「龍と巨大蛇行剣」ムー2023年10月号のカバーアート/zalartworks
「ムー」2023年10月号カバーアート解説
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発掘された巨大蛇行剣が明かす「三種の神器」の正体とは!? 三上編集長がMUTubeで解説。
富雄丸山古墳から出土した謎の銅鏡と鉄剣
標高642メートルの生駒山を主峰として、大阪府と奈良県の境界を南北に走る生駒山地。かつての大和国と河内国の国境だ。
この山なみの特徴は、大阪平野側の西斜面が断崖状の急傾斜になっているのに対して、奈良盆地側の東斜面がゆるやかな傾斜になっていることだろう。東斜面のさらに東側は台地状になっていて、そこを生駒山北部に源を発する富雄川が東南方向へ貫流し、やがて大和川に合流している。
この富雄川沿いの一角の、住宅街と田畑に囲まれたなかに、富雄丸山古墳という古墳がある。 直径約109メートル、高さ約14メートルの円墳で、出土土器などから古墳時代前期に属する4世紀後半の築造と推定されている。円墳としては日本最大の規模であり、被葬者は不明ながら、生駒山東麓一帯を勢力圏とした一族の有力者だろうと考えられている。
ただし、この古墳が天皇(大王)のものである可能性はまずない。天皇家(正確にいえば、天皇家の祖先にあたる一族)は4世紀ごろは奈良盆地南東部、つまり三輪山西麓付近を本拠としていたし、古墳時代の天皇陵は前方後円墳が原則だからだ。ちなみに、大仙陵古墳(伝仁徳天皇陵)、誉田御廟山古墳(伝応神天皇陵)など、墳丘長が300メートル超の巨大前方後円墳の天皇陵が大阪平野側に造営されるようになるのは4世紀末以降、つまり古墳時代中期に移行してからだ。
昨年(2022年)、この富雄丸山古墳で、奈良市教育委員会により本格的な発掘調査が行われた。すると、驚くべき遺物が出土した。このことについては今年1月25日に報道発表が行われて話題を呼んだので、記憶している読者も多いだろう。
出土したのは、盾形の巨大な青銅鏡と、鉄製の長大な蛇行剣。ちなみに、出土場所は、墳頂部ではなく墳丘から北東方向にせり出した「造り出し」と呼ばれる部分であったことは注記しておきたい。
盾形青銅鏡は長さ64センチ、最大幅31センチ、厚さは0.5センチ。
背面中央に紐(つまみ)があり、上下には神獣や太陽とおぼしきものなどを表現した精緻な文様が施されている。このうちの神獣文は、体をうねらせた龍を浮き彫りにした、古墳時代の倭鏡(国産鏡)の代表格「鼉龍鏡」の図像文様に酷似している。そのため、「鼉龍文盾形銅鏡」と命名された。銅鏡は円形が通例で、盾形のものなど国内に前例がない。大きさも類例がないサイズだ。
巨大な霊剣を作ったのはいったいだれか
鼉龍文盾形銅鏡にも増して異色なのが、鉄製の蛇行剣だ。
その名が示すように、刃の形が蛇のように曲がりくねった形状が特徴だが、このタイプの鉄剣自体は決して珍しくなく、これまで国内からは85本以上出土している。だが、今回のものが注目されるのは、その図抜けた大きさだ。全長約2メートル37センチ、幅約6センチ。国内の蛇行剣でこれまで最大だった宇陀北原古墳(奈良県宇陀市)出土の全長84.6センチをはるかにしのぐ。
鉄剣全体に視野を広げても、これまで国内最大とされてきた中小田第2号古墳(広島市)出土の鉄剣は長さ1メートル15センチ。したがって、富雄丸山古墳出土の蛇行剣は、蛇行剣としてはもちろん、鉄剣としても国内最大になる。東アジア全体でみても鉄剣としては最大級であり、蛇行剣としては国内最古である。
蛇行剣自体には明らかに武器としての実用性はない。特異な形状は神獣としての蛇もしくは龍の姿をかたどったもので、そこには霊威が表出されているのだろう。したがって、蛇行剣は呪術や祭祀に用いられたとみられている。神異をもたらすと信じられた「霊剣」といいかえてもよい。当然、富雄丸山古墳から出土した巨大蛇行剣も同様だろう。
この盾形銅鏡と巨大蛇行剣については、すでに「古墳時代の金属器の最高傑作」「国宝級だ」などといった声があがっている。大きさもさることながら、高度な鉄器製作技術を駆使しなければ、到底このような金属器は作りえないからだ。
では、作ったのはだれなのか。
その当時、相当な富と権力を有している一族でなければこれを作ることは不可能だ。「高度な鉄器製作技術」という点に着目するならば、彼らのことを、4世紀後半時点の日本列島において最も繁栄していた一族、もしくは最も隆盛していた王権の一族、と想定しなければならない。
すると、まず思い浮かぶのは、いうまでもなくヤマト王権を率いた天皇家だ。
だが、すでに記したように、富雄丸山古墳自体は天皇家との直接的な関係をもたない。したがって、天皇家を盾形銅鏡と巨大蛇行剣の製作者として考えることはきわめて難しい。
では、だれが何のために作ったのか。盾形銅鏡と巨大蛇行剣が出土した古墳に眠っている者は、いったいだれなのか──。
神話・伝説を覆う二重三重のベールを剥ぎ、日本古代史の真実を明らかにする!
続きは本誌(電子版)で。
古銀 剛
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