恐怖の訪問者を迎え撃て! 都市伝説にアクションで挑む映画『オカムロさん』インタビュー

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    10月14日より全国公開がはじまる映画「オカムロさん」。 名前を知った者の首を狩りに現れる怪物「オカムロさん」と、愛する人を殺された主人公たちとの戦いを描くバイオレンス・バトルホラーだが、オカムロさんにはモデルとなった都市伝説がある。 「オカムロ」とは何者なのか、何のために首を狩るのか……?

    検索厳禁! 謎の都市伝説「オカムロ」とは?

     都市伝説「オカムロ」「オカムロさん」をご存じだろうか。
     1990年代はじめ頃から囁かれはじめたと思われる都市伝説で、オカムロという謎の怪人が夜中に家を訪ねてきてノックをする、もしもそれに反応してしまうと命を奪われる、そしてこの話を聞いた人のもとにもオカムロが訪れる……という比較的シンプルな怪異情報、うわさ話だ。
     それがネット時代に入ってオカルト板などで再び注目されるようになり、「うちに来たことがある」という体験談が多数登場したり、さまざまなディテールが加えられたりして現在に至る。
     その「オカムロ」が映画になるとは……? 松野友喜人監督に聞いた。

    ——(編集部)映画でのオカムロさんは、その名前を検索するとどこからともなく現れて、問答無用で首を狩る正体不明の怪人・怪物という設定ですよね。映画化するにあたって、監督はオカムロを何者として描いたのでしょう? つまり、監督にとっての「オカムロ」とは?

    謎の怪物「オカムロさん」。

    松野友喜人監督 オカムロについて詳しく調べはじめたのはこの映画の話をいただいてからなんですが、web上にある情報は「笠をかぶっていて着物をきている」「首を狩られる」「対処方はオカムロと唱えること」という要素程度で、ビジュアル的に参考になるものも限られていました。そもそもオカムロ自体が「知る人ぞ知る都市伝説」というくらいの知名度で、情報の絶対量が少ない。
    でも、だったら逆にいちからオカムロを作り上げられるんじゃないかなと思いました。デザイン面では、映画のストーリーを練っていくうちにアクション要素が多くなってきたので、ならばオカムロも実際に戦えるような装備にしようという意図を入れつつ、笠も菅笠よりも虚無僧のかぶっている笠のほうがいいんじゃないか……というように、デザイン担当の方と話し合っていきました。
    なので、まずビジュアル面では大きく参考にした資料があったのではなく、漠然とした情報から練り上げたという感じです。裏設定的な話なんですが、映画の作中でも世間的なオカムロさんのイメージは錯綜していて、菅笠をかぶっていると思っている人もいる、ということになっています。

    90年代はじめにささやかれた当時の「おかむろ」のイラスト(画像=実業之日本社刊「マイバースデイ平成2年8月増刊号」(左)、「マイバースデイ平成元年8月増刊号」(右)より引用)

    ——首を狩るという設定は90年代のオカムロにはなかったのですが、ネット上にそうした情報があったんですね。

    松野 そうですね、ネットで調べていて出てきたものだったと思います。初期のオカムロにはなかったんですね!

    ——オカムロは妖怪の大禿(おおかむろ)と関連づけて話されることもありますが、カムロ=首という連想で、ネット怪談のなかでそんな設定が生まれた……という説も考えられそうです。

    松野 ビジュアルもあいまい、話も「ノックに反応すると死んでしまう」程度のシンプルさ。ただその「首を切られてしまう」という情報にたどりついたので、じゃあ相手が刃物で襲ってくるなら物理的に戦えるじゃん、ということろから発想が膨らみました。物理でくるならこっちも物理で倒せるんじゃないかと。

    ——なるほど、たしかに相手が貞子や伽倻子だったらこの映画みたいな戦い方はできないですね。ホラーでありながら、ヒトコワにもなりうるのが「オカムロ」ということですね。

    松野 「オカムロ」という名前をはじめてきいたときに、その響きからでは怪人なのかモンスターなのかさえわかりませんでした。「オカムロ」って、すごく人っぽいじゃないですか。でも、だったらそのどちらの属性も盛れるんじゃないか、とイメージしていったところもあります。

    物理でオカムロさんに立ち向かう! 主演の吉田伶香さん(右)と伊澤彩織さん(左)。

    「オカムロ」造形はゼロからのスタート

    ——お話を聞いていると、「オカムロさん」は監督発信の企画ということではない?

    松野 はい、きっかけは角由紀子さんから「オカムロさんテーマの映画をつくるんだけど、やらない?」と声をかけてもらったという流れです。大学時代につくった卒業制作の映画で賞をもらったんですが、角さんがそれをみていてくださって。
    そこからオカムロを調べ始めたんですが、検索したらいきなり「検索してはいけない」ってでてきて、ダメじゃん、と(笑)。そんな予備知識ゼロのところからはじめました。むかしから都市伝説は好きなんですが、オカムロって本当に情報が少ないんですよね。

    ——やっぱり怪談や都市伝説はお好きだったんですね。監督はいま23歳とお若いですが、世代的に子どもの頃はどんな話が流行ってたんでしょう?

    松野 小さい頃から水木しげるさんの漫画を読んでいましたし、都市伝説も好きでした。ただ、僕は小学校1年生から中学1年生までを台湾と上海で過ごしていて、そのあいだ日本のものは見られなかったんです。ポケモンもピカチュウしか知らなくて、同世代トークが全然できないくらいです。
    当時の中国では日本語で見られるものがかなり限られていたので、観るものといえばビデオ屋で購入した『13日の金曜日』などのDVDや、テレビで放送していたカートゥーン作品。今考えるとDVDもちゃんとした版権モノだったのか怪しいんですが(笑)。
    その後日本に戻ったのが中学1年の途中なので、ちょうど10年前くらい。ネットで都市伝説などを見るようになったのはそれからです。

    ——リアルタイムでないからこそ逆に、いわば時代を乗り越えたベストセレクション的な怪談、都市伝説を楽しんでいたんですね。映画を拝見して、どこか日本映画の雰囲気とも違う独特なものを感じたんですが、そうした監督のバックグラウンドが関係あるのかもしれませんね。

    松野 都市伝説はある意味ごちゃ混ぜというか「なんでもアリ」なので、その雰囲気にうまくハマったのかもしれませんね(笑)。そういえば昔の台湾の報道って、グロいと表現していいのか、日本では考えられない事故現場の映像なんかもバンバン流れていて……そういう耐性? 経験も僕のなかに刷り込まれているのかも。

    松野友喜人監督

    撮影現場で発生した怪現象

    ——ところでホラー映画といえば……ですが、撮影中になにか変なことが起こったりしませんでした?

    松野 それが……あったんですよ。
    僕は演者として、六平直政さん演じる刑事の部下役で出演もしているんですが、そこで手についた血糊を拭くシーンがあるんです。
    監督も兼務なのでいろいろ準備をして、カメラを回して問題なくリハが終わったんですが、撮影終了後メイクさんが「あれ? 私、血糊のメイクしましたっけ……? してないですよ」って。
    メイクさんがつけた記憶がないのに、僕の手には血糊がついていた。そこで確認したら、さっくりと手が切れて血が出ていたんです。血糊じゃなく、本物の自分の血だったんですよ!
    リハーサルとはいえしっかり準備しますから、うっすら血がにじんでいたとかではなく、違和感なくカメラ回してしまうほどの量の血が出ていたんです。さすがに本番ではメイクで血糊つけたんですが、その血糊の下には、ぬぐいきれなかった僕の血が……。
    もちろんその現場には刃物はないですし、危険な演出もなく、切れる理由が思い当たらないんです。

    ——それは本当の怪現象ですね!

    松野 ただ、「手かよ。首じゃないんかい」とはちょっと思ったんですが (笑)。それにしても、首狩りの映画で、自分が出演する短いシーンで出血なんて、偶然だったとしてもすごい確率じゃないですか……。それを考えるとゾクっとしましたね。

    取材後※監督によるとこの出血した手をスチールカメラがおさえていたはずだというので、インタビュー後制作サイドに写真の存在を確認してもらったのだが、「発見できず」との返答が。怪異の瞬間をとらえた決定的な一枚は、いったいどこに消えてしまったのだろう……

    ——そのあとお祓いはしたんですか?

    松野 実は、映画でお坊さんを演じている内田寛崇は本物の僧侶でもあって、彼にお祓いしてもらいました。長い付き合いの友人でもあるんですが、作品のお寺のシーンも彼の実家のお寺で撮らせてもらっています。護摩壇の場面もあるんですが、それも本物なんですよ。

    僧侶役で出演した内田寛崇さんは本職の僧侶でもある。

    ——本物のお坊さんがキャストだったんですか!

    松野 彼は僧侶をしつつ映像作家もやっていて、役者も、というマルチな人間です。霊的な経験もたくさんあって、修行中にもいろいろホラーな体験してるそうですよ。

    ——それはぜひ、別途お話をきいてみたいですね。

    必見の名優生首怪演!

    ——最後に、映画でここは観て!おすすめです、という場面があれば。

    松野 ネタバレしない範囲でいえるところだと、やっぱり首狩りシーンです! 正面から首狩りにチャレンジしているので、ぜひ観てほしいです。今回CGもほぼ全て自分で製作しているんですが、いろいろなパターンで30人くらい首を飛ばしてます。R15指定の範囲内での限界を攻めて、満足してもらえる首狩りにできたな、と思っていますので、ぜひ!

    ——さすが「生首ホラー」。なかでも特に印象的な「首」はありますか?

    松野 そうですね、一番印象的だったのは六平直政さんです。
    現場で六平さんに「どんな表情がいいですか」と聞かれて、インパクトのある表情をお願いしますといったら、10以上あるけどどれがいい?って。で、じゃあ今から10個やるからそこから選んで使ってよ、と10テイク全て別の表情の生首を演じてくださったんです。
    そのなかから1つを選んで本番に使ってるんですが、残りの9個も本当にカットするのがもったいなくて……ベテラン俳優さんのすごさを感じました。
    そのくらい最高の表情を選んでいるので、六平さんの生首、注目してください!

    刑事役の六平直政さん(左)と、部下役で出演する松野監督(右)。

    松野 あと、これはちょっとした願望なんですが、もう20年くらい経ったら、この映画のオカムロさんイメージが「オカムロ」なんだって定着していたら面白いなと考えています。オカムロって虚無僧の笠をかぶってるんだよ、すごい武闘派なんだよ、とか。

    ——まだ「オカムロ」情報が少ないので、今後のイメージに影響はありそうです。

    松野 いいですね(笑)。どんどん広がっていってほしいです。そうやって話が取り入れられ、盛られてふくらんでいくのが都市伝説だとも思っているので。映画のオカムロが都市伝説の一部になったらいいな、面白いなと。
    映画公開後に都市伝説としての「オカムロ」の設定がどう変わっていくのか、この作品がどう影響していくのかすごく楽しみです。オカムロの知名度ももっとあがって、いつかこの映画とは全く関係のない人から「そういえばオカムロって知ってる?」なんて聞かれたら嬉しいなーと、そんなことを想像しています。

    映画「オカムロさん」
    10月14日(金)より ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
    監督:松野友喜人/出演:吉田伶香 バーンズ勇気 伊澤彩織 ほか

    https://okamurosan.com/

    webムー編集部

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