タイムパラドックスを絶妙に無視しない日常系SF映画「タイムマシンガール」1月25日公開!

文=杉浦みな子

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    びっくりすると少しだけ過去にタイムスリップしてしまう特異体質の主人公が奔走する、不意打ちタイムスリップSFストーリー。

    我々のタイムスリップ欲を満たす新たな日常系SF

     現実の時間・空間から、過去や未来の世界に移動する現象「タイムスリップ」。 
     オカルト界隈では、未来からやってきた人物が定期的にニュースになるのもあって非常に身近な話題だが、一般社会で真面目にこの手の話題を出すと“変わった人”扱いされてしまって厳しいことになるから気をつけたい。
     悲しいかな、タイムスリップという事象について楽しむなら、今のところはSF(サイエンス・フィクション)で満喫するのが平和……というのが現実であろう。 

     そんな我々がよくお世話になっているのが、映画の世界だ。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985年)に代表される該当の名作は枚挙にいとまがなく、SF映画は常に我々のタイムスリップ欲を満たしてくれる。 

     そんな「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の第一作公開から実に40年を迎えた2025年、タイムスリップものの新たな注目作として登場したのが、「タイムマシンガール」(監督:木場明義)である。2025年1月25日(土)から、池袋シネマ・ロサほか全国で順次公開。 

     この「タイムマシンガール」、タイムスリップものの基本に立ち返り、タイムパラドックスを無視せずしっかり向き合う良作となっているのでご紹介したい。 

    ©2025 イナズマ社

    超能力としてのタイムスリップ 

     本作は、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のように思いっきり過去と未来と行き来するのではなく、数分〜数十分の時間を巻き戻す“ちょいタイムスリップ”のSF映画だ。「生活空間の中で、リアルに想像できる範囲の時間が巻き戻る」ってのが魅力だったりする。 

     まずは映画公式のあらすじをご紹介しよう。 

    <あらすじ> 
     プロレスとソロ活が大好きな主人公の星野可子(葵うたの)は、とある事件をきっかけにビックリすると少しだけタイムスリップしてしまうという体質になってしまう。そのためなるべく他人と関わらないようにしていたが、ふとしたきっかけで恋の始まりが訪れるのであった。 
     しかし、おっちょこちょいな山本千鶴(高鶴桃羽)に驚かされ、意図せず時間が巻き戻り、そのチャンスもなかったことになってしまう。だが特に良くなかった可子と千鶴の仲は次第に近づいていくのだった。 
     可子の能力を知った千鶴はギャンブルでお金を稼ごうと提案し、成功するものの、時空を調査する公務員の安野時夫(立川志の太郎)や、タイムマシンの実験が失敗して2人に増えてしまった発明家の井手泰人(木ノ本嶺浩)に追われ、タイムスリップすることにより世界が崩壊する可能性を指摘される。悩んだ可子は自分の体質を治そうと奔走するが…。 

    ©2025 イナズマ社

     作品としては、タイムスリップという設定を軸にメインキャストの女性2人が友情を深めていく日常系SFコメディで、視聴感は爽やか。主人公の恋愛模様もあるがそれはサブ的要素で、主に登場人物たちの関係性の変化がヘルシーな空気感で描かれるのがよい。 

     中でも面白いのは、主人公が“意図せずタイムスリップする特異体質”になってしまうという設定。いわば、タイムスリップを超能力のひとつとして描いているのだ。 

     作中に「あなた自身がタイムマシンみたいなもの」というセリフも出てきて、「タイムマシンガール」という作品名もドンピシャ。ジャンル的に、タイムスリップものと超能力ものの要素を併せ持っているとも言える。 

    ©2025 イナズマ社

     加えてムー目線で興味深いのが、「時空の綻びを調査する公務員」と「タイムマシンの開発を目指す発明家」の存在である。以下、順番に説明していこう。 

    タイムパラドックスを無視しない絶妙なバランス 

     まずは「時空の綻びを調査する公務員」から。 
     作中で、この公務員は「日本超自然科学総合研究機構」という、科学的な根拠では説明できない現象を研究する団体に所属していることが説明される。 

     彼は、タイムスリップした人間の周囲で発生する時空の歪みを探知する「空間保全課」の職員で、タイムスリップした本人に接触するのを職務としている。相手に「時空の歪みが大きくなるとこの世界が崩壊してしまう危険性があること」を伝え、今後はあまりタイムスリップしないように警告するのが仕事らしい。 

    ©2025 イナズマ社

     ……と、まあここまでは、いかにもSF映画にありがちなキャラクターなのだが、この彼がサラッと言ったセリフが興味深かった。以下、意訳で記載する。 

    「昔からタイムマシンを作ろうとしている人は多く、そのうち何人かは実際にタイムスリップに成功しており、時間を行き来したことのある人の存在が確認できている。ただ現状は、過去に戻って歴史を変えるなどの大きな事象にまでは至っていないので、何とかなっている」(注:筆者意訳) 

     そう、これ、タイムスリップものに付きもののタイムパラドックス、つまり「過去を変えることで歴史が変わってしまう」といった矛盾が、“今のところたまたま起きていない”ということをしっかり説明しているセリフなのだ。
     わざわざこの細かい要所を言ってくれるという、タイムパラドックスを無視しない絶妙なバランス感覚。タイムスリップ欲をこじらせる我々の思いを、優しく包み込む丁寧さである。 

     加えて「実はタイムスリップに成功している人は何人かいるけど、公になっていないだけ」というのも、普段我々が未来人のニュースに触れるときの認識そのものだ。いちムー民として、情報の出方に親近感が湧き、一気に作品に引き込まれるポイントではないだろうか。 

    人によってタイムスリップのパターン違いがあることを示唆 

     そしてもうひとつ重要な登場人物が、「タイムマシンの実験が失敗して2人に増えてしまった発明家」だ。これがまた興味深い。 

     簡単に説明すると、この発明家はタイムスリップ技術の発明に成功して過去に行ったのだが、たどり着いた過去の時間軸に存在する自分と鉢合わせしてしまった。しかも、そのまま元の未来に戻ることができなくなったので、自分が2人存在する世界になってしまったのだという。 

    ©2025 イナズマ社

     つまりこれは、「自分ひとりだけが過去の一点に戻るタイムスリップ」だから起こるパラドックスを描いている。 

     しかし主人公の場合は、「主人公(と主人公を驚かせた人)だけが記憶を持ったまま世界全体が巻き戻っているタイムスリップ」なので、このタイムパラドックスは起こらない。 

     そう、本作は、「人によってタイムスリップのパターンが異なる設定」なのだ。これがかなり面白くて、間違いなく見どころのひとつと言えるだろう。作中でも、しっかりその違いに言及している。タイムスリップのパターンに合わせて、起こるパラドックスと起こらないパラドックスを整理してくれているのだ。 

     過去には、劇団「ヨーロッパ企画」の芝居を映画化した「サマータイムマシン・ブルース」(2005年)のように、タイムパラドックスを逆手にとって演出に生かした例もあったが、本作の場合、タイムパラドックスの種類そのものついて作中で可能性を示唆しているのがユーモラスである。 

    実はあの有名監督も出演 

     そんなわけで、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」40周年の今年誕生した日常系SF映画「タイムマシンガール」は、2025年1月25日から池袋シネマ・ロサにて公開。上述の通り、タイムパラドックスを無視しない絶妙さが見どころなので、ぜひ注目していただきたい。 

     ちなみにメインキャスト以外でも、アイドルグループでんぱ組.incメンバーの鹿目凛や女子プロレスラーの安川結花/惡斗のほか、俳優・遠山景織子が特別出演していたりと、脇も豪華。主人公たちがプロレス観戦するシーンではアクトレスガールズが全面協力し、劇中で素晴らしい試合を提供している。
     またホラー映画ファンにとっては、「呪怨」シリーズで有名な映画監督・清水崇がちょい役で出演しているのも見どころ。全くホラー感のないシーンでいきなり出てくるので、見逃さないでほしい。 

    ©2025 イナズマ社
    ©2025 イナズマ社

    映画「タイムマシンガール」
    公式X https://x.com/timemachinegir1

    杉浦みな子

    オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。
    音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀…と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハー。

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