世界各地で異次元ポータルが開く!? 中国で怪光が浮かび、アラビア海では時空が歪む… 衝撃映像が続々!
中国の空に不気味な光が差す怪現象発生! さらに時を同じくしてアラビア海の上空でも…。世界の空で今、何が起きているのか?
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2019年12月30日、その日、走行中の自動車が断崖から転落、あろうことか跡形もなく姿を消していた‼ 本誌読者ならばおわかりだろう、これもまた、いわゆる異世界消滅事件のひとつである、と。こうした事件は数少ないながら、現在も起きている。 (2020年9月9日記事を再掲載)
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「カリフォルニア警察、昨年12月に断崖からジャンプして消えた車のドライバーの身元をようやく確認‼」
2020年5月13日、アメリカの大手通信社APは、ミステリーじみた奇怪な自動車転落事件の顚末を、わずか数秒の短いながらショッキングな動画映像付きで、世界に一斉配信した。
それはまるで往時に人気を博したSFドラマ番組『トワイライトゾーン』(1960年代の日本放映時には『未知の世界』ついで『ミステリー・ゾーン』)の1エピソードを思わせるような、世にも不思議な事故——というより事件だった。
その事件が起きたのは、2019年の暮れもいよいよ押し詰まった、12月30日、月曜日の午前10時38分ちょうど。時刻が分の単位まで正確なのは、たまたま通り合わせた対向車のドライブレコーダーが、偶然その断崖からジャンプするスポーツカーの瞬間的な映像をしっかり捉えていたからだ。
事件の現場は、米カリフォルニア州サンマテオ郡のグレイホェールコーヴ・ステートビーチ付近を走るハイウェイ1号線沿いの、太平洋に面した高さ30メートル前後の断崖絶壁。これほどの高さから岩石だらけの海岸に突っ込んだのでは、車はもちろん運転者や同乗者(もしいたらの話だが)もとうてい無事ですむはずはない。
たまたま車の断崖転落を目撃した対向車の運転者からの緊急通報を受けて、真っ先に現場に急行したのは、カリフォルニア州警察のハイウェイパトロール隊員たちだった。
続いてサンマテオ郡保安官事務所の主任保安官と部下たち、次いで地元消防署の救急救命隊員たちが続々合流して、事故車の無残な残骸と運転者や同乗者の痛ましい遺骸をせめて一刻でも早く発見して遺族のもとへ届けようと、強い使命感に駆られながら懸命に捜索活動にあたった。
しかし、ドライバーがハンドル操作を誤ったのか、あるいは何らかの理由で自殺行為を実行したのかは、現在に至るもまだ判然としない。また、断崖からジャンプして海岸の岩場に激突したはずの車の残骸もドライバーの遺骸も、墜落したはずの現場やその周辺からは、どういうわけか現在に至るまでいっさい発見されていないのだ。
一方、対向車のドライバー(当人の強い要望で氏名は非公表)から警察当局に提供された当該ドライブレコーダー画像の分析結果から、転落車の車種はトヨタ製の高級車SUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)のレクサスRXで、車体の色はダークグリーンと確認された。
加えてカリフォルニア州ハイウェイパトロール隊当局が、転落車を運転していたドライバーの身元を洗いだそうと、5か月間近く粘り強く捜査を続けた結果、被害者の家族友人から出されていた失踪者捜索願いに基づくDNA解析などの状況証拠から、この悲劇のSUVを運転していたのは、どうやらサンフランシスコ在住のミズ・シンクレア(ファーストネームと職業・年齢は非公表)という中年女性だったらしいとまでは、ようやく判明した。
〝らしいと判明〟とはいささか曖昧すぎる表現だが、それも無理はない。なぜなら対向車のドライブレコーダーが転落車の断崖ジャンプの光景を、偶然ながらはっきり映像に捉えていたにもかかわらず、事故翌日の12月31日から正式に開始され、正月返上で本年1月7日まで8日間にわたって実施された関係当局合同の大捜索は、上述したように結局、完全な空振りに終わったからだ。
カリフォルニア州警察、同州消防隊、沿岸警備隊、さらには海軍の特殊作戦部隊ネービーシールズまでが出動して、転落現場付近を陸海空から捜索した。中でも海軍の潜水部隊はソナー探知機を駆使して海中と海底を念入りに捜し回ったものの、成果が上がらぬうちに天候が悪化しはじめたため、やむなく捜索を諦めて撤収した。
結局、転落当時車内にいたはずの人間の遺骸はおろか、転落車そのものの残骸、いやそれどころか、その破片と思しき金属片のひとつすら、転落現場やその周辺一帯のどこからも発見されずに終わったのだ。
対向車のドライブレコーダーにははっきり姿を残しながら、ミズ・シンクレアと彼女が運転するSUVは、まるで何らかの時空の歪み――SF的にいい換えれば、時空連続体の不可視のエアポケットにでも呑み込まれたかのように 、忽然と姿を消してしまった。
ミズ・シンクレアと彼女の運転するスポーツカーは、まさに文字どおりに異世界へと消滅したまま、二度と再びこちらの世界には戻ってこなかったのだ。
〝異世界への消滅〟といえば、日本国内でも、60年近く前に報道されて半ば都市伝説化したミステリー事件、とされる通称〝藤代バイパス先行車消滅事件〟がある。
この不思議な事件が起きたのは1960年代前半。当時この事件を最初に報道したのは「毎日新聞」の1964年3月4日付首都圏版の夕刊だった。といっても社会面ではなく、「赤でんわ」という無署名の囲み記事コラムである。
そこには事件の経緯のあらましが、以下のように記されていた。
「——すっかり晴れ上がったその日の早朝、某有名銀行支店の支店長代理(39歳)の運転する社用車が、取引先の営業部次長(38歳)と同銀行の常連の顧客ひとりを乗せて、茨城県龍ヶ崎市にある某ゴルフ場に向かっていた。
車が旧水戸街道(現在の国道6号線)沿いに松戸市及び柏市(いずれも千葉県)を経由してまもなく、午前8時過ぎ、藤代バイパス付近に差しかかったとき、だしぬけにそれは起こった。
前方150メートル付近をこちらと同じスピードで走っていた黒塗りのトヨペット・ニュークラウンの車体の周辺から、突如として白煙とも水蒸気とも判断のつかないガス状の白い気体が、音もなく噴きだしたように見えたのだ‼
啞然とする3人の目の前で、白い気体は5秒ほどでたちまち雲散霧消した。だが次の瞬間、3人は愕然として異口同音に叫んだ。
『車が消えた‼』
つい今の今まで、確かに路上前方を走っていたはずの黒いトヨペット・ニュークラウンの姿が、なぜか影も形もなく消え去っていたのだ‼
その車は水戸街道の東京都葛飾区金町付近から、ずっと先行していた東京ナンバーの車で、後部座席の左側で年配の男性がクッションにもたれた姿勢で新聞を拡げていたのを、3人ともはっきり覚えているという。
先行車が消えた現場は、横道も急カーブも分岐点もない直線道路だったので、3人が3人とも知らないうちに車を見失っただけとはとうてい考えられない。
『だれにも信じてもらえそうもない現象だが、あの車はわれわれの目の前で、たしかにあっという間に道路上から消え去ったんだ』
と彼らは強調するのみだった――」
銀行員たちと顧客の目の前で消滅した東京ナンバーの黒い車は、いったいどこへ消えたのか?
消えた先が異世界なら、それはSFや超常現象の世界なら存在しても当然の異次元か超次元か、あるいは超空間か亜空間か? それともひょっとして並行世界(パラレル・ワールド)だろうか?
SF好きや超常現象ファンならだれでも知っている〝テレポート(動詞)〟とか、〝テレポーテーション(名詞)〟というSFジャンル独特の専門用語がある。
〝遠隔瞬間移動〟ぐらいの意味で、もともとはアメリカのSF黎明期の作家たちに多大な影響を与えた超常現象研究の元祖チャールズ・フォート(1874年生〜1932年没)が、世界で初めて使用した新造語のひとつとされている。
ちなみに世界の歴史上初めて本格的に超常現象研究に取り組んだフォートに敬意を表して、テレポーテーションをはじめとする多くの超常現象は、研究者たちからときに別称として〝フォーティアン現象〟とか、愛称的に〝フォーティアナ〟などと呼ばれている。
人や車が突如として〝異空間に消える〟フォーティアン現象は、このテレポーテーション現象のいわば前半の段階に相当し、先述した藤代バイパスの事例のように、人であれ物であれ〝空間消滅〟したものが消失したまま二度と現われないこともあれば、再びこちらの空間に再出現するという後半の段階が続くこともある。
人や物がほとんどなんの前触れもなく、突発的にこの消滅現象を引き起こして瞬間移動(テレポート)するとき、その瞬間移動する先は、これまで報告された実例にもとづくかぎりでは、たいていの場合同じこの地球上のどこかではあるものの、はるかに遠く離れた〝別の場所〟なのだ。
たとえば2018年2月7日、アメリカで発生したもっとも典型的な最近のテレポーテーション事件の実例では、事件当事者はなんとアメリカの東海岸から西海岸まで、約4600キロをひとっ飛びに〝瞬間移動〟した計算になる。
その日、カナダはトロント市在住のベテラン消防士、コンスタンティノス・〝ダニー〟・フィリッピディス(49歳)は、国境を越えてアメリカのニューヨーク州レイクプラシッドのホワイトフェイスマウンテンに、スキー旅行を楽しみにきていた。
フィリッピディスはスキーヤーとしてもプロはだしの腕前で、このスキー場も親しい消防士仲間と毎冬のように来ていて、そのすみずみまでよく知っているはずだった。
この日、友人たちは全員、午後2時半ごろまでには滑るのを止めて引き揚げたが、フィリッピディスだけはそのままゲレンデに残っていた。あと2、3回は滑りたいようだった。
そのフィリッピディスの姿がいつのまにか消えていることに、友人たちが気がついたのは、夕暮れどきになってからだった。スキーもブーツもパスポートも身分証もスマートフォンも、そして乗ってきた自分の車もそのまま残して、このベテラン消防士は、忽然と姿を消してしまったのである。
雪山での遭難はよくあることなので、ただちに捜索隊が複数の関係当局の人員から編成され、そこにプロやボランティアの捜索者たちも加わって迅速に出動した。
ヘリコプターやドローンや災害救助犬まで動員されて、ホワイトフェイスマウンテンの周辺一帯が6日間ぶっ通しでしらみつぶしに捜索されたものの、なんの成果も上がらなかった。
もとより30年近い消防ひと筋の真面目な人生を、突然放りだして逃げだす理由などまったく考えられないので、捜索当事者たちは最悪の事態を危惧しはじめた。
ひょっとしてフィリッピディスは雪山か荒野か森林地帯のどこかで何らかの事故に巻き込まれて遭難し、今は身動きのできない状態か、あるいは最悪の場合もう死んでいるか――。
だが、フィリッピディスの失踪から6日たった2月13日、奇しくも捜索が打ち切られたその日の夜遅く、事態は思わぬ方角から一変することになる。
カナダ・トロント市にある自宅で、フィリッピディスの妻コレリー(仮名)がまだ10代の息子や娘と、夫の遭難を心配して駆けつけてくれた親族や友人たちとともに悲嘆に暮れていたところへ、突然遥か遠方の地から、長距離電話がかかってきた。
声の主は確かに夫のようだが、よほど憔悴(しょうすい)しているのか、まるで別人のように自信なさげな、か細く弱々しい声だった。ただ、夫しか使わない自分のニックネームで呼んだので、コレリーは電話の相手が確かに夫だと確信した。
だが、非常に不思議だったのは、フィリッピディスの電話の発信地が、当人が失踪したスキー場からざっと4600キロ近くも離れた大陸の反対側、カリフォルニア州サクラメントだったことだ。
同じ北米大陸上の大都会だが、カナダ・オンタリオ州の州都トロントは、ずっと東寄りの5大湖地方に位置する。対するサクラメントはアメリカ合衆国の西端部、カリフォルニア州の州都だ。
つまりフィリッピディスは、ニューヨーク州レイクプラシッドのスキー場で急に姿を消し、6日後、約4600キロも離れたカリフォルニア州サクラメントから、カナダのトロント市の自宅に電話をかけて、とりあえず自分の無事を知らせたことになる。
念のためつけ加えれば、このとき使ったのは公衆電話ではなく、サクラメント市内で販売店から購入したスマートフォンだったことが、後日になって判明した。
だが、大西洋に面した東部沿岸のニューヨーク州レイクプラシッドで忽然と姿を消し、その6日後に大陸をまたいでほとんど反対側に近い、太平洋に面するカリフォルニア州サクラメントに出現し、隣国カナダ・トロント市の自宅に電話をかけるまで、フィリッピディスの身にいったい何が起きたのか?
まず、失踪当時と同じスキーウエアにゴーグル、ヘルメット姿のまま当のフィリッピディス氏が最終的に保護された、サクラメント郡保安官事務所のスコット・スィッシャー巡査部長は説明する。
「当方としては、答えのわからぬ疑問が山ほど残っている。どうやら当方が保護したこの紳士は、問題をたくさん抱えていて、とても混乱していた。明らかに医者に診てもらう必要があるようだ」
ニューヨーク州警察のジョン・H・ティビッツ・ジュニア巡査部長も、この消防士失踪事件を以下のように振り返る。
「この男性はサクラメント市の郊外で、ハイウェイ・ルート86の道端にボーッと突っ立っていたらしい。だから通りがかった親切なリグトラック(トレーラーとトラクターが連結した巨大車)に拾われて、サクラメント市中に入ってから降ろしてくれたのだろう」
だが、フィリッピディスを保護した警察当局がとりわけ問題視したのは、いったいどのような手段で、大陸を東から西へと約4600キロの長距離を移動したのかという点だった。
通常なら飛行機、バス、タクシーなど、移動手段は少なくとも9通りや10通りはある。だが、移動経路になりそうな空港や駐車場やバス乗り場など、警察が要所要所をいくら調べても、フィリッピディスの姿が映った監視カメラはなく、目撃した交通機関の職員もまったくいなかったのだ。
何らかの犯罪に巻き込まれた――たとえば、何者かに誘拐されて車でサクラメントまで連れてこられた、という可能性もなきにしもあらずだが、本人自身が自宅へ電話連絡し、また財布もクレジットカード類もそのまま所持していたので、その線も消えた。
ただ不思議なのは、レイクプラシッドからサクラメントまで自分がどうやって移動したのかについて、フィリッピディス本人にも答えられなかったことだ。
当人がいうには、このところ何日間も四六時中ずっと刺すような頭痛に悩まされつづけていて、自分が何をどうしたのか、ほとんど断片的にしか記憶がないのだという。
ただ少しだけ憶えているのは、自分がサクラメント市内でリグトラックから降ろされたこと。だが、やはり運転者の名前も人相もどうしても思い出せなかった。
一方、警察の捜査でも、レイクプラシッド近辺でこのはっきり人目に立つ巨体のリグトラックを見かけた目撃者はひとりもいなかったので、移動手段としてはこの線も消えたのだ。
こうなると残る可能性はただひとつ。いくら奇想天外かつ荒唐無稽であろうとも、先に解説したテレポーテーション現象の、いよいよ出番となる――レイクプラシッドのスキー場にいたフィリッピディスは、突如として発生した何らかの〝時空の歪み〟に吸い込まれ、4600キロ彼方のサクラメント市の郊外までテレポートされて、再び忽然と出現した。
ただ、フィリッピディスが時空をテレポートする際、物理的な時空連続体のうち、空間は4600キロほど移動したが、どういうわけか時間は6日未来に移動したのだ!
しかし、どうしてそうなるのか、そのSF的な不可解極まるメカニズムを、物理学的にはもちろん超常現象学的にも、きちんと科学的に説明できる者はだれひとりとしていない。
古今東西の関連文献を調べると、テレポーテーション現象とおぼしき事例は、現象が現象だけにそう数多くは報告されていないが、それでも興味深い実例がいくつか記録されている。
アメリカの超常現象研究家ブレント・スワンサーによれば、1968年5月初め、南米アルゼンチンと中米メキシコとの間に微妙な外交問題まで生じさせたテレポーテーション事件が発生した。
医師のヘラルド・ビダル氏とその妻ラフォデが乗るプジョー403が、ブエノスアイレス郊外チャスコムスの人里離れた景観のすばらしい道路を走行中、だしぬけにどこからともなく湧き出した白い濃霧に、車全体がすっぽり包み込まれた。
不思議な白霧はすぐに晴れ上がったものの、ヘラルドとラフォデが驚いたことに、いつのまにか辺りは見覚えのない見知らぬ場所に変わっていて、どの道を行けば目的地の友人宅に辿り着けるのかわからなくなっていた。
その時点ではまだビダル夫妻は知らなかったが、すでに彼らはアルゼンチンからメキシコへとテレポートさせられていたのだ――。
一方、ビダル夫妻が予定時刻を半日過ぎても到着しないので、先に着いていた夫妻の子供たちと友人の家族は不安になり、警察に助けを求めた。ただちに夫妻が辿るはずのコースの要所要所がチェックされたが、なぜか彼らが通過した形跡がないことが判明して大騒ぎになった。
だが、まるまる48時間後、やっとヘラルド・ビダル医師から、子供たちと友人家族に電話がかかってきた。自分たちは無事だが、ただおかしなことに今はメキシコシティにいるという。
メキシコシティは中米のメキシコ合衆国の首都だが、ビダル夫妻の車が走っていた南米のアルゼンチンからは、たっぷり6400キロは離れている。
電話の向こうのヘラルドは、途方に暮れた声で説明した。
「この2日間に何が起きたのか、私にも妻にもまったく記憶がないんだ。憶えているのはただ、走っているうちに不思議な濃い霧に出遭って、それきり意識を失ったってことだけだ」
ビダル夫妻が意識を取り戻したとき、彼らが乗っている車は、まったく見覚えのない土地の見知らぬ路上に止まっていた。意識が戻るとすぐ、夫のヘラルドも妻のラフォデも首筋のあたりが痛いと訴えた。まるで狭い場所で長時間、眠りつづけたように感じたという。
車外に出てみると、車の表面がどこもかしこも、まるで〝鉛管工のトーチランプで灼かれたように〟焼け焦げていたので、ヘラルドは眉をひそめた。
だが、幸い運転には支障ないことがわかったので、ビダル夫妻はその道路をそのままノロノロ運転して、通りかかった男女の通行人数人に、
「ここはどこですか?」
と尋ねてみた。
訊かれた通行人はみな妙な顔をしながらも、メキシコシティだと教えてくれた。蛇足だが、中南米の国々は、ポルトガル語のブラジル以外はほとんどスペイン語圏なので、多少の訛りがあっても会話に不自由することはない。
夫妻はとどのつまり、アルゼンチン領事館の住所を教えてもらうと、焼け焦げのプジョー403をその門前に乗りつけた。最初は怪しまれたが、医師免許を持つアルゼンチン国民であることを示す身分証が物をいって、結局入館できた。
ビダル夫妻からこもごも事情を聴取した中年の駐メキシコ・アルゼンチン領事のX氏(事件の性質上、匿名)は、外交官としてしごく当然ともいえる極めて現実的な対処策を講じた。
常識を超えたありえないことが現実に起こったと実際的に解釈したうえで、この〝ビダル夫妻テレポーテーション事件〟が決して明るみに出ないように、夫妻と関係者全員に対する厳重な緘口令を含めた真相隠蔽工作を遂行しようと奮闘したのだ。
X領事は焼け焦げた外観のプジョー403を、適切な科学研究機関に内密に移送すると同時に、新品の同型車を急遽購入して、口止め料代わりにビダル夫妻に贈与した。
しかしながら、この徹底を極めて成功したかのように見えた真相隠蔽策は、土砂崩れが押し寄せる豪雨直後の山間ダムさながらに、ほんの数週間で脆くも崩壊した。
多くの衝撃的なフォーティアン現象がみなそうであるように、ハイレベルな純粋科学的関心から俗悪低級な覗き趣味に至るまで、真実を知ろうと怒濤さながらに押し寄せる、よくも悪くも人間の素朴で強烈な好奇心を前にしては、厳然たる真実を永遠に隠し通すことなどできるはずはない。
この年(1968年)後半、世界のあらゆる通信社、新聞社、雑誌社、そしてラジオ・テレビ(まだパソコンやインターネット、スマホはなかった)がこぞってこの一見、奇想天外で荒唐無稽な話題をさまざまな手を使ってしつこく追い駆け回した。
だが、マスメディアの繰り出すあの手この手にさんざん弄ばれたビダル夫妻は、それが心身にこたえたのだろう、世間から背を向けて、事実上の隠遁生活に逃げ込んだ。
ビダル夫妻の心身を痛めつけたストレスの発生源が、そのマスメディアの狂騒にあったのか、それともテレポーテーションを引き起こした〝時空の歪み〟そのものにあったのか、今となってはもう確認する術(すべ)はない。
いずれにせよ、夫妻はともども晩年には、悪性の白血病に苦しめられて、先年続けて他界した。だが、その没年も享年も、夫妻の身内の一族は決して部外者には明かさなかったのだ。
最後にひとつだけ言及したいことがある。近年、素粒子物理学の分野では、量子テレポーテーションの実験が成功して、その理論の正しさが実証され、物理学の歴史を書き換える革命的大事件として話題になっている。
そこで筆者は問いたいのだ――このようにミクロのレベルで〝テレポーテーション〟現象が可能なら、同じことがマクロのレベル、すなわちわれわれが存在するこの世界では絶対不可能だと、どうして決めつけられるだろうか?
南山宏
作家、翻訳家。怪奇現象研究家。「ムー」にて連載「ちょっと不思議な話」「南山宏の綺想科学論」を連載。
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