四国の鳴門で名画の不思議と神秘を鑑賞体験! 大塚国際美術館は「ムージアム」だった

文=健部伸明 写真=土橋位広、健部伸明

関連キーワード:

    名画には、謎がある。徳島の大塚国際美術館はムー的視点でも楽しめるスポットだ。

    山中に作られた広大な西洋美術空間

     徳島阿波おどり空港に降り立ち、バスに乗り換えた先……鳴門の大渦さかまく海辺に、世界にも類例のないその美術館は存在していた。瀬戸内海国立公園の山を刳りぬき、1000点を超える名画を収納した秘密基地のような場所。その名も大塚国際美術館。入口で出迎えてくれる万国旗は、展示に協力してくれた博物館/美術館のある各国を表している。その数、実に26か国!

    国立公園の山の内部に作られているため、入り口からエレベーターを上がった展示フロアが地下3階となる。

     その門をくぐると、夢ような芸術空間へと続く長大なエスカレーター。

     それを登りきった先で目に飛びこんでくるのが、爽やかな青空のごときブルー。かのミケランジェロ・ブオナローティ晩年の傑作《最後の審判》壁画である!

    システィーナ・ホール。

     中央に浮かぶ筋肉質の(グレコ=ローマン風の)イエスを軸として、左は天界への昇天、右は地獄落ちが細やかに描かれているが、どちらも上部が半円状に凸っている。実はこの形状は、預言者モーセがシナイ山で神から授かった十戒を刻んだ石板と同じだ。
     足が赴くまま、そのままシスティーナ・ホールと呼ばれるこの空間に入っていくなら、今度は天井画に目を奪われる。同じくミケランジェロの作で、主に《創世記》を題材としている。その絵にも、画家が仕込んだ数々の謎が秘められているようである。

     実はこの部屋は、ヴァチカンにあるシスティーナ礼拝堂の壁画をリアルスケールで再現したものだ。そしてそのシスティーナ礼拝堂は、聖書に記録されているエルサレムのソロモン神殿の設計どおり、寸分たがわず建てられたもの。

     すなわち十戒石が収められたソロモン神殿に、世の始まりと終末が同時に納められているわけで、ぼくのように神秘好きな輩にとっては、このウロボロス的な空間で、ディテールをひとつひとつ細かく見ながら何時間でも過ごせてしまう。これは実は、ヴァチカンでは絶対に叶わない贅沢だ。時間単位で区切られて追い出されてしまう。

     さらに言うなら、この大塚国際美術館では一階上にも窓と通路がしつらえられ、さらに近くから天井画や壁画を目の当たりにすることができるのだ。

    作品そのものでなく、現地の空間そのものが体験できる場所だ。

     なおここはイベントで演劇やコンサートの会場として使われることもあり、2018年の大晦日に米津玄師が「Lemon」を歌った、あの場所でもある。

    題材や時代でまとまった作品を見る、知る、感じる

     このように大塚国際美術館では、単に絵を飾るだけではなく、現地と同じ環境を再現して全身で体感できる空間を作りだす「環境展示」が、下記のように12もある。これが大きな特色のひとつだ。

    B3・展示室1・作品No.1《システィーナ・ホール》システィーナ礼拝堂天井画および壁画
    B3・展示室3・作品No.4~6《エル・グレコの部屋》「聖マウリティウスの殉教」「オルガス伯爵の埋葬」「エル・グレコの祭壇衝立復元」
    B3・展示室4・作品No.137《聖マルタン聖堂》壁画
    B3・展示室5・作品No.138《聖ニコラオス・オルファノス聖堂》壁画
    B3・展示室6・作品No.7「秘儀の間」
    B3・展示室7・作品No.8「鳥占い師の墓」
    B3・展示室8・作品No.9「貝殻のヴィーナス」
    B3・展示室17・作品No.139《スクロヴェーニ礼拝堂》壁画
    B3・展示室20・作品No.152《聖テオドール聖堂》壁画
    B2・展示室57・作品No.483《モネの「大睡蓮」》
    B1・展示室59・作品No.495《ゴヤの家》「黒い絵」
    1F・展示室91・作品No.966《ストゥディオーロ》「フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロのストゥディオーロ」

    環境展示「ゴヤの家」。

     この一覧を見てわかるように、我々が入った階層は地下3階で、実は古代から中世の展示が中心。ただしミケランジェロだけがルネサンスで、エル・グレコだけがバロック期の作品である。
     これがB2になると、ルネサンスとバロックの展示が主で、モネの「大睡蓮」のみ近代。
     B1は近代のフロアだが、ゴヤだけがバロックである。

     地上まで出ると、1階と2階は現代絵画が中心だが、下記のように時代を横断して、同じ題材で絵の変遷を比較できる「テーマ展示室」も多い。

    1F・展示室90&92・空間表現
    1F・展示室93・トロンプ・ルイユ(だまし絵)
    1F・展示室94・時
    1F・展示室95&96・生と死
    2F・展示室97・食卓の情景
    2F・展示室98・家族
    2F・展示室99・運命の女
    2F・展示室100・レンブラントの自画像

    テーマ展示「運命の女」。

     これ以外は「系統展示」で、同じ時代の近いテーマの作品が、主に同じ部屋に飾られている。そのなかでも特に系統がはっきりしている部屋を幾つか列挙してみたい。

    B2・展示室28&29・受胎告知
    B2・展示室31・ラファエロ「アテネの学堂」「聖体の論議」
    B2・展示室32・聖母子
    B2・展示室34・キリストの受難
    B2・展示室36&37・ヴィーナスおよび愛の部屋
    B2・展示室39・ブリューゲルの世界
    B2・展示室41・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」「岩窟の聖母」
    B2・展示室45・祭壇画
    B2・展示室46・ダ・ヴィンチ「モナ・リザ」その他
    B2・展示室48・レンブラントの部屋
    B2・展示室51・ベラスケスの部屋
    B2・展示室53・リュベンスの部屋
    B2・展示室54・フェルメール・ギャラリー
    B2・展示室56・グロッタ
    B1・展示室60・ゴッホ、7つのヒマワリ
    B1・展示室68・印象派の大通り
    B1・展示室80・北欧の部屋

    系統展示「リュベンスの部屋」。

     なお、全展示作品リストはここからダウンロードできる(リンク先はPDF)。

    陶板で再現された本物

     さて後ろ髪引かれつつ、話の起点であったミケランジェロの《最後の審判》に背を向けてシスティーナ・ホールを出ると、左には音声ガイド貸し出しコーナー、ミュージアムショップ、コインロッカー、トイレなど、お役立ちエリアがある。

     逆に右を見ると、インフォメーションと、《アルルのゴッホの部屋》(B1・展示室73)を再現したフォトスポットを併設したカフェ・フィンセントがある。またその付近で、大塚国際美術館のアイドル、ペガっちが出迎えてくれて癒される(2025年3月30日まで)。

    ペガっち認知度UPキャンペーンを開催中。

     かなり広い美術館で、単純に歩く導線だけでも4㎞を超えるそうだ。各所に腰を下ろせるスペースや、カフェやレストランがあるので、無理せず休憩しながら進みたい。

     B2では、モネの「大睡蓮」が大池の中央で屋外展示になっており、それらをゆったりと眺められる位置にカフェ・ド・ジヴェルニーがある。貝殻に載ったヴィーナスカレーや、日替わりのネタが嬉しいうずしお海鮮丼、アートにちなんだスイーツなどを楽しみたい。

    名画「大睡蓮」の展示場所には睡蓮の池がある。
    陶板なので、屋外展示でも劣化しない。これも大塚国際美術館ならでは特色だ。

     B1には飲食店はないが、ゴッホの「7つのヒマワリ」付近のヒマワリのソファや、「ゴヤの家」と近代美術エリアを結ぶ星月夜ロードなど、雰囲気ある休憩スペースが魅力だ。また1Fには、花壇やブランコなどが設置された庭園があり、ゆったり過ごすことができる。

     こんな館内に満たされた古今の西洋絵画は、みな版権を獲得して原寸大に制作された公式レプリカだ。
     材質は、陶器の板。この陶板に正確に転写された絵は、年月によって劣化する原画と異なり、今後2000年は品質が変わらないという! その色だけではなく、油絵などは盛り上がりの立体まで忠実に再現してある。ピカソやミロの子孫などは、直接その目で仕上がりのクオリティを確認し、お墨付きをいただいているほどだ。

     他にもこの美術館ならではのいいところが、たくさんある。

     たとえばダ・ヴィンチの大壁画「最後の晩餐」は、オリジナルは修復が済んでおり、その前の姿は古い美術書などを見るしかない。ところがここでは、修復前と修復後の両方が対面に飾られており、両者を詳しく比較してみることができる。

    修復前と修復後の「最後の晩餐」を見比べできる。ムー的にはダ・ヴィンチの暗号について読み解きが捗る部屋だ。

     また「エル・グレコの祭壇衝立復元」は、原画は分割されて別々の美術館にあるのだが、ここではすべてまとめて本来あったとされる祭壇の姿で再現してあるし、他にも焼失したゴッホの「ヒマワリ」なども見ることができる。

     なによりも素晴らしいのは、過去から現在までの名画が一か所に集まっているおかげで、絵画に対する総合的な理解が、短い時間で感覚的に体得できるところにある。まあ短いといっても、一日で全作品を鑑賞するのは不可能だろう。何度か来たくなるはずである。
     また個人的な利用に限り、ストロボ・フラッシュや三脚など固定器具を使わなければ、館内で撮影できる。自宅で余韻を楽しんだり、拡大して細部を確かめたりできるわけだ。
     そして、ここで何かを感じてもっと追求したくなったら、オリジナルの絵を求めて海外に飛べばよい。

    ムー的な視点で名画を観る「ムージアムガイド」

     これだけでも素晴らしいのに、なんと去る9月18日、大塚国際美術館は、我らムー編集部をわざわざ招待してくれた。

    「館内を自由に見て回ってください。『ムー』の視点で、名画の更なる価値を掘り起こしてください」

     なんという太っ腹! なんという寛容さ!

     そういえば『ダ・ヴィンチ・コード』の頃から色々と話題になっているが、どうも西洋の名画には色々と暗号が隠されているらしい。また時々、怪しい存在も描かれていたりするという話も聞く。

     我らムー編集部の好奇心がむくむくと持ち上がり、やる気に火がついたのは言うまでもない。そして改めてそういう目で見ると、あるわあるわ! どうも歴史の裏側に入ってしまったような経験である。

    「この知見を広く知らしめるために『ムー』独自の視点での案内冊子を作るしかない!」

     ……というわけで、まずはあやしい(はたまた神秘的な)謎を秘めた12作を厳選してみた。冬休み期間中、館内にこの冊子、その名も「ムージアムガイド」が置かれるはずである。
     皆さんもこれを手に、館内神秘巡りをしてみてはいかがだろうか? むろん、これに収めきれなかった謎は、まだまだ大塚国際美術館のなかにたくさん散らばっている。「新たな秘密、見つけたぞ!」というかたは、是非ともムー編集までご一報を!

    <実施概要>
    ◇配布期間 2024年12月1日(日)~2025年3月30日(日) ※休館日を除く
    ◇配布場所 地下3階 インフォメーション
    ◇配布数  各日200部限定(非売品) ※お一人さま1部、なくなり次第終了
    ◇仕様   A5版8ページ(表紙・裏表紙含む)

    冊子「ムージアムガイド」
    ステッカーはこのサイズ!
    会場にはフォトスポットもある。

    健部伸明

    青森県出身の編集者、翻訳家、ライター、作家。弘前文学学校講師。

    関連記事

    おすすめ記事