異端の超古代文献「古史古伝」の数々/世界ミステリー入門
現存する日本最古の歴史書といわれる『古事記』。ところが、それよりも古いとされる歴史書が存在する。それが「古史古伝」と総称される史書群だ。漢字伝来以前の書といわれ、アカデミズムから「偽書」扱いされている
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江戸の一大ミステリー「虚舟(うつろぶね)事件」。フィクション説も根強かったが、研究により漂着地が茨城県の舎利浜(しゃりはま)であることが判明。今回、その説を補強する未確認史料の存在が明らかになった!
江戸時代、常陸国の海岸に奇妙な舟が流れ着き、なかから不思議な装束の女が現れた……。滝沢馬琴をも魅了した江戸の一大ミステリー「虚舟事件」。話の突飛さとUFOを思わせる奇抜な絵図からフィクション説も根強かったが、虚舟研究の第一人者、田中嘉津夫氏により漂着地が茨木県の舎利浜だと特定され、事実だった可能性が一段と高まっている。
その経緯や田中氏への取材は「ムー」2015年8月号掲載の並木伸一郎氏による特集記事に詳しいが、今回、同記事にも言及のなかった史料の存在が明らかになった。既知の図版のどれとも異なり、新発見の可能性もあるものだ。
その名は『新古雑記』。国立国会図書館所蔵の古典籍で、江戸後期、西暦1800年前後のできごとを手広くまとめた文字通りの雑記帳だ。虚舟の記述はそのうち3ページにわたって書かれており、現代語訳は以下の通り。
「この亥の3月26日昼、常陸国厚舎ケ浜というところに異国船が漂着したので漁船が多く出て引き揚げた。すると20歳ほどの美しい婦人がひとりあり、身長は150センチ、血色がなく青白く、眉、髪の毛は赤黒く、歯は白く細かい。婦人は60センチ四方ほどの箱を大切に持って手放さず、船内には奇妙な文字が多くあった。また柔らかな敷物のようなものが2枚、菓子様のものと肉を練ったような食べ物があった。
水が2斗ばかり入った壺があり、茶碗のようなものがひとつ。これには美
しい模様があり、石製にも見える。」
内容はおおむねこれまで知られたものと合致するが、事件の年月日と地名
がはっきり書かれているのは特徴的だ。「亥」とは亥年の享和3年のことで、日付は三月廿六日、または廿三日(図の翻刻参照)。
そして注目の地名は「常陸国厚舎ヶ浜」とある。しかし横に朱字で注記されているように、「厚」は「原」の誤記だろう。同様に「ヶ」も「り」の誤記と推測すると「常陸国原舎り浜」となり、これは「常陸原 舎利浜」を指すと考えて間違いない。おそらく原史料が多く書き写されるなかで、このようにくずし字を写し誤ったり、「常陸原」が「常陸国」とされたりしたことが地名に混乱を生じさせたのだろう。
しかし何といっても目を引くのは「虚舟の蛮女」として知られる女の絵だ。名作アニメにでも登場しそうな「ヨーロッパのご婦人」といった強烈なビジュアルは、既知のどの図とも異なる。蛮女の特徴である「仮髻」も、ここでは日よけのスカーフのようだ。
もしこれが原本に近いものだったなら、これまで知られた蛮女はかなり脚色が加えられていたことになるが……逆にこの絵のほうこそが、なんらかの意図でもとの絵から大幅に補正されてしまった、とも考えられる。その他、女の所持した「茶碗」の絵があること、平底に描かれた虚舟の形態などを見比べると、この史料は田中氏が2014年に発見した「伴家文書」に最も近いといえるだろう。
残念ながら『新古雑記』がいつ、だれによって書かれたものなのか現時点では特定できていない。数か所に加えられた朱字も、著者自身の加筆なのか別人によるものなのか断定はできない。しかしそこには図版の来歴に関わる「小笠原越中守様知行所ヨリ訴出し写」との重要な情報も記されていて見逃せない。
また蔵書印の情報から、『新古雑記』は秋山恒太郎(不羈斎)、大島雅太郎という明治〜戦前期のふたりの著名な蔵書家の手を経て昭和22年に国立国会図書館に渡ったものであることがわかる。内容をさらに細かく読み解けば、虚舟に関わる新事実が浮上してくるかもしれない。
鹿角崇彦
古文献リサーチ系ライター。天皇陵からローカルな皇族伝説、天皇が登場するマンガ作品まで天皇にまつわることを全方位的に探求する「ミサンザイ」代表。
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