阿蘇山南麓「清水滝」に広がる異景! 神仏霊が混合した未知の神秘空間へ/小嶋独観
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月刊「ムー」でもおなじみの神仏探偵であり、神木探偵の本田不二雄氏が書く神木の世界。今回は、石徹白のスギ(岐阜県郡上市)です。
郡上八幡IC から国道158 号を長良川をさかのぼるように北上し、長良川鉄道終点の北濃を経て、石徹白(いとしろ)の地を目指す。「白山歴史街道」とも呼ばれる県道314 号は、もとは美濃禅定道(みのぜんじょうどう)といい、聖なる山・白山へと至る登拝道だった。やがて名勝「阿弥陀ヶ滝」の看板あたりから急な上り坂となり、一気に標高を450 メートルほど上げたのち、峠を境に車は下り落ちるように目的地に運ばれた。 隠れ里とはこんな場所をいうのだろう。福井県境に近い奥美濃の小盆地。ここは古くから白山中居(ちゅうきょ)神社の神官を頂点とする社家(しゃけ)・神人(じにん)の集落で、江戸時代も神領として藩の支配も受けず、租税を免除されていたらしい。
話を伺った地元のお二方は、ともに石徹白さんという苗字だった。
「全国から、年に一度や二度必ずここに来るという人がおられる。一般の観光じゃありえんことです。で、何でと聞くと『そりゃ神域のスギですよ』とおっしゃる。そして、『これだけの巨木が集まっているところはない』『神さんがここを目指して降りて来たのがよくわかる』と」(公民館長の石徹白秀也氏)
おっしゃるとおりだった。集落の最奥に白山中居神社の銅鳥居があり、くぐると参道の両脇にドン、ドンと巨杉がそそり立っていた。神域の手前には宮川が流れており、「布橋」なる橋が架かっている。かつては巨大な御柱(丸太)2本を渡しただけの橋だったといい、祭礼時には白布が敷かれていたという。要するにここから先は神の世界なのだ。
神域に上ると、目の前に古代があった。本殿脇の「磐境(いわさか)」(巨岩が祀られた斎場)は、社殿以前の原始の祭祀形態をとどめたもので、今も例祭がここで執り行われる。そしてひときわ高く築かれた本殿。境内には樹齢数百年のスギが150本余り林立しているというが、本殿の周囲にはとりわけ密集している。御祭神は“杉木立の中に居り”であった。
このエリアのラスボスというべき「石徹白の大杉」は、さらにその奥、白山連峰に発する石徹白川をク車で25分ほどさかのぼった場所にあった。昭和の時代に敷かれた林道の脇に駐車場があり、そこから420段の石段が延びている。現在はここが白山登山口だが、上り切ったその場所は、中居神社から続く古道(美濃禅定道)につながる登山道でもあるらしい。
息を切らし、二度三度足を休めてそこに辿りつくと、見たことのない存在があらわれた。もはや木というより巨大な壁のよう。凄まじい樹肌の風合いは、老齢を極め、時代を超越したものだけが醸し出すナニモノかだろう。
伝承では、聖地白山を開いた泰澄大師(682~767)が立てた杖が生長したものという。約1300年前のことだ。ところが、「岐阜大学の先生の推定によれば、樹齢は1800年から2000年になるそうです」と白山中居神社の石徹白隼人禰宜(ねぎ)。伝承よりさらにさかのぼるのは確からしい。とすれば、奈良時代はじめに泰澄もこのスギを見上げていたかもしれない。
隼人禰宜によれば、大杉の場所にはかつて長瀧(ちょうりゅう)寺(長滝-ながたき-白山神社)を起点とする美濃禅定道の白山二十八宿のひとつ「今清水」があり、ニニギ命を祀る今清水社があったという。大杉の奥には今も湧水(熊清水ともいう)が出ており、かつての山伏行者らもここで大杉を拝してその神気に浴し、霊水をいただいて鋭気を養ったにちがいない。
年配の女性二人組の先客が敷物に座ってずっと大杉を眺めていた。「絵に描くために写真を撮ろうと思うのだけど、こちら側(※最下画像1を参照)は何だか可哀想で……」。確かに、独特の白い木肌は幹の枯死にほかならず、生存部分は全幹周囲の30%にすぎないらしい。
だが、だからこそ、わざわざ足を運んででもこの目に焼き付けたい。気が遠くなるほどの時間軸の末尾に同座し、大いなる生命と結縁したい。石徹白の大杉は、そんな秘めやかな願いに応えるように今も大地に踏ん張っているのだ。
DATA
国指定特別天然記念物、推定樹齢1800 年余り、幹周り13.5m、樹高21.5m
住 所:岐阜県郡上市白鳥町石徹白
アクセス:白山中居神社までは東海北陸自動車道「郡上八幡IC」より車で50 分、
「石徹白のスギ」まではさらに25 分進み、徒歩約15 分。駐車場あり。
メ モ:石徹白地区にある石徹白大師堂には、奥州藤原氏の藤原秀衡が奉納した美仏で、
かつて白山中居神社に祀られていた虚空蔵菩薩(国重文)を奉安。
拝観は3日以上前から要予約。
立ち寄りスポット
長滝白山神社(郡上市白鳥町長瀧)、阿弥陀ヶ滝(同白鳥町前谷)
地球の歩き方「W24 日本の凄い神木 – 全都道府県250柱のヌシとそれを守る人に会いに行く」本田不二雄(著)より。
https://hon.gakken.jp/book/2080183300
本田不二雄
ノンフィクションライター、神仏探偵あるいは神木探偵の異名でも知られる。神社や仏像など、日本の神仏世界の魅力を伝える書籍・雑誌の編集制作に携わる。
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