人類滅亡した世界から投稿? TikTokタイムトラベラーの過激すぎる災害警告/未来人たちの肖像(4)
未来人ウォッチャーがネットを騒がせた未来人を独自の視点で振り返るシリーズ。第4回目は「TikTok」に出現するタイムトラベラーを追う! 流行りに乗れるのも未来を知るゆえなのか?
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毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、18世紀のフランスで“社交界の花形”としてもてはやされ、「不死の人」と噂された怪人物を取りあげる。
その男は、整った顔立ちをしていた。当時の感覚では、いわゆるイケメンだったらしい。背丈は人並みだが、黒い瞳と少し浅黒い肌の色はなんとなく東洋風の、エキゾチックな雰囲気も漂わせていた。
身だしなみも行き届いていた。ウィッグには白い髪粉が丹念に施され、手指すべてに宝石のリングをはめていた。
物腰も洗練されており、いかにも上流階級の出自を思わせたが、だれもが争って豪奢を追求したこの時代のパリにおいて、彼の服装はむしろ地味に整えられていた。しかし、そのことがかえって彼の個性を際立たせ、目立つ存在にしていた。
絵画は画家としてもやっていけるほどの腕前だったし、発する声も魅力的で、歌もうまかった。そのうえバイオリンをはじめとする楽器類もプロの演奏家なみに弾きこなし、自分で曲も作った。実際フランスに現れる以前には、ロンドンで音楽家や作曲家として活動していたともいわれている。
彼は資産家でもあったようだ。彼が手を染めていることといえば、当時の国王ルイ15世に与えられたシャンボールの館での奇妙な実験くらいであるが、これはさほど利益を生みだすようなものでもなかったし、パリの社交界に出入りしている時間のほうがずっと長かった。それでいて、生活に困っている様子は微塵もなかった。
話術も巧みだった。男は博識で、ありとあらゆる知識に通じ、どんな相手も退屈させることなく、ウィットに富んだ話術で哲学や歴史、科学などさまざまなテーマをよどみなく語った。
なかでも錬金術や化学に関する知識は抜きんでており、希代の漁色家で魔術師ともいわれるジャコモ・カサノヴァをはじめ、彼が金を錬成するところを目の前で見たと証言する者もいる。ルイ15世本人も、ダイヤモンドの傷を取り除いてもらったことがあるという。
語学も達者で、フランス語はもちろん、ドイツ語、英語、イタリア語などヨーロッパ主要国の言語、さらにはサンスクリット語やアラビア語、中国語など計12の言葉を話し、書物を一読しただけで内容を覚えてしまう驚異的な記憶力の持ち主でもあった。
男は、自らをサン・ジェルマン伯爵と称した。
同時代を生きたフランスの哲学者ヴォルテールは彼について、「決して死なず、すべてを知る男」と評している。これは本来皮肉を込めた言葉だったのだが、今ではサン・ジェルマン伯爵の神秘性を強調するために引用されることが多い。
彼は、1748年ごろパリに姿を見せると、すぐに国王ルイ15世やその愛人ポンパドゥール夫人に気に入られ、瞬く間にフランス社交界の寵児となった。しかし、だれも本当の素性や、それまでの詳しい経歴を知らなかった。
さらに、彼の素行やちょっとした会話の端々にも、常人ではないことを示唆する奇妙な点がいくつもあった。
まず、彼が飲み食いするところを、だれも見たことがなかった。晩餐に招かれると、彼は律儀に顔を出すのだが、食事中、食べ物はおろか飲み物さえいっさい口にせず、ただ延々と話しつづけるのだった。
社交の席で、バビロニア王ネブカドネザルや、イエスが水をワインに変えたというカナの婚礼の奇跡など、『聖書』にまつわる話題が出たとき、彼は「ネブカドネザルの時代に、私はバビロンの都を見たことがあります」だとか、「私もカナの婚礼の場にいました」とか口にするのだ。
あるとき、人々の前でだれも知らない楽曲を演奏したことがある。同席者たちが、これは何という曲か尋ねると、彼はこういった。
「じつは私も名前は知らないのです。ただ、この行進曲はアレキサンダー大王がバビロンに入城したとき、演奏されていたのです」
さらに、ベネチアで50年ほど前に伯爵を見たという人物もふたりばかり現れた。しかも彼らによれば、そのとき伯爵は現在と同じような年齢に見えたというのだ。
当然、伯爵は何千年も生きているのだとか、不死の秘薬エリクシルを持っているのだとかいう噂が生じた。しかし本人は、肝心な点になるとうまくはぐらかして答えようとしない。そこで、彼の従者に問いただした者がいる。
「お前の主人は、本当に何千年も生きているのか」
そう尋ねられると、件の従者は「自分はお仕えしてまだ300年しか経っていませんので、本当のことはわかりません」と返したという。
もちろん、彼のことをペテン師と疑う者もいたが、ルイ15世は彼をすっかり信用してしまい、当時戦争をしていたイギリスとの和平交渉を行う外交使節としてサン・ジェルマンを抜擢した。
だが、後に「7年戦争」と名づけられるこの戦争を指揮してきた第一大臣のショワズール公爵はこれを嫌い、プロシアのスパイの容疑で彼を逮捕しようとした。そこでサン・ジェルマン伯爵はまずイギリスに逃がれた。
その後、1762年ごろには、サン・ジェルマン伯爵はロシアにいた。
そこでは、ピョートル3世を廃位してエカテリーナ皇后を推戴する軍のクーデター計画が進行中であった。サン・ジェルマンもこの計画に加担し、クーデター首謀者でエカテリーナの愛人でもあったアレクセイ・グリゴリエヴィチ・オルロフ伯爵とも懇意になった。
その後は、パリに現れる前と同様、ヨーロッパ各地を転々としたようだ。
一時フランスに舞い戻り、ルイ16世と后マリー・アントワネットに危機が迫っていると警告したという逸話も残っている。
しかし、このときはあまり相手にされず、最終的に1779年、ヘッセン=カッセル方伯カールのもとに現れ、領内のエッカーンフェルデに住居を与えられた。そこでは錬金術の実験を行いながら晩年を過ごし、1784年2月27日に死亡したことになっている。
ところが、真のサン・ジェルマン伝説はこの後に始まる。
伯爵の弟子を自称するフランスのカード占い師エテイヤは、訃報を聞いたとき、彼は325歳になったばかりで、そんな若死にをするはずはないと述べたという。
死の翌年、1785年には、魔術師ともいわれるアレッサンドロ・ディ・カリオストロが、パリで行われたフリーメーソンの集会で彼を見たと証言した。
1790年ごろには、パリの革命広場で彼を見た者がいる。
中でも注目されたのが、1770年から1789年までマリー・アントワネットの侍女を務めたアデマール伯爵夫人ことガブリエル・ポーリーヌ・ブティリエ・ド・シャヴィニの証言である。彼女はその回想録に、1793年から1821年までの間、計6回サン・ジェルマン伯爵に会ったと書き残している。
彼女の手記はその死後、1836年に出版業者ラモント=ランゴン男爵エティエンヌ・レオンによって『マリー・アントワネットの思い出』と題して出版された。出版当初、この書物はフランス革命期の王宮の生活を語る貴重な資料としてもてはやされたが、後にエティエンヌ=レオンは実在する人物の名を騙って偽の回顧録を出版する常習犯だったと判明したことから、アデマール伯爵夫人の手記についても彼の捏造と考えられるようになった。
しかし、その後もサン・ジェルマン伯爵を見たという証言は絶えず、伝説は肥大を続けた。
このサン・ジェルマン伯爵の正体については、さまざまな憶測がなされている。
まず薔薇十字団に伝わる伝説では、彼は開祖クリスチャン・ローゼンクロイツの生まれ変わりだといわれている。
自らもサン・ジェルマン伯爵に会ったと主張する神智学協会創始者ヘレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキーによれば、彼はこの世界のどこかに隠棲し、人類を正しい方向に導くため活動している不死のマスターのひとりであり、かつてロジャー・ベーコンであり、またフランシス・ベーコンを名乗っていたと主張した。
夫マーク・プロフェットとともにユニバーサル・アンド・トリウムフ教会を設立したエリザベス・クレア・プロフィットは、サン・ジェルマンは世界に悪の前兆を知らせるためアトランティスから来た天使で、クリストファー・コロンブスその人でもあり、アメリカの独立戦争中にはジョージ・ワシントンにも忠告を与えたと主張した。
このように、サン・ジェルマンを不死の存在とみなす説のほかにも、じつはタイムトラベラーだったのではないかとの主張もある。時間旅行者であったとすれば、さまざまな時代に姿を見せた後、最終的にエッカーンフェルデに落ち着き、そこで本当に死亡したということになる。
タイムトラベラーとしては、2000年にネットの掲示板に登場して話題となったジョン・タイターが知られており、その後もネット上に自称タイムトラベラーが何人も登場しているが、この説を日本で最初に唱えたのは、前衛科学評論家を名乗っていた斎藤守弘のようだ。
斎藤はさらに、江戸時代に常陸国のはらやどり浜に現れたうつろ舟の蛮女こそサン・ジェルマン伯爵だったのではないかとも述べていた。
もちろん、サン・ジェルマンも結局は生身の普通の人間であるとして、その正体を探ろうとする試みもいくつかある。
まずは、ハンガリーの大貴族ラーコーツィ・フェレンツ2世の遺児だという説がある。これは、サン・ジェルマン本人がヘッセン=カッセル方伯カールに語ったものとされる。
ほかにも、17世紀の終わりか18世紀初頭にシュトラスブールに生まれたユダヤ人シモン・ウォルフとする説や、スペイン女王マリア・アンナ・フォン・プファルツ=ノイブルクとメルガル伯爵の隠し子、イタリアのサン・ジェルマーノの徴税吏の子とする説もある。しかし、いずれも決定的なものではないようだ。
結局、サン・ジェルマン伯爵の正体はいまだに謎に包まれており、21世紀になっても彼に会ったという者が続々と名乗りを挙げている。
●参考資料=『サイエンス・ノンフィクション』(斎藤守弘著/早川書房)、『ムー特別編集事典シリーズ③ ミステリー人物』(学研)
羽仁 礼
ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。
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