幽霊は18Hzの低周波が見せている!? 体を張った実験でわかった真実と、それでも理解を超えた部分/久野友萬

文=久野友萬

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    幽霊を見てしまう経験自体は、科学で説明できる可能性があるという。しかし、それでも理解を超えた側面が確かに存在するようだ。わかっていることと、わからないことを徹底考察!

    幽霊に遭遇しても怖がらない人が多数?

     今年の夏、読者は幽霊を見ただろうか? 残念ながら筆者は見ることができなかったが、息子が我が家の近所で見たと大騒ぎしていた。自転車に乗っていたら、前を歩く女性が近いのか遠いのかよくわからなくなり、目がどうかしたのかとブレーキをかけようとしたが間に合わず、女性とぶつかってしまったという。ところが、ヤバいと思った瞬間に前タイヤを女性がすり抜け、ハンドルの手前あたりで消えてしまったというではないか。

     しかも、息子が語ったその場所は、以前悲惨な交通事故があった場所。お盆だから(犠牲者が)帰って来たのかもしれないと言うと、「人じゃなくてよかった、ケガさせたかと思った」と一安心している様子。おい、少しは怖がれ。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     しかし、幽霊を見た人に直接話を聞くと、このように意外と本人は怖がっていないことも多い。相手の見かけがほぼ人間なので、怖いというよりも、変なことが起きたと驚くようだ。筆者自身も何度か幽霊を見たことがあるが、「あれはなんだろう」というのが正直な感想だ。幽霊は亡くなった人だ、と当然のようにみんな言うけれど、ちょっと怪しい。なにか全然別の存在じゃないかという気もする。

     では、科学では幽霊をどう考えているかというと、「外からの刺激で起きる幻覚」だ。どうやら、人間は電磁波や耳に聞こえない低周波にさらされると幻覚を見るらしいのだ。

    低周波が幽霊を見せている?

     英コベントリー大学のビク・タンディーは、かつて医療機器メーカーの研究室で働いている時、奇妙な体験をした。なぜか寒いのに汗が出て、憂鬱で、ひどく不快な気分に襲われたのだ。そこでコーヒーを飲みに行って一息入れ、デスクに戻ってから再び仕事に取り掛かろうとした時のこと。

    「ゆっくりと左側に? 影が現れた。それは視界の周辺にあり不明瞭だったが、彼が期待する通りに動いた。幽霊は灰色で、音も立てなかった」(2009年の論文「A Ghost in the Machine」より)

     振り向くと幽霊は消え、彼はその時点でようやく自身が総毛立っているのに気づいたという。

    画像は、論文『Ghost in the Machine』より引用

     その翌日、タンディーは研究室でフェンシングのサーベルを手入れしている時、金属片が振動していることに気がついた。モノには、それぞれ共有する振動(共有振動数)が決まっている。耳には聞こえないが、研究室には金属片と共振する振動数の音が響いているのだと気がついたタンディー。そして、新しく購入した洗浄機のファンが原因で、19Hzという可聴域以下の低周波が発生し、それが人間に影響を及ぼして不快感につながったと考えた。

     NASAの研究では、目の共鳴周波数は18Hzだという。つまり、18Hzの低周波で目が振動し、視神経にノイズを発生させる可能性がある。また、全身に共鳴が起きると過呼吸が引き起こされ、不安感も増すようだ。タンディーは、洗浄機のファンの発する低周波により過呼吸に陥り、不安で不快な状態に陥っていた。そして椅子に座った位置がちょうど18Hzとなり、視神経が刺激され幽霊が見えたのだ。

    「起き上がって物体を見ようと振り返った時、このピークエネルギーのゾーンからわずかに低いエネルギーのゾーンへと身体がずれて、幽霊は消えたのだ」(同上)

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     その後、タンディーは幽霊が出ると言われる場所を巡っては周波数を特定した。すると、どこでも19Hz以下の低周波を測定することができたという。

    電車の前に現れる子ども

     これらを踏まえ、懐疑主義者で疑似科学バスターのクリストファー・フレンチ氏は、被験者に人工的に幽霊を見せる実験を行うために幽霊の出る部屋を作っている。

     低周波の音と電磁波を発生させる装置を組み込んだ部屋に被験者が入ると、誰もがゾクゾクする不快な感じを覚え、体外離脱や何かがいる気配を感じた人もいた。実に94パーセントの人が「何かを感じた」と言うのだ。タンディーの仮説は正しかった。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     しかし、これは幽霊体験の原因を説明しているに過ぎず、なぜ幽霊が人の形なのか説明していない。たとえば、次のような事件が起きている。

     2016年、都営大江戸線の新御徒町駅構内で、子どもが線路内に立ち入ったとアナウンスが流れて運行が遅延した。その後、子どもの姿は確認されず、監視カメラの映像にも記録がなかったため地下鉄は再開した。2015年には、東海道線茅ヶ崎駅の線路で一人で遊んでいる子どもの姿をホームにいた旅客と運転士が発見、運行停止して子どもを捜索するも見つからず、監視カメラにも記録はなかった。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     このように、鉄道や駅の周辺で子どもが現れて消えることはたまにあるようだが、さまざまな機械が動いているため、ちょうど18Hzぴったりの低周波が出ていてもおかしくない。しかし奇妙なのは、全員が同じ幻覚を見ていることだ。

     幻覚なら、なにも子どもではなく、犬でも猿でも車でも何でもいいはずだ。全員が同じ幻覚を見るなんて、全員が同じ夢を見るくらいありえないはずだ。見ていない人も見た気になって、子どもがいると騒いだのか、あるいは客観的に子どもの姿をした何かがいたのか、謎は残されている。

    実験! 果たして幽霊は現れるか?

     18Hzや19Hzの低周波は、スマホのアプリで簡単に再生できる。私は『周波数ジェネレーター』という無料アプリをダウンロードし、18Hz(幽霊が見たかったので)をかけっぱなしにしてみた。音がまったく聞こえないため、本当に動作しているのかもわからないが、周波数を可聴域にするとプーとかピーとか聞こえ出すため、たぶん大丈夫だろう。

     音量を最大にして、スマホを机の横に置いておく。すると1時間ほどして、本当に調子が悪くなってきた。胸がムカムカして、息が苦しい。不快感だ。不安はないが、気持ちが悪い。18Hzは目だけ共振するのだろうと油断していた。ちょっとした反射で周波数はズレるため、壁で反射した音が19Hzに変わっていたのかもしれない。

    「周波数ジェネレーター」の画面

     放っておけばそのうち慣れるかと思ったが、どんどん気持ちが悪くなる。酒を飲んでも酔いが回らず、ただ頭がぐわんぐわんする感じ――あの不愉快さだ。一度切って、数日後にまたやってを3~4回繰り返したが、同じ感覚だ。どうやら、低周波が人を気持ち悪くさせるのは本当のようだ。本当は自分の知らないところでスイッチを入れてもらう方が、暗示効果がなくなっていいのだが――。それから、低周波はボーッと眠くなる。

     とにかく、全然良くない。何回かやってみて、幽霊は見えないし、気分は悪いしで止めてしまった。何か見えれば俄然やる気も湧いてくるというものだが、タイミングとか微妙な位置とかコツがあるのだろう。

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

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