異星人との密約を主導するとされるアメリカ政府秘密機関「MJ-12」の基礎知識

文=羽仁礼

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    毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、1980年代の終わりに突如公開された極秘文書と、「MJ-12」と呼ばれた米政府の秘密機関を取りあげる。

    3人のUFO研究家が暴露した秘密機関の存在

     アメリカ政府は墜落したUFOを密かに回収しており、異星人とも接触しているという噂は、かなり古くから存在する。さらに、異星人の進んだ技術の提供を受ける見返りに、キャトル・ミューティレーションや人間のアブダクションを黙認する内容の密約を結んでいると指摘する研究者もいる。
     しかし、そうした密約やUFO回収などの事実は、一般大衆からは厳に秘匿されている。このような異星人との交渉、UFO情報の秘匿を行う政府の秘密機関とされるのが「MJ-12」である。
     その存在が公になったのは、1987年5月29日のことだ。この日、ウィリアム・ムーア、スタントン・フリードマン、そしてジェイム・シャンデラの3人のUFO研究家が、MJ-12の結成やその活動に関連するアメリカ政府の極秘文書3点、いわゆる「MJ-12文書」を公開した。3人によれば、これらの文書は以下のような経緯で発見された。
     まずは1984年12月11日、ロサンゼルスのテレビプロデューサーであったシャンデラ宛に匿名の封筒が届いた。中には未現像の35ミリフィルムが入っており、シャンデラがムーアとともにこれを現像してみたところ、「トップシークレット/閲覧のみ」と記された文書2通が写っていた。
     それらは、1952年11月18日付の「アイゼンハワー次期大統領への説明資料」と、1947年9月24日付でハリー・トルーマン大統領からジェームズ・フォレスタル国防長官に宛てた通称「国防長官宛大統領メモ」と呼ばれる文書であった。
     シャンデラとムーアはフリードマンを仲間に入れ、調査を継続していたところ、国立公文書館のファイルを調べるように指示する匿名の手紙が届いた。
     それに従って調査を進めると、1985年7月になって、第3の文書、ロバート・カトラー国家安全保障会議特別補佐官からネイサン・トワイニング空軍参謀総長に宛てた1954年7月14日付の覚書、通称「カトラー・トワイニング・メモ」が見つかった。

    ロバート・カトラー国家安全保障会議特別補佐官からトワイニング空軍参謀総長に宛てた「カトラー・トワイニング・メモ」。複数の疑問点が指摘され、のちに偽文書として扱われるようになった。
    文書を手に話をするカトラー(右)とアイゼンハワー(左)。

     3人はこれらの文書の真正について検討したうえで、アメリカ政府と異星人との密約の存在を示す動かぬ証拠として公表したのだった。

    トルーマン大統領のサインが入った通称「国防長官宛大統領メモ」(1947年9月24日付)。「マジェスティック12作戦」に関する記述がある。
    (右)第33代アメリカ大統領ハリー・トルーマン。秘密機関MJ-12の設立者と見られる。
    (左)第34代大統領ドワイト・アイゼンハワー。1954年に極秘で異星人と会見したといわれている。
    MJ-12文書の存在を公表した3人のUFO研究者。左からウィリアム・ムーア、ジェイム・シャンデラ、スタントン・フリードマン(写真=obscurantist.comより)。

    軍と科学界を代表するMJ-12のメンバー

     1947年の「国防長官宛大統領メモ」は、フォレスタル国防長官に対し、「マジェスティック12作戦」を然るべく進める権限を与えるという内容の一枚紙である。
     文書の後半には、本件に関する最終的な決定はフォレスタル国防長官と核物理学者のヴァネヴァー・ブッシュ博士、それにロスコー・H・ヒレンケッターCIA長官の協議に基づき大統領府が行うとも記されている。この文書におけるマジェスティック12とは、MJ-12の正式名称である。
     1952年の文書「アイゼンハワー次期大統領への説明資料」には、MJ-12構成員の名も列記されている。メンバーには1947年の文書に名前の挙がっていたブッシュ博士やフォレスタル国防長官、ヒレンケッターCIA長官に加え、次の9名が名を連ねている。
     ネイサン・ファラガット・トワイニング空軍参謀総長、ホイト・ヴァンデンバーグ第2代CIA長官(空軍大将)、ロバート・モンターギュー陸軍大将、ジェローム・ハンセーカー博士、シドニー・サウアーズ国家安全保障会議秘書官、ゴードン・グレイ国家安全保障問題担当大統領補佐官、天文学者のドナルド・メンゼル博士、デトリーブ・ブロンク全米科学アカデミー会長、物理学者のロイド・バークナー博士というメンバーだ。

    1952年11月18日付の「アイゼンハワー次期大統領への説明資料」。トルーマンからアイゼンハワーへ、「MJ-12」の引き継ぎのために作成されたものらしい。

     しかし、フォレスタル国防長官は1949年5月22日に死亡したため、1950年8月1日にウォルター・B・スミス陸軍大将が代わって加わったとも記されている
     さらにこの文書は、1947年7月7日にロズウェル近郊に墜落したUFOの回収作戦が実施され、その際異星人4体の遺体も発見されたこと、1950年12月6日にはテキサス州インディゴ・ゲレロで2機目のUFOが墜落したことなどにも触れつつ、国際的・技術的な考慮と民衆のパニックを避けるため、新政権においても秘匿を続けるべしと締めくくられている。

    1947年7月7日、ニューメキシコ州ロズウェル近郊にUFOが墜落し、米軍が機体の破片と異星人の遺体を回収したことを報じる地元紙。アイゼンハワーへの説明資料にはこの事件についても言及がある。

     また、1954年の「カトラー・トワイニング・メモ」は、文書が作成された日の2日後、7月16日に、アイゼンハワー大統領が出席して開かれる国家安全保障会議の席上で、MJ-12特別研究プロジェクトの概要説明を行うことが記されていた。
     これらの文書が公表された直後から、MJ-12に関して、他のUFO研究家からもさまざまな証言が次々と飛びだした。
     1988年には、「ファルコン」や「コンドル」というコードネームを持つ軍の情報局員らしき人物が遮蔽スクリーン越しにテレビ出演し、MJ-12の存在を肯定した。
     同年12月には、元海軍軍人ミルトン・ウィリアム・クーパーが新たな証言を行った。クーパーは1972年、太平洋艦隊司令官のブリーフィングを準備する役目を担ったとき、「マジョリティ作戦」に関する秘密文書を見たと述べている。

    アイゼンハワーが異星人と密約を結んだことを暴露した元海軍軍人ミルトン・ウィリアム・クーパー(写真=YouTubeより)。

     アイゼンハワーが1954年に、技術的支援と引き換えに人間のアブダクションを認める内容の密約を異星人と結び、「ジェイソン・ソサエティ」という秘密結社に対して、異星人との関係を管理し、その事実を国民の目から隠すことを命じたという。
     この任務を果たすため、ジェイソン・ソサエティは彼らの中の有力者12人を「マジョリティ12」に任命した。メンバーはJ1、J2などの暗号名で呼ばれ、全体を指導するJ1は歴代CIA長官が務めている。

    1952年の文書に記されたMJ-12のメンバー。①ロスコー・H・ヒレンケッターCIA長官。②ヴァネヴァー・ブッシュ博士。③ジェームズ・フォレスタル国防長官。④ネイサン・トワイニング空軍参謀総長。⑤ホイト・ヴァンデンバーグ空軍大将。⑥デトリーブ・ブロンク博士。⑦ジェローム・ハンセーカー博士。⑧シドニー・サウアーズ国家安全保障会議秘書官。⑨ゴードン・グレイ国家安全保障問題担当大統領補佐官。⑩ドナルド・メンゼル博士。⑪ロバート・モンターギュー陸軍大将。⑫ロイド・バークナー博士。

     つまりクーパーによれば、MJ-12とはマジェスティック12ではなく、このマジョリティ12の略称だということになる。 
     じつはアメリカには、「JASON」という科学者たちのグループが実際に存在する。しかしこれは、科学技術に関する問題についてアメリカ合衆国連邦政府に助言を行う目的で設立されており、クーパーのいうジェイソン・ソサエティがこれと同一かどうかは明らかでない。
     ともあれクーパーの唱えるマジョリティ12は、イルミナティの内部組織のような存在であり、今や異星人たちはさまざまな秘密結社や魔術を用いて人類の行動を操っており、イルミナティ自体も知らず知らずに操られているという。

    MJ-12文書は偽物か!? 指摘される数々の疑問

     しかし、フリードマンらが公開したMJ-12文書やクーパーらの証言はどの程度信用できるものなのだろうか。
     MJ-12文書に対しては、UFO現象に懐疑的なフィリップ・クラスやFBI、国立公文書館なども独自の調査を行い、いくつもの疑問点が指摘されている。
     まずは「国防長官宛大統領メモ」である。大統領が発出した文書には発出順に通し番号が付されるが、この文書の番号はその前後の日付で出された文書の番号とまったく異なっている。
     さらに、文書に署名されたトルーマン大統領の署名は、同じ年に発出された他の文書の署名とまったく同じであり、これをコピーしたものではないかと指摘されている。
    「アイゼンハワー次期大統領への説明資料」はどうだろう。極秘文書の場合、ページ抜けを避けるために「○枚中の○枚」などと表示されるのが常だが、この文書にはそれがない。
     文書の1枚目に「TOP SECRET/MAJIC」というゴム印が押してあるが、政府文書には通常このようなゴム印は使用しない。また、文書は1952年に作成されたはずだが、活字の形は1962年以降に製造されたタイプライターのものであるという点も疑問が残る。
     そして、「カトラー・トワイニング・メモ」については国立公文書館が調査を行い、1987年7月22日付で、軍参考文献部門責任者ジョー・アン・ウィリアムソンの署名入りで、「この特殊文書は多くの点で問題を含んでいる」とする覚書を発表している。
     そもそもこの文書には公文書館の文書として登録する際の最高機密登録番号が押されていないうえ、政府の公式レターヘッドに用いられる透かしがない。さらに文書に記された1954年7月16日には国家安全保障会議が開かれた記録がなく、文書が作成されたとされる7月14日には、カトラー国家安全保障会議特別補佐官は国内にいなかったことも判明した。
     しかもこの文書は、公文書としてちゃんと登録したり綴じ込まれたりしておらず、他の文書の間に挟まれていたため、何者かが故意に紛れ込ませた可能性が高いという。
     一方、クーパーの証言については、それを裏づける証拠はいっさい存在しない。

    UFOの真実を隠すため偽文書がリークされた?

     1989年7月1日、ラスヴェガスで開催されたアメリカのUFO研究団体MUFONのシンポジウムにおいて、文書を公開した3人の研究家のひとりであるムーアが衝撃的な発言を行った。
     この日登壇したムーアは、1980年9月以降、自分がシャンデラや軍の関係者と組んで、UFO研究家に偽情報を流す情報工作に加担していたと告白したのだ。そしてムーアは、政府と異星人との密約の存在を探るため、いわば二重スパイとして空軍情報部に近づいたと述べ、政府による情報工作は依然として進行中であることも指摘した。
     ただ、問題のMJ-12文書の真正については、彼は肯定も否定もせず、この発言の直後にUFO界から姿をくらました。
     このムーアの発言もあって、MJ-12の存在については否定的な意見が強まったが、実在説も根強く残っており、それ以降にもいくつもの関連文書が発見されている。
     もしUFOの真実を隠蔽しようとする秘密機関が本当に存在するとしたら、MJ-12を巡って生じたようなUFO界の混乱と分裂こそ、彼らの目的とするところだったのかもしれない。

    異星人とのアブダクションに関する密約に加え、ジョン・F・ケネディ大統領の暗殺にも関係があると噂されるMJ-12。文書の真偽が怪しくなったことで、その存在にも疑問がもたれるようになったが、すべては情報の攪乱を狙った動きだったのか……?

    ●参考資料=『人はなぜエイリアン神話を求めるのか』(ジャック・ヴァレー著/徳間書店)、『謎解き超常現象』(ASIOS著/採図社)、『The UFO Encyclopedia』(Jerome Clark/Omnigraphics)

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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