狼男になる「ライカントロピー」現象はCIAの集団人体実験だった!? 関係者の死で深まる謎/仲田しんじ

文=仲田しんじ

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    なぜか昔から人間の“変身形態”としてメジャーな存在、オオカミ。狼男伝説に端を発する「ライカントロピー」の真実はどこにあるのか。

    残虐非道な歴史上の“狼男”たち

     人間が突然オオカミに変身してしまう奇怪な現象は「ライカントロピー(lycanthropy)」といわれ、オオカミに変身してしまった者は“狼男”と呼ばれる。神話や物語の出来事のようだが、事実としての記録も多い。

     歴史上最も有名な狼男は、16世紀後半にドイツの田舎町で残虐の限りを尽くした「ベートブルクの狼男」ことペーター・シュトゥンプだろう。
     シュトゥンプはベートブルクの町で16人(うち子供13人)をきわめて残酷な方法で相次いで殺害し、その肉を貪った。シュトゥンプが狼男であることは途中まで街の誰も知らなかったが、対策に乗り出した町の人々の追及によってシュトゥンプが狼男に変身していることがわかり、彼は公開処刑された。

    画像は「Wikimedia Commons」より

     一方、同じく16世紀終盤のフランスでは「シャロンの狼男」ことニコラス・ダモンがいた。
     服の仕立てを生業としていたダモンは子供たちを店に誘い込み、虐待の末に喉を切って殺害し、その肉を食べたとして告発された。彼はまた森で子供を襲った狼男であると噂され、人間からオオカミに変わる姿を目撃したとの証言もあった。
     彼が本当に狼男であったかどうかは証明されなかったようだが、その犯行の数々は死刑に値するものであり、ダモンは1598年に生きたまま火あぶりの刑に処された。

     以上が代表的なライカントロピー(lycanthropy)のケースであるが、このほかにも当時のヨーロッパでは同様の事例がいくつか記録に残されている。

     しかし素朴な疑問となるのは、なぜ変身の対象がオオカミなのかということだろう。単なる“変身願望”であればクマやトラやライオンなどでも強そうだが、よりによって、どうしてオオカミにばかり変身するのか。

     歴史を紐解けば僅かながらにネコ、コウモリ、キツネに変身したと主張する人々の例があるのだが、それでもオオカミは依然としてメジャーな変身形態である。ひょっとすると、ライカントロピーは単なる現象ではなく、何らかの症状なのだろうか。そうだとすれば、もっぱらオオカミであったとしても説明できそうな気はしてくるが……。

    画像は「Wikimedia Commons」より

    冷戦期のフランスの田舎町で起きた騒動

     ライカントロピーを考えるうえで興味深い事件がある。

     東西冷戦時代初期の1951年8月半ば、南フランスのポンサンテスプリ(Pont-Saint-Esprit)という小さな田舎町で、奇妙な集団イベントが起きた。
     公式の記録によると、町の人々は麦角菌(ばっかくきん)と呼ばれるライ麦パンに生じる真菌の犠牲者で、パンを食べた多くが嘔吐や頭痛に襲われ、中には幻覚を訴える者や一時的に精神に異常をきたす者も出て、自傷や自殺行為を起こす者さえあらわれたのだ。
     そして何百人もの人々が獣のような状態で町の周りで暴れ回り、うなり声を上げ、遠吠えし、大混乱と騒乱を引き起こした。一部の人々は、仲間の町民が狼男、ガーゴイル、悪魔などの恐ろしいモンスターに変身するのを見たと話した。

     260人近くが症状に苦しみ、7人が死亡した。うち40人以上がトラウマを負ったため、地元の病院に一時的に収容されたのである。単なる麦角菌の集団感染であったというには被害と騒動が大き過ぎるようにも思える出来事であった。そしてもちろん、狼男に変身した者がいたという目撃証言は、それが幻覚であったとしても大いに気になる点だ。

    画像は「Pixabay」より

    CIAの大規模人体実験であった可能性

     2006年刊行『Hunting the American Werewolf』の著者、リンダ・ゴッドフリーによれば、麦角菌(claviceps purpurea)にはLSD に似た化合物が含まれており、生々しくも恐ろしい幻覚を引き起こし、魔女、狼男、吸血鬼などの幻視を見ることがあるという。とすればやはり麦角菌の集団感染であったのか。

     しかし、そこに意外な方向から光が当てられる事態となった。

     2009年刊行『A Terrible Mistake』の著者、H・P・アルバレリJr. は同著で1950年代初頭にキャンプ・デトリックの米陸軍の特殊作戦部門で働いていた優秀な化学者であるフランク・オルソンという男の謎の死に関する調査を報告している。オルソンは1953年11月28日、マンハッタンのホテルの10階から「落下」して死亡したのである。

    画像は「Amazon」より

     キャンプ・デトリックは今日のフォート・デトリックと呼ばれる研究所で、軍が化学戦争、生物戦争、致命的なウイルスなどの問題に関する調査と研究を行っている。1950年代初頭のキャンプ・デトリックは、いわゆるマインドコントロールと洗脳の研究を行っていたとされ、この時期に在籍していたオルソンも同種の研究を行っていたはずである。
     そしてオルソンは、フランスの諜報機関と連絡を取りながら、1950年と1951年にフランスを訪れているのだが、まさに1951年8月にポンサンテスプリに滞在していたのだ。いったいこの田舎町を何の目的で訪れていたのか。

     アルバレリの見解ではポンサンテスプリの町は、集団的な人体実験の舞台にされた可能性があるという。
     1951年8月15日、町の給水に挿入された強力なLSDなどの幻覚剤(サイケデリックス)が混入され、さらに上空から航空機で幻覚剤が散布されたというのである。

    画像は「Pixabay」より

     フランス政府と米軍はポンサンテスプリの町の人々に人為的に“狼男”の幻影を目撃させる実験を行ったのだろうか。この時代のフランスもまた洗脳やマインドコントロール技術に関心を持っていたということで、自国民を実験台に米軍の技術を試すという非道な人体実験に手を染めたのだろうか。

     さらにアルバレリによれば、オルソンはこの研究と極秘の人体実験に良心の呵責を感じてノイローゼ気味になり、極秘事項を外部に漏らしたために、彼はCIAによって“処分”されたというのである。ホテルの10階からの転落は、事故や自殺を装った殺人だったということになる。

    CIAの関与を指摘するという文書。

     狼男をはじめ都市伝説に登場するミステリアスな存在の中には、ある意図をもって人々に見せている“幻影”が含まれているのだろうか。狼男を目撃する、あるいは自分が狼男になるというライカントロピーという現象に、米ソ冷戦時代にさかのぼる謀略工作が紛れ込んでいるとすれば驚くばかりである。

    【参考】
    https://mysteriousuniverse.org/2022/12/The-Horror-of-Lycanthropy-When-You-Think-You-re-Changing-Into-Something-Monstrous/

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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