見上げるほどに大きくなる怪異は調べるほどに変わってしまう? 「次第高」「しだい坂」の謎
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最近、ネット上を飛びかう「ゴム人間」という言葉。古くからあるネタの焼き直しかと思いきや、その背後には近年急激に発達するAIやテクノロジーの影響が見え隠れする。それは「陰謀論」「都市伝説」ですませられるものなのか──?
ゴム人間。
ここ数年、ネット上で目にすることが多くなった言葉だ。「ゴム人間/有名人」というキーワードで検索すると、世界中の政治家やエンターテイナー、俳優などの写真が大量に表示される。ただ、表示されるのはすべて“偽物”だ。“ほとんどの人が疑いなく信じている本人”ではない。
ゴム人間を見分けるのはそれほど難しくないらしい。あごのラインや耳の形が不自然だったり、耳の穴がなかったりする。精巧なゴムマスクをかぶっているからだ。この程度のトリックで騙される人がいるとはとても思えないのだが、陰謀論や都市伝説のジャンルでは最新の強めのネタとして認識されている。
検索で出てくるのは画像だけではない。ゴムマスクで女優エマ・ワトソンになりすました女性が元通りの姿になるプロセスのYouTube映像も複数ある。
再生回数の合計が1000万回を超える一連の映像に限っていえば、近ごろさまざまな媒体で騒がれているディープフェイクを使ったものだろう。ただ、ディープフェイクという映像テクノロジーの存在と完成度について知っている人の絶対数はどのくらいだろうか。ネットリテラシー低めの人が見たら、ゴム人間現象というキャッチーな響きの話を現実として受け容れてしまうかもしれない。
ローテクな印象が否めないゴムマスクを使った変装の完成度については、蓄積された刷り込みのようなものがあると思う。たとえば、ハリウッドの大ヒット映画『ミッション・インポッシブル』シリーズでは、微妙な表情まで自然に表現できるゴムマスクが登場する。こうした背景から生まれ、ネット上で瞬く間に広がった都市伝説と陰謀論のマリアージュのような話は、トランプ前大統領が何かにつけて発していたフェイクニュースという言葉のイメージも盛り込みながら、広く知られることとなった。
筆者もネットで検索してみたが、ゴムマスクによるなりすましの実例が相当数見つかった。すべてに画像あるいは映像が提示されている。
なかでも印象深いのは、2019年にブラジルで起きた脱獄未遂事件だ。
リオデジャネイロの刑務所に収監されていた男性が、面会に来た19歳の娘に変装して脱獄を試みた。ゴムマスクをかぶっていることを刑務官に見破られ、元通りの姿になる過程を記録した映像は、エマ・ワトソンの映像の完成度とはほど遠い。
しかし、こうした実例があるからこそジャンル全体の話ひとつひとつが増殖し、ゴム人間の存在も真実として認識されていく。
少し前の時代に流行していた都市伝説に、「実は亡くなっていた芸能人」というジャンルがある。このジャンルの話に乗せ、最新の周辺情報を盛り込むことによって信憑性を増加させ、ネット上で拡散した。ゴム人間の話には、そんな側面もあると思うのだ。
一時期、安倍元首相死亡説も流れていた。“ポンコツ”で有名だった某大臣が、とある生放送番組に出演したときに発した「急に亡くなられちゃって…まあ……辞められちゃって」というひとことがきっかけになり、影武者やゴムマスク、そしてディープフェイクなどのキーワードを盛り込んだ話が一気に広がった。ゴム人間、あるいはゴムマスクというキーワードのインパクトが衰えることはない。そして話の内容は、昔ながらの陰謀論の要素を盛り込みながらさらにエスカレートする。
アメリカ大統領選挙史上最大の混乱の末ホワイトハウスの主となったジョー・バイデン氏には、いわゆる影武者が数人いるといわれている。影武者といっても、顔の造作はゴムマスクでどうにでもなるので、身長や体格で揃えておけば問題ないらしい。ただ、マスコミで流通している映像や画像の中には奇妙な点を指摘されているものがいくつか見つかる。特徴として挙げられるのは、耳の形や位置だ。
バイデン大統領の影武者の話が広がった背景には、CNBCというメディアで行われたインタビュー映像がある。
この映像を見る限り、確かに顔と首の色が違いすぎて不自然だ。検証動画も複数アップされており、ライトの位置によって明るい部分と暗い部分とのコントラストが際立ってしまったという結論が優勢になっている。
新大統領を主役に据えた話が生まれた理由として挙げられるのは、かなり昔から存在する根強い陰謀論の影響だ。
レプティリアン=ヒト型爬虫類あるいは爬虫類人という言葉を聞いたことがないだろうか。レプティリアン・ヒューマノイドといわれることもある。きわめてざっくりと定義するなら、地球上で人類に紛れながら共存しているエイリアンの一種だ。サウリアンやドラコニアン、リザードマン、スネークピープル、ディノサウロイドといった呼び方もある。その名の通り、爬虫類っぽい外見が特徴だ。
このレプティリアンが、世界各国の政府にもぐり込み、実質的に世界を動かしているというのだ。英国王室もアメリカの歴代大統領もレプティリアンで、世界を支配するエリート層はレプティリアンで占められている。最近では各国有名企業のトップもほとんどがレプティリアンだ。もちろん、素のままで人前に出ることはできないので、精巧なゴムマスクをかぶることになる。
20年ほど前のアメリカのタブロイド紙には、トカゲのような目をした当時のアメリカ大統領や、気を抜いた瞬間に“長いスプリットタン”を思わず出してしまったイギリス王族の写真が毎週のように掲載されていた。
コロナ禍の今は、テドロス・アダノムWHO事務局長やアメリカ国立アレルギー・感染症研究所所長のアンソニー・ファウチ博士もレプティリアンであり、それゆえゴム人間であるという噂も立っている。彼らはごく最近“ディープステイト”の一部として認識されるようになった。レプティリアンという昔からある陰謀論に、闇の支配層として旬な響きがあるディープステイトを組み合わせ、さらにコロナやゴムマスクといった新しい要素を盛り込んだ図式の話というとらえ方で間違いないだろう。
ここまでの話の主役は、極めて精巧なゴムマスクだ。それに加え、ごく普通の人間が宿す心理的要因が現象全体に深く関与している可能性を指摘する意見もある。精巧なゴムマスクが与える顔面知覚の実証実験を行ったイギリス、ヨーク大学の心理学者ロブ・ジェンキンス博士は次のように語っている。
「精巧なゴムマスクの出現によって、顔面知覚とアイデンティティのつながりがあやふやになりつつあります。かつての時代は完全にリンクしていたふたつの要素が、そうではなくなりつつあるという意味です。こうした事実がありながら、ほとんどの人はこれまで通りの図式、すなわち顔面知覚とアイデンティティは唯一無二のつながりであると信じて疑いません。外見はいまだに最大の判断基準なのです」
ごく最近、ブルース・ウィリスが出演したロシアの通信会社のCMが話題になった。ハリウッドスターがロシアのCMに出るのが珍しかったからではない。おそらくは史上初の本人公認のディープフェイク映像だったからだ。実際の撮影はブルース・ウィリスと同じような背格好のロシア人俳優を使って行われ、編集段階で顔が差し替えられた。
ジェンキンス博士は続ける。
「社会的動物である人間は、外見から得られる情報を最大限に活かそうとします。知っている顔ならば、自分が持っている情報をすぐに結びつけられるし、相手が精巧なマスクをかぶっているかもしれないと疑う人はまずいないでしょう。私は、こうした知覚のメカニズムを明らかにするための実験を行いました」
第一の方法は、本物の人間の顔の写真とゴムマスクをかぶっている人の写真を並べ、モニター上で一瞬だけ見せる。こうしたやり方は、たとえばすれ違う人がゴムマスクをかぶっていることに気づけるかのシミュレーションになる。この方法で行われた実験の被験者による正解率はかなり低かった。
同じ被験者グループに対し、好きなだけ時間を使ってゴムマスクをかぶっている人の写真を選び出すよう求めた方法においては、かなり時間をかけて熟考した後も正解できない人がいることがわかった。顔面知覚能力に訴えるリアリティが100パーセントではなくても、ゴムマスクでだませることが明らかになったわけだ。こうした科学的事実がある限り、レプティリアンであろうとドラコニアンであろうと、あるいはロシアの企業であろうと、本能に近い部分で人間に刷り込まれている顔面知覚能力をうまく使おうとする思惑が生まれても不思議はない。
相手が“自分が思っている通り”の人であるとする判断基準は、それぞれの思い込みでしかない。相手が偽物であっても、本人であると信じてしまった瞬間にその人物が本人になる。こうした状況は、自分とだれかという二者間だけで生まれるものではない。
ごく最近、予言漫画の作者を名乗るアカウントから発信する人物が“本物”と認識され、偽情報が拡散した事件があった。また、ネットで知り合った人間に脅迫され、自傷行為や自殺を試みてしまう“モモ・チャレンジ”や“ブルーホエール・チャレンジ”が話題になったこともある。こうした現象の背景にある心理も、ゴム人間と無関係ではないように感じられる。
インターネットというスクリーンあるいはバッファを通すと、リアルな空間では信じ難いことも容易に受け入れられるようになるのかもしれない。
物理的に対面することなく情報をやりとりするコミュニケーションのあり方はSNSの特性にほかならないし、ここ2年間で、リアル対面型コミュニケーションの代表格だったはずの会議もオンラインで行えるという概念が定着してしまった。
ちょっと想像していただきたい。自分はAさんという人と話していると確信していても、画面の向こうにいるのはAさんの精巧なゴムマスクをかぶったほかのだれかかもしれない。こうした状況はだれにでも起こり得るし、誰でも起こすことができるのだ。オンラインミーティングソフトやアプリの機能も充実していて、さまざまな効果を実現することができる。ライブ配信アプリでも、本当より肌を白く見せたり、目をちょっとだけ大きくしたりすることができる。
現実的に考えれば、誰かになりすますためにゴムマスクさえ必要ではなくなってしまうときが遅かれ早かれくるだろう。いや、そうした時代はもう始まっていると思ったほうがいいのかもしれない。
たとえば国際ロマンス詐欺では、ゴムマスク以上ディープフェイク以下の技術が実用化されている。詐欺師は自分のプロモーション用の映像を作ったり、ビデオチャットに使ったりするために用いる。
マッチングアプリなどで知り合った相手から顔写真を求められても、絶対に送ってはいけない。1枚の画像から“起きなかったこと”の1シーンを作り出されることもある。話は偽画像では終わらない。画像から起こしたデータを映像に転用されてしまう可能性もあるのだ。実際には起こらなかったことをリベンジポルノ的なテイストで作った画像や映像をアップすることもそれほど難しくはなくなっているのだ。
ただ、その一方で事実として記しておくべき要素もある。
「ニューズウィーク」電子版の2021年5月17日付に、国防総省が新たに創設した特殊部隊についての記事が掲載されている。Secret UndercoverArmy=極秘部隊という文字が目を惹く。
ウィリアム・アーキンというジャーナリストが書いたこの記事は、国防総省内部でも限られた人間しか存在を知らない極秘部隊についてのものだ。極秘とはいえ、規模は6万人とかなり大きい。防衛事務局の組織図に明記されているような性質の部隊ではなく、120にのぼる契約企業に分類され、世界中いつでもどこでも自由にチームを組む形で機能するようになっている。
本当に興味深いのは、以下の部分だ。
〈ペンタゴンの内部には人相や指紋を変化させるテクノロジーに特化したタスクチームが組織されている。この種のテクノロジーを実現させることで、高度なバイオメトリクスを盛り込んだセキュリティーシステムも突破することも可能になった〉
シグナチュア・リダクションと呼ばれるこの種のテクノロジーの研究開発プロジェクトが開始されたのは2013年。現在、かなりの精度に達していることが容易に想像できる。高度なバイオメトリクスを盛り込んだセキュリティーシステムには、虹彩や静脈を使って解除するデジタルロックなども含まれるだろう。
となれば、このテクノロジーの完成度は単に人相を似せるといったレベルの話ではなくなっていても不思議ではない。身長や骨格は変えられないだろうが、たとえば筆者がトム・クルーズ“本人”になってしまうことも理論上は可能なのだ。
興味深い事実をもうひとつ挙げておきたい。
「This Person Does Not Exist」(リンク)あるいは「Generated Photos」(リンク)というサイトをご存じだろうか。
いずれも“存在しない人”のポートレイトを大量にストックしていて、気に入ったものが見つからなければ創り出すこともできる。AIのディープラーニング機能を使って作られた画像は、どれも“どこかで見た人”という表現がぴったりだ。こうしたテクノロジーも、国防総省の新設極秘部隊と無関係ではないはずだ。
誤解を恐れずにいってしまうなら、ゴム人間の話はある程度まで事実だ。現象をとりまくテクノロジーに関する話にも事実が含まれている。そしておそらく、国防総省が新設した特殊部隊は、噂になっているテクノロジーを実用化しているだろう。実態が噂されているレベルをはるかにしのいでいても不思議はない。
都市伝説には、一抹の事実が必ず盛り込まれている。それによって“信じられる”話となり、じわじわと広がっていく。
そして広がっていく過程において、事実として認識される部分が大きくなっていく。長い間生き残りつづけてきたレプティリアンの話に“ゴム人間”というインパクトが強いキーワードが組み合わされたら、流行しないわけがないのだ。
しかも背景には、新設された極秘部隊という事実がある。こうした要素を考え合わせると、「ゴム人間」なる都市伝説も、即座に完全否定できる種類の話ではないような気がするのだが……
ディープフェイクの中には実物と見分けがつかないレベルのものも存在し、要人のなりすまし映像が国際政治を揺るがす可能性すら考えられる。「ゴム人間」と一笑に付してはいられない時代が訪れつつあるのかもしれない。
(2021年12月14日記事を再掲載)
宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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