動いて踊る「骸骨模型」は死の教材/学校の怪談

文= 朝里 樹 イラストレーション=zalartworks

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    放課後の静まり返った校舎、薄暗い廊下、そしてだれもいないはずのトイレで子供たちの間にひっそりと語り継がれる恐怖の物語をご存じだろうか。 学校のどこかに潜んでいるかもしれない、7つの物語にぜひ耳を傾けてほしい。

    生きている骸骨模型

     普段使わない特別教室というのは得てして学校の怪談の舞台になりやすい。その中でも理科室は怪談の宝庫だ。ホルマリン漬けやはく製になった本物の動物の死体が飾られているということももちろんあるが、怪談の主役になりやすいのは人間の体を模した人形、すなわち人体模型と骸骨模型だ。特に骸骨模型は怪談の種類が多い。

     特に語られやすいのは骸骨模型がひとりでに動きだす、という話だ。
     この話の場合、学校の廊下を徘徊しているとか、夜に骸骨模型を見ると動きだす、という実際に動いた骸骨模型を見るという話が多いが、そのほかにも骸骨の足跡がある、骨の一部が理科室から離れた場所に落ちているなど、直接動く姿は目撃されていないものの、動いた痕跡を残している、という場合もある。

     また、骸骨模型が踊る、という話も案外多い。古いものでは松谷みよ子著『現代民話考7』には1948年ころの岩手県和賀郡黒沢尻町(現在の北上市中心部)黒沢尻小学校において、ひとりでに鳴りだす音楽室のピアノに合わせて、その真下にある理科室の骸骨が踊るという話が語られていたという。
     骸骨模型が踊るという話はほかにもあり、日本民話の会・学校の怪談編集委員会編『学校の怪談9』では理科準備室をドアから覗いたところ、骸骨が踊っていたという話や、やはり音楽室のピアノの音に合わせて踊るという話が載せられている。常光徹編著『学校の怪談 赤本』では広島県から投稿された話として、夜12時に学校に行き、理科室で骸骨模型や人体模型が踊っているところを見ると人体模型の胃の中に吸い込まれるという話が載っているし、実業之日本社編『怪談&都市伝説DX』には理科室の骸骨模型が給食の時間にヒップホップの曲が流れると華麗なダンスを踊りだすが、その際に一緒に踊るとこの骸骨模型と親友になれるという話が載せられている。

     余談だが、骸骨が歌ったり踊ったりする話は古くから日本を含め世界中の民話などで伝わっている。多くの場合、この骸骨は殺された人間の骨で、歌や踊りによって人を集めるなどして自分を殺した犯人を告発する。
     また、ヨーロッパでは死の恐怖によりパニックとなった人々が踊る様子を骸骨の姿で描いた「死の舞踏」という絵画や彫刻の様式がある。これは黒死病(ペスト)の大流行がその背景にあったものと考えられている。

     学校の怪談において骸骨が罪を告発するために踊ったり、死の恐怖から踊るという話はないが、野晒しにされた骸骨などそうそう見る機会がない現代において、学校を舞台に踊る骸骨模型は歌う骸骨、踊る骸骨の末裔なのかもしれない。もしくはもっと単純に、1976年に発表され、子供向け番組『ひらけ!ポンキッキ』でアニメとともに放映された子門真人の歌「ホネホネ・ロック」の影響だろうか。この歌では骸骨が松明を持って踊る様子が歌われている。

    骸骨模型にされた子供

     もちろん、骸骨模型にまつわる恐ろしい話も多数ある。学校に置かれているような骸骨模型はもちろん本物の人骨ではなく、人骨を模して造られた模型だが、これが実は本物の骨を使っているとする怪談も多い。この場合、骸骨は供養を求めてさ迷ったり、泣き声を響かせたりするのだという。

     積極的に学校の生徒などに危害を加えてくる話もある。
     先述した日本民話の会・学校の怪談編集委員会編『学校の怪談9』では、「遊ぼうよ、遊ぼうよ」と子供に声をかけ、遊んでしまった子供は骸骨模型にされて死んでしまうという話、模型を壊した少年が3日後病気で死亡した話、理科室の蛇口で手を洗った子供を食い殺す、骸骨模型に「遊ぼうよ、遊ぼうよ」と話しかけられ、遊んだ人間は骸骨模型になって命を失う、金曜日の夜の12時に骸骨模型がカランコロンと音を立てながら通るが、この音を聞いた人間は呪われる、などの話が載る。

     理科室に骸骨模型、正確には骨格模型があるのは、もちろん子供たちの教育のためだ。人の骨格がどういう構造や形をしているのか、どのような動きをするのか、どれぐらいの数があるのかなどを実物に近い模型を使って知ることができる。
     その一方、死が身近ではなくなった現代の子供たちにとって、映像や写真、イラスト越しではなく、実物大の人の骨格に触れる機会はほとんどない。加えて、人間が骨になるということはその人間が生きていないことを示す。ゆえに骸骨模型は子供たちに強烈に死を意識させるものになる。
     それとともに、本来動かないはずのものが動いたら、という考えも想起させる。そもそも人型の人形が動けば怖いのだが、それが死体を連想させるものであればなおさらだ。つまり骸骨が動いているだけで怖いから、それだけで学校の怪談が生まれてしまう。
     さらにホルマリン漬けの動物たちや人体模型など、理科室は死の雰囲気に満ちている。理科室は怪談を生みだしやすい空間なのだろう。

     現在、骨格模型を授業に使う小学校は少なくなってきているようだが、それでも彼らは今も理科室にいる。彼らがいる限り、人を襲い、音楽に合わせて踊り、時には子供たちと友だちになる骸骨模型の怪談は、語り継がれていくのだと思われる。

    (月刊ムー2024年8月号より)

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    朝里樹

    1990年北海道生まれ。公務員として働くかたわら、在野で都市伝説の収集・研究を行う。

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