制度の空白に魔が入り込む…「天皇を覚醒させよ」/ムー民のためのブックガイド

文=星野太朗

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    「ムー」本誌の隠れ人気記事、ブックインフォメーションをウェブで公開。編集部が選定した新刊書籍情報をお届けします。

    天皇を覚醒させよ

    若杉良作 著

    天皇制の空白にあるタブーに挑むノンフィクション

     一見何とも剣呑な標題であるが、その檄を飛ばしているのは当然ながら著者自身ではなく、本書に登場する有象無象の奇人のひとりである。
     著者によれば、天皇なる存在を天皇たらしめているものは、ひとえに「宮中祭祀」であり、それはいいかえれば「霊との対話」である。
     すなわち天皇とは「見えざる世界に支えられている存在」に他ならないのだ。それゆえに、そこには「神秘的なもの、不可解なものを許容する余地が生まれ、善意悪意を問わず、そこに付け込む者たちが現れる」。

     本書は、近代の宮中を舞台に繰り広げられた、知られざる霊的暗闘に光を当て、あますところなく描き出した渾身のノンフィクション。宮中祭祀への潜入を図った「魔女」、宮中に最接近した「手かざし医師」、そして本朝を侵略する魔物との対決を天皇に促した「エリート軍人」等々、近代史の暗部に暗躍した魔人たちの謀略の数々が、赤裸々に活写される。

     著者・若杉良作氏は今は亡き総合月刊誌「新潮45」の最後の編集長であるが、「若き日のほんの一時期」に本誌月刊「ムー」の編集にも携わっていたという。なるほど氏の怜悧な霊的感受性は、そのような数奇な経歴にも呼応するものであったのか。
     なお、当然ながら戦前の資料などは、原文のママの文語体で、旧仮名遣いで引用されている。いやしくも、一端の読書家を自認する人にとっては、それもまたひとつの知的愉悦であろう。

    講談社 2200円(税込)

    (月刊ムー 2025年9月号掲載)

    星野太朗

    書評家、神秘思想研究家。ムーの新刊ガイドを担当する。

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