宇宙考古学や異星人アブダクションを予言!? 禁断のSF「シェイヴァー・ミステリー」/ムーペディア

文=羽仁 礼

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    毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。今回は、1950年代にアメリカで発表され、話題と論争を巻き起こしたSFシリーズ「シェヴァー・ミステリー」を取りあげる。

    世間を騒がせた物語は一通の手紙から始まった

     シェイヴァー・ミステリーとは、アメリカのSF雑誌「アメイジング・ストーリーズ」などに、リチャード・シャープ・シェイヴァーを中心とする何人かの作家たちが書いた一連のSFシリーズのことをいう。

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    リチャード・シャープ・シェイヴァーの作品が初めて掲載された「アメイジング・ストーリーズ」(1945年3月号)の表紙。

     そのすべては1943年、シェイヴァーが「アメイジング・ストーリーズ」の編集部に送った一通の手紙から始まった。
     手紙の中でシェイヴァーは、天使の言葉であり、伝説のアトランティスでも用いられていたという古代言語「マントン」と、その構造について解説していた。シェイヴァーによればマントンは、全宇宙に普遍的に通用する言語で、アルファベットの原型でもあるため、現在の英語にもその痕跡が見られるという。
     西洋神秘主義においては、『旧約聖書』の「創世記」に記された「バベルの塔」伝説の影響か、世界各地の人類が用いるさまざまな言語は、本来はひとつの言葉から分化したという観念がある。つまり、人種を問わず、あらゆる人類が共通して理解できる言語が存在し、これを用いれば天使とさえ会話できるというのだ。イギリスの魔術師ジョン・ディーのエノク語もこうした観念を基礎にしたものである。
     さらにアメリカの高名な言語学者ノーム・チョムスキーまでも似たような主張をしているから、言語学と神秘主義の垣根は、意外に低いのかもしれない。

     当時、この「アメイジング・ストーリーズ」編集長であったレイモンド・パーマーは、マントンの原理を自ら英単語にあてはめてその効果を確信し、「古代言語?」と題して1944年1月号に掲載した。パーマーならずとも、シェイヴァーがどうやってこのような古代の言語知識を得たのか気になるところだ。そこでシェイヴァーはパーマーの要請に応え、マントンの知識はレムリアに住んでいた自分の過去世の知識や、自らの奇妙な体験から得られたものであるとし、過去世の知識に基づいた太古の地球の模様や、今なお地底に潜む「デロ」という邪悪な存在について書き送った。

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    「アメイジング・ストーリーズ」に掲載された「レムリアの記憶」。〝真実の物語〞とうたわれたおかげで、大きな反響を呼んだ。

    地底世界に隠された驚くべき〝真実〞

     シェイヴァーによれば、太古の昔、地球にはアトラン人とタイタン人というふたつの種族が住んでいた。アトラン人はアトランティスに、そしてタイタン人はレムリアに住んでいたが、彼らはいずれも15万年前に宇宙からやってきて、地球を植民地として住みついたのだった。
     アトラン人とタイタン人は、本来不死の巨人族であったが、1万2000年前、太陽から有害な放射線が流れだすようになった。この有害な放射線のため、彼らも老化が進み、やがて死にいたることが判明した。そこで彼らは、とりあえず巨大な地下都市を建造して避難した。しかし、時代を経るとこの都市でさえ安全ではないことが判明し、最後には地球を捨てて他の星に移住した。
     あとには、彼らが作りあげた高度な機械群と、奴隷として仕えていた下級人種が残された。この残された人種の大多数は、太陽からの放射線の影響で、背の低い、醜い人種に変化した。これがデロだ。
     デロは、地下都市に残された機械装置を地中で発見した。そうした機械装置の中には、地上の出来事をいながらにして見ることができるものや、物体を瞬間移動させる装置、さらに、まるで現実のような幻影を見せたり、声を聞かせることで地上人を操り、犯罪に導くものなどがあった。
     個人の病気や犯罪、一見事故と思われる墜落事件や大規模自然災害など、地上で発生するあらゆる不幸や災害は、地底のデロがこうした各種の機械装置を用いて引き起こしているのだ。そればかりではない。デロたちはしばしば地上の人間を誘拐し、自らの欲望のままに拷問やレイプの対象とし、場合によっては食料にしたりしているのだ。

     じつはシェイヴァー自身も以前、地中でデロに捕らえられたことがあった。しかし、かつての下級人種の中には、デロのような邪悪な存在にならなかった者たちもいる。彼らはテロと呼ばれ、シェイヴァーもテロによって助けだされ、さらに地下の記録装置に残されていた自らの過去世の記憶をのぞき見たことから、マントンやアトラン人、タイタン人などに関する知識を得たのだ。

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    本の表紙に描かれた地底の生物デロ。シェイヴァーによれば、地上で発生する事故や災害などは、デロによってもたらされるという。

    シェイヴァーの主張と地球空洞説

     このシェイヴァーの主張をどう考えたらよいのだろう。

     デロたちが地下の空洞に住むという記述は、地球は空洞になっており、内部には他の文明世界が存在するとする「地球空洞説」との関連も想起させる。
     地球空洞説の歴史は古く、ハレー彗星にその名を残す天文学者エドモンド・ハレーが、1692年に三重構造の空洞説を唱えたのが最初とされる。その後、1818年に、アメリカの陸軍大尉ジョン・クリーブス・シムズが、5個の天体が入れ子状になった空洞説を唱え、さらに1906年にウイリアム・リードが『極点の幻影』を書いてから一般にも広まるようになった。
     しかし現代では、地中を伝わる地震波の観測によって、地球は空洞ではあり得ないと判明している。
     一方、シェイヴァーのいう地下世界は、アトラン人とタイタン人が彫りあげた巨大な洞窟ともいうべきものである。そして、この種の地下洞窟については、さまざまな目撃報告が寄せられているのだ。

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    アメリカの陸軍大尉ジョン・クリーブス・シムズが主張する、5層の入れ子状になった空洞地球の概念図。
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    19世紀末に描かれた、地球内部にある地底世界の想像図。

     伝説の地底世界アガルタは有名だが、アメリカのシャスタ山やレーニア山近くにも、地中への入り口があるという。南アフリカのシャーマン、クレド・ムトワも、レプティリアンが住む地下世界について述べている。
    さらに、カッパドキアに実在する地下都市は、最終的にどこにつながっているのか、今なお確認できていない。

     他方、シェイヴァーの体験を疑問視する見方もある。
     じつは、シェイヴァーがデロの存在を知るきっかけとなったのは1932年のこと、ペンシルヴェニア州バートの自動車工場で溶接工として働いていたとき、自分が扱う溶接機を通じて、周囲で働く人々の思考が声として聞こえるようになったのがきっかけだった。
     他人の思考が聞こえたり、自分の思考が他人に読まれていると感じるのは「思考伝播」と呼ばれ、ありもしないことを真実と信じる妄想と並んで、統合失調症の典型的な症状だ。実際、シェイヴァーはその後8年ほど精神病院に入院したことがあるという。

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    リチャード・シャープ・シェイヴァー(左)と、彼を見いだした「アメイジング・ストーリーズ」編集長のレイモンド・パーマー。

    物語が引き起こした騒動とその顚末

     編集長のパーマーは、当初この事実を知らなかったようだが、たとえ知っていたとしても、彼にとってはどうでもよいことだったろう。
     まずは、「アメイジング・ストーリーズ」で「初めて真実の物語が掲載される」というキャンペーンを大々的に展開したうえで、3倍の長さに引き延ばしたシェイヴァーの手紙を、「レムリアの記憶」と題して、1945年3月号に掲載した。

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    シェイヴァー・ミステリーをピックアップした「アメイジング・ストーリーズ」(1947年6月号)。同シリーズは、掲載当初はもてはやされたものの、次第に世間から寄せられる批判の声が大きくなっていった。

     読者の反響は凄まじかった。この号はたちまち売り切れ、5万部増刷された。それまで月に40通から50通程度にすぎなかった読者からの手紙が、このときは2500通にまで跳ねあがったという。
     そればかりではない。多くの読者が、奇妙な声を聞いたとか、自分たちも洞窟でデロを見た、さらには、この作品で自分がアトランティスやレムリアに住んでいたころの記憶を思いだしたなどと書き送ってきたのだ。ある女性などは、ナチス占領下のパリで地下深くに連れ去られ、デロに捕まって何か月もレイプされたり、拷問を受けたりした恐怖の体験を書き綴ってきた。

     当然パーマーはシェイヴァーに続編を依頼し、他の作家にもシェイヴァーの世界観に基づいた作品を執筆させ、これらをシェイヴァー・ミステリーと名づけて、毎号のように自分の雑誌に掲載した。

     さらに1947年6月24日、実業家ケネス・アーノルドがレーニア山付近で謎の飛行物体を目撃するという、いわゆる「ケネス・アーノルド事件」が発生し、UFOの存在が認知されると、パーマーはUFOもまたシェイヴァー・ミステリーの真性を示す証拠だとして煽った。

     その効果もあり、「アメイジング・ストーリーズ」は急速に部数を伸ばし、熱心な読者からは投書が殺到しつづけた。

     しかし、シェイヴァー・ミステリーや小説の内容を、さも真実のように宣伝するパーマーの売り込み手法は、真面目なSFファンたちからはひんしゅくを買った。ついには、「アメイジング・ストーリーズ」の出版元であるジフ・デイヴィス社のオーナーも懸念を示すようになり、その結果、パーマーは1947年に「アメイジング・ストーリーズ」を離れ、同誌はシェイヴァーの作品掲載をやめた。

     その後、パーマーは「フェイト」や「イマジネーション」、「ミスティック」といった雑誌を自ら立ちあげ、これらの媒体でシェイヴァー・ミステリーの発表を続けた。
     しかし、パーマーが発行した雑誌のほとんどは長続きせず、1960年代後半には、シェイヴァーも作家として忘れられた存在となっていた。そのころのシェイヴァーは、古代レムリア人が石の中にその歴史を刻んでいたと主張しはじめ、そうした石の断片を販売して余生を過ごしたという。

    〝インチキ〞扱いされた作品の真の姿とは?

     SF作品の歴史において、シェイヴァー・ミステリーの評価は低く、まるで黒歴史のように扱われている。他方、その内容をあらためて考察してみると、単なるフィクションとは思えないものも含まれているのだ。
     たとえば、太古の昔に地球を訪れた異人種の記述は、のちの太古宇宙飛行士説を先取りするものとなっている。さらに、タイタン人が時折地球に戻ってきて、サンプルとして人類をさらっていくという記述もあるが、これは異星人による拉致事件の始まりとして知られるアントニオ・ビリャス=ボアス事件やヒル夫妻事件が起こる10年以上も前に、「エイリアン・アブダクション」に言及していたことになる。

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    1961年、異星人に拉致されたヒル夫妻(上)と彼らが目撃したUFOの再現イラスト(下)。その事件に先駆けて、シェイヴァー・ミステリーではすでに「エイリアン・アブダクション」に言及していた。

     もしかしたらシェイヴァー・ミステリーは、SF作品としては、〝アメリカSFの父〞と称されるヒューゴー・ガーンズバックの「ラルフ124C41+」をはるかに凌ぐ「予言書」だったのかもしれない。

    ●参考資料=『SF 雑誌の歴史』(マイク・アシュリー著/東京創元社)、『図解UFO』(桜井慎太郎著/新紀元社)、『人類はなぜUFO と遭遇するのか』(カーティス・ピーブルズ著/ダイヤモンド社)/他

    (月刊ムー2020年6月号掲載)

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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