「明けの明星と邪神カカセオ」ムー2023年5月号のカバーアート/zalartworks
「ムー」2023年5月号カバーアート解説
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怪談芸人コンビ・ナナフシギのベスト怪談を収録した『列島怪談』が発売された。霊感と考察とお笑いがミックスされた「おもろこわい」ナナフシギ怪談スタイルについてインタビューする。
太田プロ所属の芸人だが、活動は怪談、都市伝説がメイン。怪談コンビ「ナナフシギ」(大赤見ノヴ氏・吉田猛々氏)の著書『ナナフシギの最恐ベストセレクション 列島怪談 あなたの地域の一番怖い話』(以下、『列島怪談』)が刊行された。
父親が元僧で自身も「霊感」がある大赤見と、「ムー」の愛読者でUMAや都市伝説についての「考察」を楽しむ吉田が織りなす不思議な話は、書籍化以前からYouTubeや怪談イベントで話題を呼んでいる。
今回のインタビューでは、書籍の構成の秘密、知られざるナナフシギの謎、そして怪談まで盛りだくさんに語っていただいた。
――今回の新著を『列島怪談』というコンセプトにしたのはどうしてでしょうか?
大赤見 ノヴ氏(以下、大赤見) ナナフシギにかけて列島を7つのエリアにわけた構成にしています。
吉田 猛々氏(以下、吉田) 「北海道」「東北」「関東」「中部」「近畿」「中国、四国」「九州、沖縄」の7地域のご当地怪談を紹介しています。
――「ナナフシギ」にかけて「7地域」。本書に掲載されている怪談はYouTubeの視聴者投稿からの構成なのでしょうか?
大赤見 僕は若干「霊感」があるので、僕の体験談込みで載せています。
吉田 多くは投稿していただいてものを構成してYouTubeで話して、それをまた原稿にしています。
吉田 地域によって多い少ないのバラつきはありましたね。その中でどうバランス良く割り振るかを考えました。
大赤見 僕と吉田さんでは、怪談のしゃべり方もキャラクターもまるで違うので、投稿してくださる方もどっちに読んで欲しいのか、指名があったりします。自然とふたりで怪談の種類も違ってきますね。
吉田 僕に送っていただく怪談で多かった地域は、北海道、東海、九州が多かった感じがしますね。
大赤見 僕は東北と沖縄が多かったですね。東北とか沖縄の方から送っていただく怪談は、強烈ですね。それに、ちゃんと際立った話の構成ができているというか、怪談として完成度の高いものが多いですね。
吉田 僕は霊感がないんです。ないがゆえに不思議なことを調べるのが好きなんですよ。心霊現象があった場所の歴史的背景を調べるのは定番です。僕宛ての怪談投稿は「考察」系が多くなりますね。
大赤見 僕に送られてくる話は「こんな怖い体験したのですが、ノヴさんならどう感じますか?」というのが多いです。「霊感」系の怪談というか、まさに体験談。僕もそういう怪談に対しては若干スイッチを入れるんですよ。
――それは、投稿内容の背景などを霊感でも読み取る、ということですか?
大赤見 本気を出せばその人が体験したであろうことを、同じビジョンで見ることはできます。ただ、めちゃくちゃ疲れますけれどもね。だからあまり深入りはしたくないんですよ。その怪談の内容が強すぎると、霊障を受けたりする場合があるんです。
――現場や呪物でなく、投稿された話だけで霊障があるとは、受信力が高いですね。
大赤見 僕の中でうまく話せない怪談が3本あるんです。けれど、それらは決まって神様を扱っている話なんです。
―― 話せない? どういう状況になるのでしょうか?
大赤見 怪談をしゃべっていたら、急に言葉を抜かれたようになって止まってしまうんです。そんなこと普段は絶対にないのに。
吉田 三峯神社の狼にまつわる話で、確かにものすごい長編でいろいろ入り組んだ怪談なんですが、僕ら芸人ですし、長いネタでもなんでもしゃべりはできますよ。体調が悪いとか調子が良くないとかそういう感じではなくて、でも、何度も止まって、YouTubeでも撮り直したよね。
――話の一節が抜ける、みたいな感じでしょうか。
大赤見 イメージを表現すると……ワープロとかパソコンで文字を打ってるみたいに、しゃべっている時にはタカタカタと脳みその中で文字が打たれてるんです。けれどもそれが急に止まってしまう。何らかの言葉を思い浮かべたら、そこから話を繋げることができるんですが……「言葉を取られた」とか「文字を奪われた」感覚ですね。とにかく言葉が出てこないんですよ。
吉田 この怪談自体に何かあるのかもしれないなと思いました。
大赤見 バラバラですね。なので、その怪談の時は6テイクぐらい撮り直しをしました。
吉田 この怪談事態には何かあるのかもしれないなと思いました。
――本書の中で最も障りが強いと感じる話は何でしょうか?
大赤見 僕のパートだと「廃病院」です。自分が高校生の時に体験した話なんですが。
吉田 その廃病院をネットで検索しても情報がまったく出てこないというのが不思議ですよね。
大赤見 木造で雰囲気がある廃病院でしたね。でも思えば当時から変だったんです。だって「旧◯◯病院」という名前の病院ですよ。建ってる状態で「旧」ってつけないでしょう。
――確かに!
大赤見 僕らのイベントに来てくれたファンの方がその廃病院について調べてくれたんですけど、そしたら「いくつか候補がある。でも火事になって跡形もなくなっている」という。でもそれ以上の情報が出てこないのです。
――理不尽、不可解、未解決など怪談の怖さですが、考察をするかしないか、分かれますよね。考察を一切しない人もいれば、本文の中に織り込む人もいます。本書「列島怪談」は、臨場感のある怪談パートの後に、我に返るような明るめのテンションで「考察」トークが入る構成です。
吉田 YouTubeの中でも怪談を語った後に2人で話しているので、その雰囲気のままですね。
大赤見 それが僕たちの味でもあるんですけど、「お前もっと真面目にしゃべれ」とかコメントがくる時もありますが(苦笑)
吉田 怪談を楽しみたい人の中には「答えを出さないで放り投げて欲しい」という人もいますしね。でも、僕たちは真面目さもありつつ根っこは芸人なので、ちょっと笑える要素も入れて考察をするのが特色なのかなと思ってます。
――――お笑い芸人のナナフシギが怪談をやる、というスタンスがしっかりあるんですね。
吉田 僕はものすごく「ムー」が好きで、16歳の頃から読んでいるんです。最初に読んだ「ムー」に鬼塚五十一先生の「モーツアルトはフリーメーソンだった」という記事が載っていたのを覚えています。現在、44歳なんですが、今でも買い続けていて、本誌と一緒に付録もきちんと保管しています。いろんな風習、伝承とかを全部僕は「ムー」から学びましたね。
――本書「列島怪談」に掲載されている吉田さんのお話の中で、家系図から縦と横につながる関連、法則を読み取るというエピソードがありましたが、そういう考察視点が「ムー」読者らしいと感じます。それと、「東京の杉並区に即身仏がある」という話は驚きました。
吉田 投稿された怪談にかなり詳しく書かれていたのですが、即身仏が東京の杉並区2丁目にあったという伝承が杉並区の資料を調べていたら出てきたそうなんです。
――怪異が伝承と一致したわけですね。
吉田 なので気になって自分でも調べたら、地域伝承で「杉並区◯丁目に土中入定した実際の歴史がある」と書かれてあったんです。投稿くださった方の体験談や杉並区の資料と実際に出版された書籍との情報が一致したのですごく整合性がある怪談でした。
――「霊感」と「考察」の怪談コンビですが、なにしろ、怪談を語るためにコンビ名を「ナナフシギ」にしたんですよね。
大赤見 僕はけっこう昔から怪談をやっていたんですよ。でも前のコンビの相方とか周りの人たちからは「テレビのゴールデンタイムのバラエティに出にくくなる」と反対されていました。でも怪談だって怖い話もあれば、悲しい話もあるし、いい話もある。バラエティに寄せた怪談もできると思いながらやっています。
吉田 2018年の8月に結成するまで、大赤見さんと僕は違うコンビで活動していました。けれど、コンビが違っても仲が良かったんですよ。お互いにオカルトが好きで、彼は怖い体験をしているし、僕は体験をしていないけれど怖い話が好き。そんなところで息があったんですよね。
大赤見 今から10年ぐらい前に、別々のコンビで活動していた頃、吉田さんとネットラジオを勝手にやっていたことがあったんです。 その時やってた内容というのが今の YouTube みたいな感じなんですよ。ふざけながら怖い話をしたりしていたんですよね。
吉田 プラットフォームが変わっただけでやっていることは同じですね。時代が変わってやっと僕らも評価してもらえるようになったのかなと。怪談で注目してもらえるようになりましたが、僕らは怪談を語るとき、怪談師のスタイルを意識していないです。今までお笑いで培ったしゃべりをベースに語っています。
――お笑い芸人としての話芸が生きているわけですね。
大赤見 お笑い芸人で売れるのは本当にしんどいというのが僕らは染み付いています(真顔)。王道のお笑いでなく、何か違う路線で活動するうえで、僕らにとっての武器が怪談でありオカルトなんです。僕らは怪談やオカルトと笑いを分けずに「ナナフシギ」という「おもろこわい」ジャンルを作りたいのです。
――怪談本の「あるある」ですけど、本書「列島怪談」の制作中に怖い体験とかありましたか?
吉田 夏ぐらいにこの本の詰めの作業があったのですが、僕の体調が悪くなったので、霊が視える人に視てもらったんです。そしたら、「肩の所に死んだ女性の霊が憑いている」と言われました。
「その女性は何をするわけでもなく、ただそこにいたいからいているだけ。吉田さんのところにとまり木みたいな感じでいるので、もう少ししたらどこかに行くから大丈夫ですよ」と言われたんです。
でも、その時は体調がめちゃくちゃ悪くて心臓が苦しくて焦りました。
大赤見 僕にはその霊は視えていないのですが、吉田さんがおかしいことには気がついていたんです。何かに取り憑かれるとキャラクターが変わるんですよ。吉田さんと普通にしゃべっていたのに何かすごくムカついたので「様子がおかしいな」と思って探りを入れたら聞いたら「取り憑かれている」という話が出てきたんです。
吉田 それで大赤見さんに「最近さあ……」みたいな感じで話しました。そしたら「塩を舐めたらいいよ」と言われて「またまた!」と思いながら半信半疑でペロッと舐めたら本当に治ってしまったのです。塩って本当に効くんだなと思いました。
それで「ああ、やっぱりと思って「塩、舐める〜?」って(笑)。
――どんな塩なんですか?
大赤見 普通の粗塩です。
――大赤見さんは霊感がありますし、自身での怖い体験も多そうですね。
大赤見 神奈川の山神トンネルという有名な心霊スポットがあるんですが、そこには2つの噂があるんです。1つはトンネルを建設中の工事で作業員が1人亡くなっていて、その幽霊が出るというんです。そして、もう1つがこのトンネルの先の廃キャンプ場で女子高生の失踪事件があって、その幽霊が出るという。それで噂の山神トンネルに、僕は25歳ぐらいの時に吉田さんと一緒に行ったんです。その時、僕が体験したのは、トンネル内でズズズ……ズズズ……と何者かが這ってくる音を聞きました。そのときはそれだけだったんでけど、10年ぐらい経って、山神トンネルの話を後輩芸人にしたら、その後輩芸人も大勢で行ったことがあるっていうんです。そのメンバーで撮った写真に、謎の女性がハッキリ写っていたのです。これ、失踪した女子高生の霊なんじゃないか!?って騒然としました。
――話を裏付けるような写真。それは怖いですね!
大赤見 その心霊写真は、ナナフシギ公式のYouTubeにも動画として掲載しています。
※【閲覧注意】危険すぎてテレビで流せなかった写真【実話怪談】
――吉田さんは、ご自身の不思議な体験はありますか?
吉田 幽霊そのものを見たことはないのですが、幽霊にまつわる不思議な体験はあるんです。
僕の実家の隣に親戚のおばあさんが住んでいて、小さい頃、よくかわいがってもらっていました。
ある時、そこのおじいさんが亡くなったので、葬儀の間、おばあさんが飼っている犬の面倒を見るように頼まれたのです。
「一時間おきにエサを足したりして様子を見てあげて」と言われたので、僕と親父で一時間おきに犬の面倒を見に行っていたのです。そしたら親父が見に行ったタイミングで犬がいなくなってしまいました。人の手で外さないと絶対に外れないはずの犬に繋がっていた鎖が外されていて、どうしてなんだろう? って。
葬儀が終わって、おばあさんが帰ってきたので、「ごめんなさい。逃しちゃいました」と言おうと思ったら、おばあさんは「面倒を見るの大変だったでしょう? 今も元気にしてるから」と言うんです。
驚いて見に行ったら犬が鎖に繋がれて犬小屋のところに帰っていたんです。
あとで時間を確認したら、いなくなった時間というのが、いつもおじいちゃんが犬を散歩に連れて行っていた時間だったそうなんです。
――亡くなったおじいさんが犬を散歩に連れて行っていたわけですね!
吉田 それまで幽霊のことなど一切信じなかった親父もそこからガラッと変わりましたね。「ああ、この世にはわからないことってあるんだな」と言ってました。なので、そこから僕はもっとはっきり幽霊を見てみたいという興味もあります。
――いい話ですねぇ。こういう怪談もいいですね。
怪談なのに、どこか笑えてしまうインタビューだった。「霊感」ゆえの強烈な体験談と、「考察」の読み味。そこにボケ・ツッコミのコンビ芸が加わり、怪談と笑いが混ざっていく。
ナナフシギの2人は、「次は列島という大きなくくりじゃなくて、病院、廃墟、トンネルなど場所を絞った構成にも挑みたい」と語っていた。まだまだ「ベストセレクション」たる怪談がいくつもあるという。
ナナフシギならではの「おもろこわい」怪談をこれからも楽しめそうだ。
白神じゅりこ
予言・滅亡研究家。新感覚オカルトライター。滅亡系YouTuberとしても活動。
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