やはりミステリーサークルはただの悪戯ではなかった!? 最新科学が示唆するプラズマ・メッセージという可能性/久野友萬

文=久野友萬

    下火になったミステリーサークル出現だが、実は本当にプラズマによって作られた可能性も否定できないという。さらに、そこにメッセージを込めることも不可能ではなかった!? 最新科学で紐解く!

    一斉を風靡したミステリーサークル現象

     ミステリーサークルという、ある朝、なんの前触れもなく麦畑が幾何学模様になぎ倒されているという謎の現象があった。今も時々あるようだが、ピークは80〜90年代。ひと晩で直径数十メートルの模様が描かれるという不可思議な出来事に、麦畑を飛んでいたUFOの仕業だ、足で踏んでもこんな形に麦は折れない、など超自然現象を前提としてテレビや雑誌が大騒ぎした。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     ふたを開けてみれば、もともとイギリスのダグ・バウワーとデイブ・チョーリーという、いたずら心ある2人の老アーティストが木の板を使って麦を根元から踏み倒し、作ったものだった。ある種のアートであり、匿名のインスタレーションだったわけだ。やがて彼らのフォロワーが現れ、図形は複雑化し、全世界に広がったらしい。

     らしい、というのは、今もUFOの仕業だと信じている人がいるからだ。そうした人たちは、人間の作ったサークルもあるが、本当にUFOのメッセージだったものもあると主張する。

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    プラズマ説はどこに消えたのか

     ミステリーサークルはイギリスでは昔からある不思議な現象で、1880年にジョン・ランド・ケプロンが科学雑誌のネイチャーに論文を発表している(J. R. Capron, Nature 22, 290-291; 1880)。ケプロンはつむじ風のような小さな低気圧の渦が草や麦をなぎ倒し、円形の模様を描いたと考えた。

     元物理学者で気象学者、考古学者のテレンス・ミーデンは、ケプロンの低気圧説を受け継ぎ、ミステリーサークルは気象現象だと説明した。さらにミーデンは、プラズマ渦説を提案する。雷の放電のようなものが渦を巻いた結果だというのだ。これはミステリーサークルの周辺で発光体が見られたという話を説明するためだった。

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     丘を下りてくる風が電気を帯び、プラズマ化して旋回し、麦をなぎ倒した――。

     当時、プラズマの研究者だった大槻義彦はミーデンのプラズマ渦仮説を実験で検証し、プラズマで(あくまでも単純な)単純な円模様を描くことに成功、ミステリーサークルはプラズマ渦であると喧伝した。

     しかし結局、プラズマも何も人為的ないたずらだったわけで、大槻教授はあまりにも断定的すぎた。まだ確実に再現できていないものをできたかのように言うのは非常にみっともないという、悪しき前例を作ったわけだが。

    ダグ・バウワーとデイブ・チョーリー 画像は「The New York Times」より引用

     ではプラズマでミステリーサークルは絶対にできないのかといえば、そう単純には言い切れないから面白い。マックスプランク研究所のロシア人科学者が”球雷”の再現に成功しているのだ。

    謎の球雷を作り出す

     球雷(球電)という奇妙な雷がごくまれに見つかる。文字通り球状の雷なのだが、壁やガラスを通り抜け、地面を転がり、時として爆発するという。意味不明である。電気について私たちはわかったようなフリをしているが、まだ未知の部分が多く残されているのだ。

    1901年に起きた球雷現象の絵 画像は「Wikipedia」より引用

     この球雷は雷の一種なので、プラズマだ。プラズマの正体がわかると電気について新しい知見を得ることができ、一番剣呑な使い方としては球雷兵器ができるだろう。壁を通過し、部屋の中の人間だけを殺傷する兵器だ。小型化できれば、磁気で外部から精密誘導できるプラズマの弾丸や砲弾ができるし、他にも嫌な兵器がいくらでもできるはずだ。

     球雷は、地面の成分がガスとなって立ち上ったものが電荷を帯び、プラズマ化したものではないかと近年は言われていた。単純に電気と空気だけではなく、プラスアルファの元素が含まれて初めて球雷になるのだ。そこでケイ素など土中に含まれている元素を水に溶かし、その溶液に高電圧を流して溶液中で放電を起こした。すると一瞬だが、球状に発光するガスが立ち上ったのだ。

     球雷の正体が、ガスに高電圧がかかって起きる放電の一種であれば、壁を通過するのも簡単だ。壁を挟んで両側にガスが存在すれば、高電場の移動により、発光する場所が壁の外から内へと移動するわけだ。球雷は通り抜けたわけではなく、充満したガスの光る場所が変わっただけなのだ。

     ガスが高電圧により加熱されたのだとすれば、爆発するのもわかる。熱でガスが膨張する力が、ガスを球状にする力を上回ったのだろう。まさにガス爆発だ。

     電磁波がどのようにしてガスにエネルギーを与えて発光させ、球雷と並行して走っているのかは謎だが、これがわかればEVを走りながら充電することもできそうだ。

     高電圧を帯びたガスがなぜ球状になるのかは、今後のモデル化が必要だが、この実験により、球雷はまったくの未知の現象ではなくなった。科学の範疇に入ったわけだ。

    球雷とミステリーサークル

     さて、クラドニ図形をご存じだろうか。スピーカーの上に水や砂を薄く広げ、周波数を変えながら音を流すと、実に奇妙で美しい模様を描き出す。音の波の断面を可視化した図形がクラドニ図形なのだ。

     あらゆる生物の模様、亀の甲羅や蝶の羽、魚のウロコ、ヒョウの柄などはクラドニ図形の変形で描くことができるらしい。生物の体はほとんど水なので、水を伝わる音が細胞の配置を決めるのか、細胞の配置が特定の周波数に沿って行われるのか、よくわからないけれども、音と生命には深い関係があるようなのだ。

    フラワーオブライフのペンダント 画像は「Wikipedia」より引用

     複数の音源を用いるなど、クラドニ図形を複雑化させ、アートとしたのがサイマティクスだ(ニセ医療にも使われるので要注意)。スピリチュアル界隈で登場するフラワーオブライフと呼ばれる模様も、サイマティクスで作り出せるのだという。

     では、音波で複雑な水紋も作れるように、流体の特性を持つプラズマを使って単純な円のみならず、円の中に複雑な模様を描くことも可能ではないか。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     もしもプラズマ渦、つまり球雷がミステリーサークルの原因なら、ただの円ではなく複雑な図形を描くことができたのは、球雷に含まれる周波数がクラドニ図形として実体化したからではないのか。球雷が麦をなぎ倒し、神秘的なクラドニ図形を描き出したとしたら?

     サイマティクスの見方で言えば、図形とは音である。ミステリーサークルの残す模様は、球雷に乗せて送られたメッセージであり、私達の解読を待っているのではないか。

     そんなロマンに含みを持たせる球雷とミステリーサークルなのだ。

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

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