「虚舟」新資料発見!! 漂着現場・常陸国の鹿島神宮ゆかりの鮮明な「兎園小説」/鹿角崇彦
近年、新発見の続く「虚舟」関連史料。〝ご当地〟茨城県で開催された展示がきっかけで、また新たな図版の存在が知られることとなった!
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国立公文書館に「UFOミステリーグッズ」が登場!?じつは公文書館には、謎めいた古文書がたっぷり秘蔵されていた!
うつろ舟漂着事件といえば、「ほんとうにあった江戸のUFOミステリー」としてオカルト・怪事件ファンにはおなじみの話。
簡単に説明すると、うつろ舟事件とは今からざっと200年ほど前、常陸国(いまの茨城県)の海岸に奇妙な形状の「船」が流れ着き、そのなかにこれまた奇妙な服装をしたひとりの女が乗っていたーーというもの。
話自体はほぼこれだけでわりとシンプルなのだが、その船と女の、あまりにも奇妙で謎すぎる姿が江戸の好事家(こうずか)たちに注目され、噂が拡散していった。そして現代になり、そのビジュアルがどうみてもUFOだということで再び注目を集めているのだ。「うつろ舟」なんて初耳という人でも、江戸時代に描かれたその図をみたら「絶対UFOじゃん」と思うに違いない。
それほどインパクトがあるうつろ舟なのだが……なんと、そのうつろ舟図がこのたび、国立公文書館の公式グッズになったという驚きのニュースが飛び込んできた。
国立公文書館といえば、日本の公文書や歴史的な貴重資料を保存・管理する独立行政法人。そんな「おカタい」施設からうつろ舟グッズ登場とは、一体どういうことなのか? 最近では国会でも超党派のUFO議連が発足するという動きがあったが、もしかして、これは国立公文書館からのなんらかのメッセージなのか……??
なにはともあれ、その現物をみてみよう。

グッズ化されたのは、国立公文書館が所蔵する『弘賢随筆(ひろかたずいひつ)』という江戸時代の史料。そこに描かれたうつろ舟図版がクリアファイルになったのだ。
ファイルは内ポケットのついたA5サイズで、外側にはうつろ舟とその中に乗っていた「蛮女(ばんじょ)」の図がプリントされている。
これだけでも図のインパクトが伝わる十分すぎる仕様だが、このファイルのすごいのは、内ポケット側にうつろ舟事件の顛末を記した文章が印刷されているところ。図だけでなくしっかり本文も、というあたりさすがの国立公文書館クオリティだ。

では、なぜこの謎めいたうつろ舟図がグッズ化に至ったのか? これはもう直接聞いてみるしかない。国立公文書館をたずね、広報係の担当者さんにお話をうかがってみた。
実は、国立公文書館では毎年、館所蔵の資料をもとにした新商品を数点ずつリリースしているのだそう。
国立公文書館(以下公文書館)は行政系の公文書のほかに、江戸幕府や明治政府の蔵書を引き継いだ「内閣文庫」と呼ばれる古文書系資料の保存・管理も行なっているのだが、その50万冊(!)という膨大なラインナップのなかから館のPRになりそうなものを選び、グッズ化しているのだという。
これまでは主に教科書にでてくるような有名な資料やきれいな植物の絵などを選んでいたのだが、今年度の新作をつくるにあたって「なにかいいネタないですか?」と職員アンケートをとったところ、うつろ舟図はどうだろうかとの提案が。
公文書館の所蔵資料としてもやや“変わり種”の部類になるのだが、たしかに利用者に「こういうものもあるんだ」と思ってもらえるかもしれない、ということでこの案が採用され、グッズ化が実現。つまり、うつろ舟ファイルは、公文書館としてもチャレンジングな実験企画だったのだ!
日々オカルト情報に触れていると忘れてしまいそうになるが、一般的には「うつろ舟図」もまだまだ知名度は低いのだ。そうだった……。

この「うつろ舟図」は、江戸時代の幕臣・屋代弘賢(やしろひろかた)が残した『弘賢随筆』(ひろかたずいひつ)という史料に載っているもの。
弘賢は、月に一度、友人知人を集めて持ち寄った文章を披露する「三五会」という会を主宰していたのだが、そのとき提出されたさまざまな原稿をまとめたのが『弘賢随筆』になる。ということは、このうつろ舟図によって、当時この集会に参加した誰かが「うつろ舟事件」の話をききつけ、会で披露したらしいということがわかってくる。
つまり、見た目のインパクトだけでなく、江戸時代の文化人たちの交流やネットワークの一端を知ることができるという点でも、この図には大きな意味がある。“変わり種”と思いきや、まさに公文書館グッズになるにふさわしい資料だったのだ。
そんな『弘賢随筆』からは実はもう1点、今年度の新グッズが採用されている。それがこちら。
越中立山に出現したという妖怪・くたべの図だ。

くたべは、コロナ禍の頃に大ブームになったアマビエと同じく、疫病の流行を予言し、自分の姿を描いた絵をみれば病気から逃れられると伝えたという。近年ではこれらの妖怪はまとめて「予言獣」とも呼ばれるのだが、うつろ舟と予言獣の新グッズが同時発売だなんて、公文書館、やっぱりかなり攻めている。
公文書館では、この“チャレンジグッズ”が好評ならば、今後の続編の制作も考えているそう。年明けの発売以来うつろ舟クリアファイルの売り上げは好調とのことで心強いが、売り上げもさることながら、広報係ではSNSでの反応にも注目しているそうだ。ふしぎ古文書グッズのシリーズ化のためにも、この方面の話題が大好きな同志はぜひ、国立公文書館SNSも盛り上げていこう。
うつろ舟ファイルは400円、くたべ絵葉書は150円で、どちらも国立公文書館の窓口で購入できる。また郵送販売も可能。

🛸ダブルポケットファイル(うつろ舟の蛮女 A5サイズ)🛸
— 国立公文書館 (@JPNatArchives) January 8, 2026
享和3年(1803)に常陸国(現在の茨城県)へ奇妙な船が漂着、箱を持った女性が乗っていた――。#曲亭馬琴 の書物や、当館所蔵の国学者・屋代弘賢による記録でも知られる奇談です。
『弘賢随筆』より、図も本文もたっぷり載せています。 https://t.co/vFdEa4qxse pic.twitter.com/6DrHi83LFS
さて、今年度はうつろ舟とくたべが選ばれたが、公文書館では企画展のための調査などもあって、所蔵する「ミステリー系」資料は割と把握しているそう。
不思議・妖怪好きな読者に何かオススメの資料はありますか? と質問したところ、ふしぎ古文書シリーズの続編候補に有力視しているという逸品を教えていただいた。それが、

古代中国の神話や地理が膨大な挿絵つきでまとめられた、『山海経』(せんがいきょう)だ!
たしかに山海経ならば、無限にグッズ化候補キャラクターが眠っていそう。古代中国謎生物グッズ……これはぜひとも続編を実現させていただきたい。

そしてさらにもうひとつ、今はまだそこまで知られていない “ネクストブレイク”候補としてオススメしてもらったのが『日東本草図纂』という資料だ。国立公文書館デジタルアーカイブでも閲覧できるようになっているのだが、その第12巻をクリックしてみると……

妖怪図鑑でもみたことのないような、摩訶不思議な妖怪たちの絵がズラっとならんでいる!
なんと明治時代には、あの柳田國男も、この『日東本草図纂』に興味を示したという逸話があるのだとか。これまであまり取りあげられたことがないので、ぜひ専門家に解き明かしてほしいとのこと。これは調べがいがありそう。


現在、50万冊にもなる内閣文庫の貴重書は順次デジタル化され、国立公文書館デジタルアーカイブで誰でも閲覧できるようになっている。現状では約70%がデジタル化済みなのだが、なにしろ50万冊なので、単純計算でまだ10万冊以上が書庫に眠っていることになる。もしかしたらこのなかに、まだ誰にも知られていない江戸のミステリー情報が息を潜めているかもしれないのだ。
国立公文書館では、重要文化財に指定されているものなどを除いて、基本的に請求すれば誰でも実際に資料の現物を触って調べることができる。これは他の博物館などとは違う国立公文書館の大きな特徴なのだが、それはつまり、誰でもうつろ舟図のような資料の第一発見者になれるかもしれないということだ。
「公文書館の目的は、資料を残すことです。きちんと残すことで、次の時代の人たちも文書を使うことができる。ぜひ実際に公文書館を訪れて「残っているんだ」ということを体験してほしいですし、残すことの大切さにも思いをいたしてもらえたらうれしいです」と、広報担当の新井さん。
最近では、毎年春と秋に行われる皇居乾通りの通り抜けにあわせて敷地内にキッチンカーを呼ぶなど、PRにも力を入れているそう。また現在は、午年にちなんで馬にゆかりの資料をあつめた企画展「馬とまつりごと―神事と武芸からみる馬の日本史―」が開催中。
ちょっと敷居が高いイメージもある国立公文書館だが、クリアファイルを買いがてら、この機会にぜひ足を運んでみてはいかがだろう。


webムー編集部
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