本物の呪物になるかも…? Jホラーの“美術の裏側”が見える「ホラーにふれる展」開催中

文=杉浦みな子

    日本映画界の美術監督たちが手がけた、“恐怖をつくる技術”に迫る体験型展示会。東京ソラマチで11月9日まで開催中。

    恐怖を生み出す職人技にふれる展覧会

     映画の中でしか見られないはずの恐怖空間が、この秋、東京ソラマチに出現! 10月11日(土)から11月9日(日)まで開催されている「ホラーにふれる展 -映画美術の世界-」(企画・制作:松竹お化け本舗)は、ジャパニーズホラー映画の“美術”にスポットをあてた体験型展示イベントだ。 

     昨年、新潟県立自然科学館で約3万2000人を動員した人気企画が、スケールアップして東京へ。「見る」「撮る」「さわる」ことで、映画の“恐怖を生む仕組み”を体感できる内容となっている。現地の写真を交えて、見どころを紹介していこう。

    東京ソラマチ5階 スペース634で開催中。

    プロの美術監督が作った恐怖空間を、自分のスマホで撮影できる

     会場に足を踏み入れると、懐かしい昭和50〜60年代の日本をモチーフとしたノスタルジー感のある風景の中に、じわりと不穏さを潜ませた世界が広がっている。 

    いきなり首なし地蔵がお出迎え。
    昭和の町内の様子がリアルに再現された空間。
    なくした眼球の代わりに、2つの鈴を眼窩に入れて佇む女性、鈴子。

     本展の凄いところは、「ホラーにふれる」というコンセプトに合わせて、新たに制作された美術作品で構成されているということ。そう、実際に何かの映画で使われたセットを使い回しているのではない。このイベントのために、日本映画界で長年活躍してきた美術監督たちが、わざわざ日本家屋や昭和の街並みを作り上げたのである。

     撮影現場で培われたノウハウと造形技術を駆使し、“映画美術がどのように作品世界を作るのか”を、来場者がわかりやすく体感できるよう工夫されていて圧巻。一部の展示物では、セットの裏側に回り込むこともできて、恐怖を生む仕組みを目の当たりにできる。

    天井に子どもと人形が張り付き、天地が逆さまになった異空間の美術セット。
    寂れた団地を再現したスペース。このドアにも、ちょっとした仕掛けが……
    日本の怪談でよくある、障子に不穏な影が映るセットも…
    裏に回るとその仕組みがバッチリ見える。

     そして会場内では、誰でも自由に写真・動画撮影が可能となっている。
     今や、誰もが手元のスマートフォンで簡単に動画制作者になれる時代。来場者ひとりひとりが、自分のスマホやカメラでプロの美術セットを撮影したら、どんな映像のストーリーが生まれるのか? そんな時代性を活かした面白さも魅力だ。 

     さらに、全ての展示物に直接触れたり、持ち上げたりできるのも本展ならでは。見た目は重そうな墓石や扉も、実は軽量素材でできていて、“本物のように見せる”ための技術と工夫を、自分の手で確かめることができる。スクリーン越しでは決してわからない、映画美術のリアルに出会える。 

    墓石はかなりリアルだが、実は木材の上に発泡スチロールを貼り付けたもの。
    墓石の中にある「手」に直接触れられるのも、本イベントの醍醐味。
    こちらは古めかしい銅製の扉だが…、
    裏に回ると、木製のハリボテであることがわかる。

     会場には、美術監督たちの過去作品やスケッチを紹介する「美術ノート」コーナーも設置。細部のこだわりや、恐怖を演出するためのアイデアがどのように生まれるのか、職人技の裏側をのぞくことができる。

    美術監督たちの思考の変遷が垣間見れる「美術ノート」の展示も。

    これ、いつか本物の呪物になるのでは?

     そしてまた、ムー目線で注目したいのは、これらの展示物がいつか“本物”の呪物になっていく可能性もあるのでは……? ということだ。

     映画美術とは、単なる背景ではなく、作品そのものを支える存在。作り手の想いが込められた美術セットや空間は、その作品を観る者の記憶に刻まれ、時に何かを宿すこともあるだろう。 

     モノに込められた想いの量が多いほど、そこに宿る霊性が強まり“呪物化”していくのは、ムー的世界の常である。 

     特に本展の美術セットは、上述の通り、わざわざこのイベントのコンセプトに合わせてプロが新たに制作したもの。かなり手の込んだ作りになっており、制作者の熱量を感じる。 

    樹木に巻きつけられる藁人形、お札など、人の念が込められやすいモノの小道具も多い。

     さらに今回のイベントは、東京ソラマチという多くの人が訪れるスポットでの開催となる上、来場者のスマホやカメラで撮影された展示物の画像や映像が、インターネットで拡散される仕掛けも内包している。つまりこれらの展示物を、世の中の多くの人が目撃する構造ができあがっているのだ。 

     そう考えると、制作者の強い思い入れを宿した本展の展示物たちが、多くの観衆の目を浴びて、いつしか霊性を帯びる未来もあるかもしれない。それこそアナベル人形のように、フィクションと現実が交錯する“呪物”として。 

    こちらも宿りやすそうな、祠とそこに備えられた人形の小道具。

     そんなわけで、ここにあるのは、日本映画界のプロが作り上げた“次世代の呪物になるかもしれない美術作品”とも捉えられる。ぜひイベントに足を運び、あなたの手の中にあるスマホで、これら将来の呪物候補たちを撮影してほしい。いや、むしろ展示物のいくつかは、すでに“なっている”可能性もあるのかも……。 

     <イベント概要>
    「ホラーにふれる展 -映画美術の世界-」 
    会期:2025年10月11日(土)~11月9日(日) 
    会場:東京ソラマチ5階 スペース634(東京都墨田区押上1丁目1-2) 
    アクセス:とうきょうスカイツリー駅 正面口すぐ/押上駅 B3・A2出口すぐhttps://plan.shochiku.co.jp/horrornifureruten

    杉浦みな子

    オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。
    音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀…と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハー。
    https://sugiuraminako.edire.co/

    関連記事

    おすすめ記事