アポロ月面着陸は事前に撮影されていた!? 告発系ラブコメ映画「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」への不穏な期待

文=宇佐和通

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    アポロ計画を題材にした新作映画のテーマは「ヤラセ映像制作」! 陰謀論+ラブコメが何か真実を突いてしまうのではないか?

    いまだくすぶる「月面着陸はあったのかなかったのか」話

     アポロ計画の新章としてスタートしたアルテミス計画が着々と進行する今、人類初の月面着陸を独特の視点から顧みる映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』が公開される。ストーリーの核となるのは、今なお根強く残る月面着陸陰謀論だ。

     あらすじとしては、こうだ。

    ――1960年代、米ソの宇宙開発戦争は熾烈を極めていた。何とかしてソ連に差をつけたいと願うアメリカ政府の熱い思いを負ったNASAのアポロ11号計画責任者は、凄腕マーケティングディレクターを巻き込み、月面着陸を“演出”することを思いつく。国家の威信をかけた月面着陸を失敗に終わらせるわけにはいかない。そこで万が一のため、バックアップ用の映像をあらかじめ撮影しておこうという計画が立てられることになった……。

    「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」予告編

     月面着陸陰謀論は、1976年にビル・ケイシングが出版した『We Never Went to the Moon: America’s Thirty Billion Dollar Swindle』という本がきっかけで知られることになった。その後勢いを増して拡散し、陰謀論の中でもメジャーな話になっている。アポロ計画でエンジン製造を担当したロケットダイン社のテクニカルライターとして働いていたケイシングは、月面着陸を捏造する政府の陰謀についての内部情報を持っていると主張した。さらに、計画を内側から見る立場にあった人間として、1960年代の技術が実際に人類を月面に着陸させ、安全に地球に帰還させるレベルまで進んでいなかったと断言している。

    「We Never Went to the Moon」 Amazon

     陰謀論としての知名度が高まっていく過程で科学者や技術者、歴史家によって徹底的な検証が重ねられ、誤りが明らかにされ、「やはりアポロは月面着陸している」という決定的な証拠も示されてきた。それにもかかわらず、「アポロは月に行っていない」ビリーバーは今も多く存在する。
     1969年7月20日20時17分(協定世界時)、ニール・アームストロングとバズ・オルドリンが人類で初めて月面に立ったという事実を誰もが信じているわけではない。同年12月、アポロ11号の月面着陸が政府によって巧妙に仕組まれたでっち上げであるとするグループの主張を受け、『ニューヨーク・タイムズ』紙も着陸に疑問を呈する内容の記事を掲載しているほどだ。

    月面で「風になびく」国旗も疑惑ソースの定番となった。

     1999年に行われた世論調査では、月面着陸陰謀論を支持するアメリカ人は全体のわずか6%にとどまっていた。しかしシェーン・ドーソンなどの人気YouTuberが公然と疑念を明らかにし、NBAのスーパースターであるステファン・カリーが「月面着陸については何ひとつ信じない」と発言したことから、再び大きな発信力を宿すようになる。
     2000年代でいえば、『Xファイル』によってあらゆる種類の宇宙開発関連の陰謀論が視聴者の意識と結び付けられた影響も大きい。2018年に放送されたエピソードでも月面着陸が再び取り上げられ、11シーズンも続いた人気コメディ番組『フレンズ』でも触れられていた。

    月面着陸についての陰謀論を語るシェーン・ドーソン。2016年の動画だ。

    月面着陸疑惑モノというジャンル形成

     映像を媒体にしたものなら、1977年公開のハリウッド映画『カプリコン1』と、2002年制作のモキュメンタリー『ダークサイド・オブ・ザ・ムーン』に触れておかなければならない。『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』のスタッフも、トリビュートという感覚までいかないまでも、この2作品に何らかのリスペクトを抱いているはずだ。

     火星ミッションを偽装するというNASAの架空の陰謀に焦点を当てた『カプリコン1』は、陰謀論者たちから高い支持を得た。作家で科学ジャーナリストのアンドリュー・チェイキンは2007年の著書で「監督のピーター・ハイアムズはアポロ計画に実際に捏造があったと信じてはいなかったが、捏造が可能であるという考えに魅了されていた」と書いている。「彼が脚本を書いたのは1972年だったが、当時のハリウッドでは強い抵抗に遭った。1970年代後半に映画化が決定するまでに、抵抗意見はなくなっていた。これは興味深い事実だと思う」

    『カプリコン1』トレーラー。

    『ダークサイド・オブ・ザ・ムーン』は、フランスで制作されたモキュメンタリーで、2002年にヨーロッパのネットワークArteで『Operation Lune』というタイトルで初めて放送された。このモキュメンタリーは、アポロ 11 号の月面着陸のテレビ映像がスタンリー・キューブリック監督の協力を得てCIAによって偽造され、スタジオで録画されたものだったという基本設定で進む。この作品の出来は非常によく、キューブリック監督の名前が陰謀論と表裏一体のような形で認識され、その状態が20年以上も続いた。

     キューブリック監督の代表作である『シャイニング』を検証するという趣で制作された2012 年の『ルーム237』というドキュメンタリー映画にも、月面着陸のフェイク映像に関する話が出てくる。こうした状況を見かねた娘のビビアン・キューブリックは、ツイッターで次のようにコメントした。

    「政府によって行われた恐るべき操作については十分承知しているが、私の父親が国民に対するひどい裏切りにおいて政府を支援したとはとても思えない。最も偉大な人類の擁護者の一人である父がそのような裏切り行為を犯すなど、誰が信じられるだろう? 彼と一緒に暮らし、一緒に働いてきた私は、きっぱりと言い切ることができる。悪意のある人たちがしつこく繰り返す“真実”は、グロテスクな嘘にほかならない」

    「月には行っているが、映像も作ってあった」説

     いまや、月面着陸陰謀論には、妙な方向性でスピンオフしている部分がある。
     アポロ11号は実際に月には行っているが、着陸映像がフェイクであるという流れだ。この部分を立脚点にした『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』は、ラブコメに見立てたシリアスな告発ではないかという見方もある。ミッションが失敗した場合に備えて偽の月面着陸の撮影を行うという設定がリアルすぎるというのだ。

     実際、この映画には「フィクション化された実話」も盛り込まれている。予告編にもアポロ 11 号ミッションの普及に尽力したマーケティングチームの関与がほのめかされており、これが事実なら、NASAが月面着陸を偽装した可能性が生じる。国家が月面着陸を捏造したという陰謀論に信憑性を与えるような内容は、そもそも潜在的な危険をはらんでいる。ただ、NASAが自ら手を下したことを示唆する証拠はこれまでまったく出ていない。

    『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』が、ラブコメのフォーマットにのせて根強く生き残る陰謀論を面白おかしくいじったエンターテイメント以上のものではないことを願う。

    『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』
    7月19日(金)より全国の映画館で公開

    原題:FLY ME TO THE MOON(US公開:2024年7月12日)
    監督:グレッグ・バーランティ(『フリー・ガイ』製作)
    出演:スカーレット・ヨハンソン、チャニング・テイタム、ウディ・ハレルソン

    公式サイト:https://www.flymetothemoon.jp

    ・ソニー・ピクチャーズ公式TikTok:https://www.tiktok.com/@sonypicseiga

    ・ハッシュタグ:#フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン

    宇佐和通

    翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。

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