化け物キノコの怪異譚ーーモノ言うキノコの気まずい予言

文・絵=黒史郎

    ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」! 今回は、危険な「キノコのおばけ」を補遺々々します。

    黒史郎の妖怪補遺々々

     茸(キノコ)は見た目からして面白く、奇妙で、かわいらしく、無気味で、そしてどこかキャラクターじみています。その姿形を見て昔の人たちは、これが踊ったり喋ったりする姿を想像したのでしょう、昔話には茸の妖怪が活躍するものもあります。

     まずは、昔話ではおなじみ、【トーツポテンの化け物】からご紹介いたします。

    ーーある古屋敷に、夜な夜な化け物が現れました。
     この化け物、言葉を喋るのですが、それがなんとも奇妙で不思議、へんてこな言葉なんです。

    「トーツポテン、トーツポテン」

     正体のわからぬ化け物が、意味のわからぬ言葉を繰り返しながら、あちらこちらを歩き回ったのですから、屋敷に住んでいた人たちはみんな、肝を冷やして逃げ出してしまいました。
     無人になった屋敷のあるあたりは、村人たちにとってとても怖い場所となり、子供だけでなく大人までもがひとりの夜の外出を避けたといいます。

     そんな村人たちの中に、たったひとり、とても勇気のある若者がおりました。

    「化物なんかに負けてられるか!」

     なんと彼は化け物が好む夜になってから、件の屋敷へと行ったのです。
     するとさっそく、「トーツポテン」と唸りながら、大きなひとつ目玉の化け物が現れ、若者を睨みつけてきました。
     ところが若者、まったく怖がることもなく、それどころか、「なんて立派な化け物だ。トーツポテンというのには、なにか訳でもあるのか」と化け物にたずねました。
     化け物は地面にぺたんと座り、「よくぞ聞いてくれた」と自分の出生について語りだします。
     彼の正体は屋敷の裏庭に生えていた茸で、この屋敷の者はみんな無精だったからだれも掃除をしに来ず、だからこんなに大きな茸に育ってしまったのです。
     ある日、だれが投げたか、大きく育った茸に向かって栃の実(トッポ)が飛んできました。するとそれは茸にスポッとはまってしまい、それがどうにも痛くてたまらない。
    「トッポートッテ、トッポートッテ」といっているうちに「トーツポテン、トーツポテン」になってしまったのです。
     気がつくと、栃の実はいつの間にか目玉になっており、すっかり茸の化け物になってしまったのだとか。
     聞けば聞くほどかわいそうな話ですが、それでも、ただのキノコが化け物にまで出世したのですから、これはメデタイことではないでしょうか。

    「お前なら、なんにでも化けられそうだな。よし、姉さまに化けられるか?」

     若者が聞くと化け物は「化けられる」と言って姉様の姿になりました。

    「なら納豆には化けられるか」

     化け物は大きな納豆に化けました。

    「おいおい、本物の納豆はもっと小さいぞ」と教えると素直に小さな納豆に化けたので、若者はすかさず、これを摘まみとって飲み込んでしまいました。

     それがいけなかったのでしょう。
     若者はだんだん胸も腹も苦しくなってきて、走って土手へ行くと毒消しの草を毟って食べました。すると大きな音がし、化け物は屁になって、若者のお尻から飛んでいってしまいました。
     ずっと放っておかれ、痛い思いもして、そのうえ騙されて食われてしまい、最後は尻から屁と共に飛ばされる……無精な人間のために散々な目にあってしまった可哀そうな茸のお話でしたーー。

     それにしても、いくら見た目が納豆だからといって、不衛生な場所で化け物と化した名前も知らないような茸をひと呑みにしてしまうなんて、あまりに命知らずで軽はずみな行動です。皆さんは真似をしないように。

    唐土のトラより、おろし汁

     続いて、昔話からもうひとつ、茸のお化けをご紹介します。

    ーーとある村はずれの山際に、化け物の出る古寺がありました。
     これまで何人もの和尚様がやってきましたが恐ろしくて住める者はなく、この寺はずっと無人のまま荒れるに任せていました。
     このまま化け物に好き放題させておくわけにはいきません。
     三平という爺さまが立ち上がりました。

    「化け物め、生け捕りにしてやるぞ」

     息巻いて、鉈や鎌を携えて問題の古寺に泊まりました。
     夜中になりますと境内に、傘をかぶった化け物がたくさん現れます。
     化け物たちは踊り、歩きまわりながら、こんなことをいっています。

    「唐土(とんど)のトラより、おろし汁がおっかねぇ。唐土のトラより、おろし汁がおっかねぇ」

     唐土のトラとは、中国のトラです。おろし汁とは大根おろしを入れた味噌汁のこと。トラよりも味噌汁のほうが怖いなんて、化け物のくせに妙なことをいっています。
     翌朝、境内を見ると化け物の姿は1匹もなく、かわりにたくさんの茸が生えていました。その光景を見た三平は、目の前の茸たちが昨晩の化物の正体だろうと思いました。
     そう考えてみると、昨晩化け物のいっていたことにも合点がいくのです。というのも、茸を入れた汁には、消化を良くし、毒を消すために大根おろしを入れるのです。化け物たちは、大根おろしに溶かされるのを恐れていたのです。

     そうとわかればやることはひとつです。三平は家に帰っておろし汁を作りますと、すぐに古寺へと戻って境内に生える茸にかけました。すると茸はみんなベタベタに溶けてしまい、それからはもう化け物は出なくなったといいます。

    「おろし汁」ではなく、「茄子の盥水」が苦手だという話もあります。

    <参考文献>
    瀬川拓男編・松谷みよ子再話「トーツポテンの化け物」『日本の民話 妖怪と人間』
    本城屋勝編「化けきのこ」『ひろし爺さまの昔話』
    文野白駒「蕈の化け物」『加無波良夜譚』

    不可解なキノコが凶兆に

     どこか抜けていて、愛嬌さえある茸(きのこ)の化け物たちに続いて、ちょっと怖い茸たちのお話をご紹介いたします。

    ーーこれは愛知県南設楽郡横山(現・愛知県新城市)で、ある女性の身に実際に起きたとされるお話です。

     朝、いつものように爐(いろり)を焚きつけようと灰を掻きますと、灰の中から見たこともない茸が出てきました。
     前の晩にも焚いていたのに……。
     女性は驚きましたが、このことをだれにもいわず、茸を取り捨てて火をつけました。
     それからなぜか、1日中、胸騒ぎがしていました。
     そしてその日の暮れ方、彼女のもとに悲しい報せが届きます。
     川狩(川で魚を捕ること)に行っていた2番目の息子が、流れてきた材木に巻き込まれて死んでしまったのです。
     爐の中の茸は、不幸の兆しだったのでしょうか。

    恨みタケ

     次は『真佐喜のかつら』三巻に見られる、ゾッとする「恨み」の話です。

    ーー舞台は相州高座郡田名村(現・神奈川県相模原市田名)。

     あるお百姓さんが弟を連れて、秣(まぐさ・牛馬の飼料の干し草)を刈りに行ったときのことです。
     作業後、疲れたので木陰で休んでいますと、兄のうなじのあたりを大きな蛇が這い、そのまま草の中へと入っていきました。兄はこれをすぐさま竹で打ち叩き、死にかけの蛇を縄で括って木の梢から吊るし、その日は帰りました。
     月日が経ち、そんなことも忘れていた、ある日のこと。
     兄弟で同じ場所へ秣を刈りに行きますと、そこに大きな茸がたくさん生えていました。
     これをとって家に持ち帰り、兄弟と母の3人でその晩に食べますと、突然、兄が激しい痛みに襲われ、苦しみだします。すぐ医者にかかりましたがその甲斐もなく、兄は死んでしまいました。
     しかし、なぜでしょう。同じ茸を食べた母と弟にはなにも異変がないのです。

     このことを怪しんだ母は、弟と共に茸の生えていた場所へ行きました。

    「そういえば……」

     弟は〝あの日のこと〟を思い出し、母に語ります。以前、兄がここで蛇を半殺しにし、木から吊るしたことを、です。
     母が見上げますと、そこには蛇を括った縄だけが残っていました。
     蛇の恨みが木の下に滴り落ち、土に茸を生じたのでしょうか。

    予言キノコ

    『本草綱目』にはさまざまな茸について書かれています。その中の【千歳芝】は、とてもすごい力をもった茸です。これは、枯れ木の下のほうに生え、座っている人のような形状をしています。この茸を刀で刻むと血が出るといわれ、その血を人が両足に塗ると水上を歩くことや姿も隠すことができ、病も治せたそうです。

     また、家の柱に理由もなく生える茸は、不吉なものが多いようです。どんな意味で不吉なのか、その答えは色に現れているといいます。白色は喪を、赤色は血を、黒色は賊を、といったように物騒な事ばかりをつかさどりますが、唯一、黄色だけは歓びをつかさどるといわれています。

     また、【人面の茸】が生えれば財産を失い、【牛馬に似た茸】が生えれば、その家の者には僻地で重労働が待っています。
    【亀、蛇に似た茸】が生えると、その家では蚕(かいこ)が育たなくなってしまうそうです。

     こんな珍しい茸の話もあります。

     敗戦が近いころのお話です。群馬県富岡市一ノ宮にある、一ノ宮貫前神社の境内にはご神木の欅(けやき)がありました。
     この木に蛙(かえる)の形をした茸が生え、神木に宿る軍神が負け戦に怒って現れたのだのだといわれ、近くに住む小学生たちは教師に連れられてこれを見にいったといいます。

     不思議なことにこの茸、大きな戦果があると大きくなり、玉砕などの悲しい報せがあると小さく萎んだといいます。
     また、敗戦直前には、蛙に蛇が巻きついた形になったといわれています。

    <参考文献>
    早川孝太郎「湖底の金 ——設楽雑談——(承前)」『旅と伝説』十一号
    柴田宵曲編「爐の中の茸」『随筆辞典4 奇談異聞編』
    中島恵子「現代の世間話」西郊民俗談話会『西郊民俗』第二十五号
    寺島良安『和漢三才図会 18』

    (2020年7月28日記事の再編集)

    黒史郎

    作家、怪異蒐集家。1974年、神奈川県生まれ。2007年「夜は一緒に散歩 しよ」で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞してデビュー。実話怪談、怪奇文学などの著書多数。

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