がある。


「天真名井」は、『古事記』や『日本書紀』にも登場する高天原の神聖な清水であり、京都・元伊勢、籠神社の奥宮「真名井神社」や、天孫降臨の地、宮崎・高千穂の「天の真名井」など、全国各地に「聖なる水」を祀る「真名井」と称する聖地が多数存在する。
「出エジプト記」において、モーセが天に祈った際にもたらされた「マナ」とは、「雨」や「湧水」の隠喩だったのかも知れない。
そう考えると前述の、7月17日に大麻山山頂の龍王社で行われる雨乞い神事にも、うなずけるものがある。全国に点在する「空海」にゆかりのある「水」の聖地についても同様である。そして、空海伝説に登場する幼名「眞魚=マナ」は、各地で民の命を繋いだ「治水・灌漑」のシンボル的呼称なのではないだろうか。
この場に書ききれないものもあるが、「まんのう池」がかつて「マナの池」であった可能性にふれてきた。これらはもちろん筆者の推論である。真相は分からない。ミステリアスな謎をはらんでたゆたう、まんのう池。それはまさに、永久に讃岐を潤し続ける奇跡の水瓶=マナの壺なのだ。
参考文献
『讃岐国満濃池通史』斎部馨著/『満濃池史』満濃池土地改良区編/『讃岐伝説風土記 第1巻』荒井とみ三著/『讃岐の地名とその伝説』堀川碧星著/『満濃池関係資料集』建設省四国地方建設局編/『名勝満濃池保存活用計画書』まんのう町教育委員会出版/『香川県の歴史』市原輝士・山本大著/『聖書』日本聖書協会発行
寺田真理子
ライター、デザイナー、動植物と自然を愛するオカルト・ミステリー研究家。日々キョロキョロと、主に四国の謎を追う。
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