スットントン…地下の鼠浄土は黄泉の世界!? 本当は怖い「おむすびころりん」

文=朝里樹 イラストレーション=zalartworks

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    だれもが知っている物語の裏に語られているものとは!?

    子供向けの絵本とは異なる原型

     昔話、それはその名の通り現在より過去のいつかの時代にあったこと、という体裁で語られる口承文芸のひとつだ。時代は「むかしむかし」という不特定の時代とされ、動物や妖怪、神様や幽霊など、さまざまなものが登場する。
     そして昔話を聞かせる対象は、多くの場合幼い子どもである。そのため、昔話の多くは教訓を含んでいたり、残酷な描写がなかったり、ハッピーエンドで終わることが多い。しかしその原型を辿ると、子どもに聞かせるには恐ろしい内容だということも多々ある。

     そこで今回は、今もよく知られている昔話が、かつてどのような形で語られていたのか、それを探っていきたいと思う。

    ネズミたちにこらしめられる欲張りじいさん

     まず紹介するのは「おむすびころりん」だ。はじめに現在知られている昔話のあらすじを示そう。

     昔、正直で働き者のおじいさんがおり、山に行って木を切っていたが、昼になったので、おばあさんが作ったおむすびを食べようと包みを開けた。その時、おじいさんはうっかりおむすびを落としてしまい、おむすびは坂を転がって木の下の穴に落ちてしまった。
     すると、穴の中から「おむすびころりん、おむすびころりん」と可愛らしい歌声が聞こえてきて、喜んでいるようだった。そこでおじいさんがもうひとつのおむすびを穴の中に落とすと、やはり歌声が聞こえてきた。おじいさんはだれが歌っているのだろうと穴を覗きこんだが、足を滑らせて穴の中に落ちてしまった。
     穴を転がっていった先にいたのはたくさんのネズミで、おじいさんを見ると近づいてきて「おいしいおむすびをありがとう」と感謝を伝えた。そしてネズミたちは感謝の証として餅つきや踊りでおじいさんを歓迎した。さらに帰りにはお土産として小さなつづらと大きなつづらのどちらかを持っていくようにいうので、欲のないおじいさんは小さいつづらを選んだ。
     おじいさんが家に帰り、ネズミたちにもらった小さなつづらを開けてみると、そこには金銀財宝が入っていた。 おじいさんとおばあさんは大喜びだったが、隣に住む欲張りじいさんがこの話を聞き、自分も真似をしようとおむすびを持って山に向かった。
     そして欲張りじいさんはネズミの穴にたくさんのおむすびを投げ込んでから、自分も穴に入った。ネズミたちはこのじいさんにも感謝し、以前と同じように餅をつき、踊りを見せたが、欲張りじいさんは早くつづらをよこせと迫った。そこでネズミたちがまた大きなつづらと小さなつづらを持ってくると、欲張りじいさんはそのどちらも持って帰ろうとした。これに怒ったネズミたちは欲張りじいさんに飛びかかり、嚙みついてこらしめた。
     これに降参した欲張りじいさんは慌てて穴から逃げ帰り、それ以降はあまり欲をかかなくなったという。

     話によって差異はあるが、大方このような話だろう。しかし元々語られていた話では欲張りじいさんはこんなものではない被害に遭う。

    絵=zalartworks

    昔話「鼠浄土」

     この昔話は「鼠浄土」「団子浄土」といった名前でも語られる。おじいさんがおむすび(団子などの場合もある)を落とし、それを追ってネズミたちの住む地下空間を訪れる展開は同じだ。この地下空間が鼠浄土と呼ばれる。

     この鼠浄土でネズミたちは「ネコさえおらねばネズミの世の中、ストン、ストン」、「100になっても200になっても、猫の声こば聞きたくなえであ」などとうたって餅や金を搗いている。
     そこでおじいさんは落とした食べ物の礼に餅や宝物などをもらい、家に帰る。もしくは猫の鳴き真似をしてネズミが逃げまどっている隙に財を持ち帰る。
     この話を聞いた隣のじいさんが羨ましがり、同じように鼠浄土に向かう。後の展開は全国に伝承される話によって異なるが、たいていは碌なことにならない。
     たとえばネコの鳴き真似をして財を奪おうとすれば、前回のことで学んでいたネズミたちによって殺される、慌てたネズミたちが明かりを消したため、穴の中が真っ暗になって、外に出られなくなり、そのまま穴の中で死ぬなど、欲張りじいさんには更生の機会などいっさい与えられず、命を奪われて終わる話も多いのである。

    葛飾北斎『北斎漫画』より「家久連里」(かくれざと)。画像=Wikipedia

    根の国は鼠の国で黄泉の国だった

     そもそも、ネズミが地下に住む、という考え方は日本神話にさかのぼる。『古事記』では大国主神が根の国を訪れた際、根の国の主である須佐之男命はその娘、須勢理毘売命と大国主神が互いにひとめぼれしたので、大国主神を試すためにさまざまな試練を課す。

     その試練のひとつに鏑矢を野に放ち、その矢を取ってこさせるというものがあったが、須佐之男命は矢を取りにいった大国主神を火で囲ってしまう。

     そこに現れるのがネズミで、「内はほらほら、外はすぶすぶ(内側には穴があり、外はすぼまっている)」と助言したため、大国主がネズミのいったところを踏むと、下に穴があって、その中に潜んでいたことで火から逃れることができたという。

     ネズミの穴に落ちる、というモチーフは鼠浄土と共通しているほか、根の国は古くから地下にある国と考えられ、また死者の国である黄泉国とも同一視される。根の国は鼠の国であり、また死者の国であった。
     欲張りじいさんが地下から出られず、その中で死んでしまうのは、欲のため、死者の国に不用意に足を踏み込んだからなのかもしれない。

    (月刊ムー 2024年4月号)

    朝里樹

    1990年北海道生まれ。公務員として働くかたわら、在野で都市伝説の収集・研究を行う。

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