スットントン…地下の鼠浄土は黄泉の世界!? 本当は怖い「おむすびころりん」
だれもが知っている物語の裏に語られているものとは!?
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紙一枚、階段ひとつで世界は裏返る。異世界は日常のすぐ隣にある。
異世界、それは文字通り我々が住む現実世界とは異なる世界のことだ。近年の小説や漫画などの創作分野においては異世界に転移、転生してそこで新たな人生や生活を営むという物語が様々に描かれているが、都市伝説においても異世界に行く、という話は一定のジャンルを築いている。
ただ、残念ながら、そこで語られる異世界は夢や希望の満ちた世界などではない。
偶然異世界に迷い込んでしまうという話は多いが、近年のネット上では意図的に異世界への扉を開く方法が語られており、そのまま「異世界に行く方法」などと呼ばれている。
有名なのはエレベーターを使う方法だろう。これは10階以上の階がある建物が必要となり、複雑な手順をもって実行される。
まずひとりで条件を満たす建物に赴き、エレベーターに乗る。
次にエレベーターに乗ったまま4階、2階、6階、2階、10階と移動する。このときだれもエレベーターに乗ってきてはならない。
10階に着いたら降りずに5階のボタンを押すと、5階で若い女がエレベーターに乗ってくる。このとき、女に話しかけてはならない。
女が乗ったのを確認したら1階のボタンを押す。するとエレベーターは1階に降りず、10階に上がっていく。このときに違う階のボタンを押すと失敗するが、中断する最後の機会でもある。ボタンを押さずに10階に着くと、異世界に行ける。
その世界はエレベーターを降りたその人間以外にだれもいないため、すぐに異世界だとわかる。また、途中で乗ってきた若い女は人間ではないのだとされる。
ほかにもネット上で知られるものに「飽きた」と呼ばれる方法がある。これはパラレルワールドに行く手段とされ、まず5センチ四方の正方形の紙にできるだけ大きく六芒星を描き、その中心部に「飽きた」という文字を書く。そして紙をもったまま眠り、翌日、起きたときに紙がなくなっていて、周囲の雰囲気や日常に変化が起きていればそれはパラレルワールドで、別の世界の自分との入れ替わりが成功しているのだという。
ほかにも「鬼門を開ける方法」と呼ばれるものもある。これは東京の鉄道を使った方法で、まず秋葉原駅から日比谷線に乗り、茅場町駅で降りてホームを八丁堀方面に行くと、鉄格子の下に塩が置かれているため、それを足で蹴散らす。そのまま東西線に乗り換え、高田馬場駅で降りてホームを西武新宿線乗り換え方面に行くと、鉄格子の下塩が置かれているため、それを足で蹴散らす。そのままもう一度東西線にて茅場町駅で降りて改札を潜り、4a出口の階段の下に米を10粒落とす。そして日比谷線の茅場町駅に乗り、築地駅で降りてホームを築地本願寺方面に行くと、鉄格子の下に塩が置かれているため、それを足で蹴散らす。そのまま日比谷線に乗り、目を閉じて自分がいちばんしたいことを考えながら手を組んでそのまま乗っていれば良いという。
このように現代には異世界に行くための方法はいくつもある。しかし、現実とは別の世界に足を踏み入れる話が現代のみにあるかと言えば、そうではない。日本では古くは神話の時代から、異なる世界へと赴いてしまった者たちの物語が語られている。こういった話は異郷訪問譚とも呼ばれている。
こういった話の中で最古のものは、やはり奈良時代の『古事記』など日本神話に記される伊邪那岐命の黄泉国訪問だろう。妻であり、妹である伊邪那美命が火の神である火之迦具土神を産み、火傷で死んでしまったために、伊邪那岐は彼女を追って黄泉国を訪れる。この話では生死の国の境である黄泉比良坂を行くことが異世界へ行く方法であった。
伊邪那岐が黄泉国を進んで行くとそこに伊邪那美がいたが、伊邪那美は「自分は黄泉戸喫(黄泉で作られた食べ物)を食べてしまったため、本来であれば帰ることができない身だが、黄泉神と話をするため、しばらくこちらを見ないでほしい」と告げた。しかし待ちかねた伊邪那岐が櫛に火を灯して妻を見ると、そこには体が腐敗した伊邪那美の姿があった。
伊邪那美は恥をかかされたと怒り狂い、黄泉醜女を使って伊邪那岐を追わせ、最後は自分で伊邪那岐を追ったが、伊邪那岐は黄泉比良坂を過ぎ、黄泉国と現世との境を大きな岩、千引石で塞いだ。これにより正者と死者の国は永遠にわかたれたのだという。
これ以降、日本では多くの異世界を訪問する話が語られた。竜宮に案内されたり、天狗に連れて行かれたりと内容は様々で、落とし物が異世界への扉の鍵となる場合もある。
有名なのは昔話の「おむすびころりん」だろう。これは「鼠浄土」とも呼ばれ、偶然落としたおむすびが鼠たちの世界へとおじいさんを誘う。
類似した話に「黄金の鉈」というものもあり、こちらは木こりが淵に鉈を落とし、それを探して水中に潜ると御殿を見つける。中に入ると立派な人が金と銀の鉈をもってくるが、木こりは自分のものではないと受け取らない。次に粗末な木こりの鉈をもってきたため、それを受け取ると、正直者であったゆえに金の鉈と銀の鉈ももらえたという話だ。これはイソップ童話の「金の斧・銀の斧」に似ているが、ほかにもヨーロッパでは特定の場所や行動から現実とは異なる時間の流れ方をする妖精の国に迷い込んでしまうという伝承が数多く残っている。
異世界に行く方法は、世界中のさまざまな場所に古くから伝わっている。意図的にしろ、偶然にしろ、もしそんな世界に入り込んでしまったとき、もとの世界に戻れる保証はどこにもないのだ。
(月刊ムー 2025年1月号掲載)
朝里樹
1990年北海道生まれ。公務員として働くかたわら、在野で都市伝説の収集・研究を行う。
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