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近年続々と発見される「虚舟」の図。新たに発見された史料には、養蚕との関連性を思わせる特徴があった!
江戸時代、常陸国の海岸に奇妙な形状の船が流れ着き、なかにはどこの国の者ともしれない女がひとり乗り込んでいた……。「江戸のUFO目撃情報」としてあまりに有名な、虚舟漂着事件。当時も大きな話題を呼び、滝沢馬琴の『兎園小説』をはじめ数多くの史料に残されていることは本誌でもたびたび特集しているが、最近また新たな史料が発見されたことが「茨城新聞」で報じられた。
新史料は、新潟県の上越市立高田図書館が所蔵する「異聞雑書」。同市公文書センター公式サイトによると、高田藩初代藩主榊原政永のもとで藩財政立て直しを主導した鈴木甘井という武士が、自身が見聞きしたものごとをまとめた雑記であるという。
その「異聞雑書」にみられるのがこちらの図だ。
虚舟は馴染みのあるUFO型だが、搭乗者、いわゆる「蛮女」のほうは既知のどのパターンとも微妙に異なる描かれ方をしている。
まずは、あらためて書かれている文章を確認してみよう。おおまかに現代語訳すると、
この亥の年(享和3年)3月26日、常陸国の原舎ノ浜というところに異国船が漂着した。なかには二十歳ばかりの美女がひとり乗っており、背の高さは5尺ほど、色は青白く、眉毛と髪が赤黒く、歯は白く細かい。
2尺四方ほどの箱を持っていて、大切なものが入っているのか抱えていて手放さない……以降、船中にあの謎の文字が多くみられ、敷物のようなものがあるといった船内の様子が箇条書きされている。
珍しいのは、末尾に注釈のように「このことは偽りであると聞いた」との伝聞が記されている点だ。甘井はそれを越後国の別の藩の藩士から聞いたようだが、事件についてさまざまな情報が錯綜していた様子を伝える貴重な証言であるともいえるだろう。
また、この史料の特徴的な点をピックアップするならば、
・事件の日付は「亥三月廿六日」
・女の容姿について「歯が白く細かい」と特記
・年齢を20歳と推定している
・服のボタンを「子リモノ」(練り物)と表現している
といったあたりがあげられるだろう。虚舟事件の日付は史料によってかなり差があるのだが、「三月二十六日」としているものは、以前の記事(月刊ムー2021年6月号初出)で紹介した、国立国会図書館所蔵の新発見史料と一致する。また、20歳との推定、わざわざ歯について触れている点、練り物という表現もふたつの史料で一致する。
さらに図に注目しても、蛮女が白い布、ベールをかぶったように描かれたものは多くの史料のなかでもこの2点のみと、これまたよく似ている。両史料にはかなり関連性があるといえるのではないだろうか。
また、虚舟研究の第一人者である田中嘉津夫(たなかかつお)岐阜大学名誉教授は、「異聞雑書」の図版について、白いベールの様子などが養蚕をシンボリックに表現しているものだと推定しているという。
養蚕の女神である金色姫は、天竺(インド)から虚舟に乗せられて常陸の浜に流れ着き、当地で養蚕の技術を伝えたとされる神で、茨城県を中心に各地に伝説があり、虚舟漂着現場と推定される神栖市の寺社にも祀られている。
江戸時代に描かれた金色姫伝説の図のなかには、まさに金色姫が乗る虚舟を繭玉型に描いたものもあり、あらためて関連性が注目される。
虚舟は、異国船なのか、養蚕のメタファーなのか、それともやはりUFOなのか。
詳細は不明ながら、江戸時代には船首と尾翼をそなえた飛行艇のような、よりUFO的にもみえる虚舟図が描かれていた例も確認することができる。真実が明らかになるまでにはまだ時間が必要そうだが、今後、さらなる新史料の発見にも期待したい。
鹿角崇彦
古文献リサーチ系ライター。天皇陵からローカルな皇族伝説、天皇が登場するマンガ作品まで天皇にまつわることを全方位的に探求する「ミサンザイ」代表。
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