古代の人々が描いた異形の存在の正体とは? 異星人壁画の謎/羽仁礼・ムーペディア

文=羽仁礼 

    毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。今回は、太古の昔に地球を訪れ、人類に文明を授けた異星人の姿とされる奇妙な壁画や岩絵を取りあげる。

    8000年前の岩壁に描かれた奇妙な人物像

     遠い宇宙のどこかから来た異星人は、太古の昔から繰り返し地球を訪れており、その痕跡が世界中に残されていると主張する人がいる。
     地球人類より遥かに文明の進んだ異星人たちは、未開の人類にさまざまな知識を伝え、各地で神として崇拝されたともいわれている。
     このような考えを「古代宇宙飛行士説」あるいは「宇宙神説」と呼ぶ。日本のUFO研究団体「宇宙友好協会(略称CBA)」はかつて、この説を「宇宙考古学」と称したことがある。
     古代宇宙飛行士説の根拠として論者がしばしば取りあげるのが、さまざまな国や民族に伝わる、天空や海の彼方からやってきて人類に文明を教えたという文明神の伝説であり、その遺物が属する時代の技術ではとうてい作成不可能とされる各種の加工品、いわゆる「オーパーツ」などである。
     たとえば、エジプトのデンデラにあるハトホル神殿の地下には、どう見ても白熱電球にしか見えない浮き彫りが残されているし、イラクから出土した陶器の壺は電池として機能することが確認されている。
     南米コロンビアからは、ジェット機そっくりの黄金の装飾品がいくつも出土しているし、日本の遮光器土偶についても、縄文時代に日本にやってきた異星人の姿を象ったものだという説がある。
     こうしたオーパーツのひとつとして、まるで異星人のような異形の存在や、宇宙船のような物体を描いた、古代から中世にかけての壁画や岩絵が取りあげられることもある。これらの奇妙な絵画の多くは、ユネスコ世界遺産や国の史跡にも選定されている。今回はそうした奇妙な絵画をいくつか紹介しよう。
     異星人を描いた古代の壁画として、おそらくもっとも有名なものが、アルジェリアのタッシリ・ナジェールに残る「火星人」の壁画であろう。
     タッシリ・ナジェールは、首都アルジェから南方2000キロの砂漠地帯にあり、この場所の岩壁には多くの岩絵が描かれている。これらは、今から6000年から8000年前に描かれたとされており、問題の岩絵は、1956年に現地を訪れ、数々の岩絵について詳しい調査を行ったフランスの探検家、アンリ・ロートが発見した。
     それは、岩穴の壁に線で描かれた高さ6メートルもある巨大な人物像であるが、その形が非常に奇妙なのだ。

    アルジェリア南東部、サハラ砂漠の中央に位置するタッシリ・ナジェール。その砂岩大地の岩壁に描かれた、角のある異形の人物像。「白い巨人」と呼ばれている。


     身体全体はゆったりとした、まるで宇宙服のような衣装に身を包み、頭は丸く、目や鼻、口と確認できる造形はない。ただ真ん中あたりに二重の円型が描かれているのだが、あたかも丸いヘルメットののぞき穴のようにも見える。
     発見者のアンリ・ロート本人も、この人物像に地球外の何かを感じたらしく、自らこれを「火星人」と名づけたのだ。

    発見者のアンリ・ロートが「火星人」と名づけた巨人像。劣化が著しく、線を強調しないと確認が難しい状態だ(写真=You Tubeより)。


     

    「泳ぐ人」と呼ばれる人物像。頭にアンテナのようなものが見える。

     タッシリ・ナジェールではほかにも、頭に角のようなもののある「白い巨人」の壁画や、頭にアンテナのようなもののついた人物像も見つかっている。
     じつは、タッシリ・ナジェールの「火星人」によく似た人物像が、隣国リビアのタドラルト・アカクスの岩にも浮き彫りで残っている。かつてこのあたりには人工の国境などなく、遊牧民たちは砂の海を自由に行き来していたであろうから、このふたつは同じ民族が描いたものかもしれない。

    アボリジナルの伝説に語られた「ワンジナ」

     異星人のような奇妙な人物像は、南半球のオーストラリアでも発見されている。
     1770年、ジェームズ・クックがヨーロッパ人として初めて訪れ、イギリスが流刑地として囚人を送り込む以前から、オーストラリアにはアボリジナルと呼ばれる先住民が住んでいた。彼らがオーストラリアに渡ってきたのは6万年前ともいわれており、彼らが残した岩壁画が、全土に数多く残されているのだ。 そうした岩絵の中に、人のような形の奇妙な姿もしばしば登場する。アボリジナルはこれを「ワンジナ」と呼んでいる。
     ワンジナは、丸い頭をした白い姿の人物像で描かれる。その顔は通常の人間とは大きく異なっており、異常に大きな目と鼻を持つが、口は描かれない。ときには頭から光線のようなものが放射されていることもある。
     その丸い頭と黒い目は、典型的なグレイの姿も彷彿とさせるものだが、さらにアボリジナルの諸部族の間には、ワンジナが異星人ではないかと思わせる伝説も伝わっている。
     その伝説によればワンジナは、アボリジナルが「ドリームタイム」と呼ぶ、この世の創世記に銀河からやってきた空の住人であるという。
     大地や人類を創造したのもワンジナたちであり、アボリジナルは彼らを神として崇拝したが、その後、一部の者は水の底に移り住み、他の者たちは空に帰ったという。そして空に帰った者たちは、現在は高いところを動く光のように見えるというのだ。まさに現代のUFOではないか。
     さらにアボリジナルの伝説は、ワンジナたちは姿を隠してはいるものの、いまだにこの世で起こるすべての事象を支配しているとも述べている。

    キリストは異星人!? 不思議な飛行物体の謎

    リビアのタドラルト・アカクスで見つかった人物像。異様に大きな丸い頭をしている。

     ヨーロッパに目を移すと、イタリア北部のロンバルディア州にあるヴァル・カモニカにも、異星人のような岩絵が存在する。
     ヴァル・カモニカとは「カモニカ渓谷」という意味で、1909年にここで2万5000点にもおよぶ岩絵群が発見された。
     これらは、紀元前8000年ごろの先史時代からこの場所に住んでいたカムニ族が描いたものとされるが、こうした岩絵群の中に、まるでヘルメットのような丸いものをかぶったふたりの人物像がある。
     いずれも手に小さな弓のような形をした道具らしきものを持ち、ヘルメット状のものを介して、後光のような光が頭部の周囲に広がっているのだ。
     同じように、ヘルメットをかぶったような奇妙な人物像は、ウズベキスタンのフェルガナ盆地でも発見されている。

    頭から光線状のものを放射している姿のワンジナもいる(天井部分)。


     フェルガナの異星人壁画というと、かつてエーリッヒ・フォン・デニケンが『宇宙人の謎』において、口から火のようなものを吐く人物像を紹介したことがある。しかしこれは、1967年にロシアの雑誌に掲載された現代のものであったことが判明している。
     そこで、フェルガナの異星人壁画というとしばしばこちらの話が取りあげられ、デバンキング(真相の暴露)の材料にされているのだが、本物の古代の壁画も多く残っている。そのひとつが丸い大きな頭を持つ奇妙な人物像であり、その頭からはやはり光のようなものが放射されている。
     バルカン半島のコソボ共和国ペーヤ郊外にあるヴィソキ・デチャニ修道院には、まさしく宇宙船のような、楕円形をしてアンテナ状の突起を持つ飛行物体に乗った人物像を描いた壁画がある。
     この修道院はセルビア正教会の修道院であるが、その内面の壁に数多くのフレスコ画が描かれていることで知られ、2004年にはユネスコ世界遺産にも登録された。問題の物体は、キリストの磔刑の場面を描いた壁画の、十字架上のキリストの左右にふたつ描かれている。
     古代宇宙飛行士説の一派には、『聖書』に登場する神はじつは異星人であり、「神の子」たるイエス・キリストもじつは異星人だったとする論者もいる。もしかしたらこの絵は、異星人としてのキリストの正体を明かすものかもしれない。

    イタリアのヴァル・カモニカで見つかった奇妙な岩絵。ヘルメットをかぶり、手に何らかの道具を持っているように見える(写真=LucaGiarelli/Wikimedia Commons)。

    角や翼を持つ謎の人物は古代に飛来した異星人?

     奇妙な人物を描いた壁画は日本にも残っている。
     まずは、北海道余市町にあるフゴッペ洞窟である。ここには、岩面に線を彫り込んだ岩面刻画というものが残されている。
     発見されたのは1950年(昭和25)のことで、洞窟の内部からは800以上の線刻画が確認されている。その後、内部で見つかった総数3000点にもおよぶ石器や骨角器などから、これらの線刻画が描かれたのは縄文時代と推定されている。
     こうした線刻画の中に、2種類の奇妙な人物像がいくつも見つかっている。
     それらは、頭に角のような突起を持つものと、鳥のように羽を生やした人物像であり、前者は「有角人」、後者は「有翼人」と名づけられている。「有翼人」は78体、「有角人」は107体確認されているということだが、もしかしたらこれらは地球を訪れた異星人を描いたもので、角に見えるものはアンテナ、羽は小型の飛行装置かもしれない。
     熊本県のチブサン古墳でも、頭に角のある異星人のような壁画が発見されている。
     チブサン古墳は熊本県山鹿市にある、長さ45メートルの前方後円墳で、内部に色鮮やかな壁画が残ることで知られている。この装飾の中央にある、丸いふたつの目玉のようなものがオッパイのように見え
    るため「乳房さん」と呼ばれるようになり、それが「チブサン」になったといわれる。
     このふたつの目玉のような装飾の近くに描かれたのが、頭に3本の角のようなものをつけた人物像であり、その頭上には7つの円が描かれている。

    北海道余市町にあるフゴッペ洞窟で見つかった「有翼人」。豊漁祈願などの祭祀的な意味合いがあると推測されているが、正体は不明だ。
    熊本県山鹿市のチブサン古墳内に描かれた特徴的な壁画(写真は複製)。ふたつ目のような文様や3本の角状のものを持つ不思議な人物像は、何を表しているのだろうか。


     冒頭に紹介したCBAは、古墳の呼び名になっているチブサンは、古代原日本民族たるプレアイヌ語で「船の降りる場所」、つまり宇宙船の着陸基地を示す「チプサン」に由来するとし、角のある人物はかつてこの場所にあった太陽王国の王チプサン・キングであると主張した。彼らによれば、このチプサン・キングの頭上を舞う7つの円も、UFOを描いたものだということになる。
     ほかにも異星人を描いたとされる壁画や浮き彫りの類いはいくつも見つかっている。他方、そうした絵画類については、美術史や考古学の観点からの説明も試みられている。
     たとえばヴィソキ・デチャニ修道院の宇宙船のようなものについて、宗教画の専門家は太陽と月であると説明する。しかし、タッシリ・ナジェールやアボリジナルの岩絵には実在する動物たちも描かれているが、そのタッチが非常に写実的なのである。
     だとすると、一緒に描かれている「火星人」やワンジナなども、かつて実在した何かをもとに描かれたのではないだろうか。

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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